雅工房 作品集

長編小説を中心に、中短編小説・コラムなどを発表しています。

楽しみはタコの足

2010-04-25 17:15:34 | さても このごろは

さても このごろは、昔のことが しきりに思いだされる・・・


てて親が、ウリとかスイカとかナンキンなどを売りに行くと、わたしは一人で瓜小屋の番をしていた。
退屈しながら、虫を捕まえたり、草花を摘んだりして遊んでいたが、てて親が帰ってくるのが待ち遠しかった。


それは、町へ行った帰りの てて親の籠の中には、いつも何かおみやげが入っていたからなんだ。
てて親の姿を見ると、わたしは一番に籠の中を覗き込んだ。
たいした物など入っていないんだが、せんべい二、三枚か、干したタコの足一、二本か、ごくたまに飴玉もあった。


「咲は、いつも籠の中を覗きに来るから、何ぞ買って来んわけにはいかん」と、てて親は笑っていたが、わたしは、タコの足をしゃぶりながら、とっても幸せだったよ。

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風を追う

2010-04-25 17:14:46 | さても このごろは

さても このごろは、昔のことが しきりに思いだされる・・・


瓜小屋へよく行ったが、いつも てて親と一緒だった。
瓜小屋は、ウリやスイカなどを盗まれないように番をする小屋だが、木とむしろで作られた粗末なものだったが、わたしは好きだった。


夏休みも終わりに近い頃になると、大風に襲われることが時々あった。粗末な作りの小屋のため、大風ともなると激しく揺れ、とても怖かった。
すると てて親は、「ホーイ、ホーイ」と大声を張り上げて、風を追い払おうとするんだ。


その頃 てて親は六十歳近くで、当時としては年寄りであり、わたしも含めた皆からは「おじいさん」と呼ばれていたが、風を追う時には とても大きな声を張り上げていた。


今思えば、「ホーイ、ホーイ」と叫んだくらいで 風が他所へ行ってくれるはずはないが、その頃は、てて親の風を追う声を聞くと 不思議に安心することができたなあ。

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蕎麦を打つ

2010-04-25 10:47:21 | さても このごろは

さても このごろは、昔のことが しきりに思い出される・・・


里の家では、小麦も作っていたが、家でうどんを打つことはあまりなかったが、蕎麦は兄嫁さんが時々作っていた。


兄嫁さんは、石臼をごろごろと長い時間かけて蕎麦の実を挽いて粉にして、それを小さな声だが掛け声をかけながら練り上げていた。
それを、溜まり醤油で味付けした汁とネギを薬味に昼食や間食として食べさせてくれた。


兄嫁さんは恐い人だったけれど、あの蕎麦は美味しかった。
「おまんも、蕎麦の打ち方をしっかり覚えるんやで」と、蕎麦を打つのをいつも眺めていたわたしに、決められたせりふのように言っていた。


しかし、わたしは小さい頃に家を離れてしまったことや、その後も 所帯を持ったあとで蕎麦を食べる機会があまりなかったこともあって、とうとう一度も打つことがなかった。
兄嫁さんがあのように言っていたのに、もしかすると、わたしは大きな損をしていたのかもしれないと思うことがある。


 

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西山の狸

2010-04-25 09:54:25 | さても このごろは

さても このごろは、昔のことが しきりに思いだされる・・・


子供の頃のご飯のおかずといえば、まあ 畑で採れるものばっかりだったわ、な。
肉は食べることなど習慣としてなかったし、魚も塩漬けされたものか干物に限られていたが、それも、余程のことでもないと食べさせてもらうことはなかった。


わたしはニンジンが、あまり好きではなかった。
今のニンジンは食べやすくなっているけれど、昔のニンジンは金時ニンジンだから、ほら、雑煮に使う真っ赤なの、あればっかりだから、ニンジンが好きな子供は少なかった。


それで、食事の時、親たちの目を盗んで、おかずのニンジンを窓からよく捨てたものだった。
それを見つけられた時には、はは親は決まったように「ああ、どんどん捨てなはれ、西山さんの狸が食べに来るわ」と言っていた。


子供たちにとって、西山に住んでいるという狸は、とても怖いものだったけれど、わたしは一度も見たことがなかったなあ。

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子供は残酷

2010-04-25 09:51:00 | さても このごろは

さても このごろは、昔のことが しきりに思いだされる・・・


いたずらもよくしたなあ。


捕まえてきた虫を、穴を掘って入れて、持ってきていたお茶を飲むのを我慢して、その穴の中に流し込んだりして遊んだ。


いま思うと、かわいそうなことをしていたことだ。
わたしだけでなく、子供はあんがい残酷なもんだなあ。

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くやしい!

2010-04-25 09:50:05 | さても このごろは

さても このごろは、昔のことが しきりに思いだされる・・・


悪い人っているもんだなあ。
そう、よく行っていた瓜小屋で、一人で番をしていたときのこと。
ちょうどスイカの収穫の頃で、てて親は 採れたものを町まで売りに行っていた。

暑い昼下がりのことで、わたしは小屋に寝ころんでいたが、見知らぬ小父さんが、「スイカをもらいに来たよ」と親しげに話し掛けてきたのよ。


わたしが、てて親が出掛けているので分からないと言うと、
「お父さんには話しているので、一つもらって行くよ」
と言って、町にある料亭の名前を言いました。
そこは、これまでにも てて親がウリやスイカを売りに行っていた所なので、わたしは安心して畑を見てもらいました。


小父さんは、てて親がわざわざ残していた一番大きなスイカを取ると、持ってきていた風呂敷に包んで、「お金は、店の帳場に取りに来るように言っていたと、お父さんに伝えてくれ」と言って、にこにこしながら帰って行った。


てて親が帰って来たのでそのことを伝えると、不思議そうに首を振りながらその料亭へ出掛けて行ったけれど、「うちが、畑までスイカをもらいに行くことなんかない」という返事だったそうです。


子供が一人で番をしていると思って、あの小父さんは気の良さそうな顔をして、まだ小さなわたしをだまして盗んでいったのよ。
あの時のくやしさは、今でも忘れられないなあ。

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