夜な夜なシネマ

映画と本と音楽と、猫が好き。駄作にも愛を。

『落下の解剖学』

2024年03月09日 | 映画(ら行)
『落下の解剖学』(原題:Anatomie d'une Chute)
監督:ジュスティーヌ・トリエ
出演:ザンドラ・ヒュラー,スワン・アルロー,ミロ・マシャド・グラネール,アントワーヌ・レナルツ,サミュエル・タイス,
   ジェニー・ベス,サーディア・ベンタイブ,カミーユ・ラザフォード,アン・ロトジェ,ソフィ・フィリエール他
 
この日はなんばグランド花月の夕方の回に行き、北浜で食事をすることになっていました。
その前に何か映画を観ようと上映予定を物色したら、とても観たかった本作の時間がバッチリ合う。
TOHOシネマズ梅田のシアター6にて。満席です。
 
第76回カンヌ国際映画祭で最高賞のパルムドールに輝いたフランス作品。
地味で小難しい作品を想像していました。確かに地味だけど凄く面白くて、152分居眠りの隙なし。
地域のせいか、『フレンチアルプスで起きたこと』(2014)を思い出しましたが、こっちのほうが好き。
 
フランス・グルノーブルにほど近い人里離れた山荘に暮らす3人家族。
売れっ子作家サンドラのインタビューに女子大生ゾーイが訪ねたところ、
サンドラの夫サミュエルが階上で音楽をかけはじめる。
途轍もない大音量で、夫は客を歓迎していないに違いない。
致し方なく日と場所を改めることにして、ゾーイは退散する。
 
ゾーイが車に乗り込んだ後、サンドラとサミュエルの一人息子で11歳のダニエルが表に出てくる。
ダニエルはかつて遭った事故のせいで弱視だが、犬を連れて散歩に出かける。
 
ところがダニエルが戻ってくると、玄関先の雪の上に父親が倒れていた。
頭から血を流し、どうやら屋根裏部屋から転落した様子。
ダニエルの泣きわめく声で飛び出してきたサンドラも、すでに死んでいる夫を見て呆然とする。
 
事故か事件か。警察はサンドラを殺人の容疑で逮捕。裁判が始まって……。
 
誰かが家に忍び込んだはずもないから、自殺か事故死か妻による殺害しかありません。
裁判が進むと、夫がひそかに録音していた夫婦喧嘩の模様などが暴露されて、
サンドラの立場はどんどん悪くなります。
 
観ているこちらは、どう考えても彼女が殺したわけはないと思うのですが、
これもしかして息子がお父さんを突き落としたとかいう話じゃないよねなどと、嫌な予感も。
 
けれどもそんなことにはなりません。
ダニエル役ミロ・マシャド・グラネールはたまらないほど知的で可愛らしい。
どうか彼を傷つけないでと願いましたが、「あなたが傷つくから傍聴は禁止」という裁判長に対して、
「もう傷ついてる」とダニエルが答えるシーンは切なかったですねぇ。
 
いったい何が起きたのかが解き明かされていくさまが面白い。
検察官が意地悪すぎてずっと辟易とさせられましたが、
もしかすると本作は男性と女性で意見が分かれるかもしれません。
 
夫も作家になりたかったのに妻ばかりが売れて、止むを得ず教師の道へ。
息子が視力を失った責任は自分にあり、だから息子の面倒を見ているけれど、
それにしても妻だけが好きな道を歩んでいることに苛立っています。
夫は妻のことを「何も我慢していない」と言いますが、もともとドイツ人の妻がロンドンに行き、
そこにとどまっていたかったのに、どうしても故郷に帰りたいという夫の都合でフランスに来ている。
フランス語もそんなに上手くない、友だちも頼れる人もいない。妻はじゅうぶん耐えていると思う。
 
サンドラが唯一頼れる相手が弁護士のヴァンサンで、彼役のスワン・アルローが素敵でした。
彼とサンドラが安易に不倫関係にならないのも○。
 
人気作家の夫が謎の死を遂げたら、事故死よりも作家が殺したほうがマスコミ的には面白い。
世間はそんなもんなんだろうなと思いました。
めっちゃ見応えあり。

この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 『ネクスト・ゴール・ウィンズ』 | トップ | 『犯罪都市 NO WAY OUT』 »

映画(ら行)」カテゴリの最新記事