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『ヒンターラント』

2023年09月24日 | 映画(は行)
『ヒンターラント』(原題:Hinterland)
監督:ステファン・ルツォヴィツキー
出演:ムラタン・ムスル,リヴ・リサ・フリース,マックス・フォン・デル・グローベン,マルク・リンパッハ,
   マルガレーテ・ティーゼル,アーロン・フリース,スタイプ・エルツェッグ,マティアス・シュヴァイクホファー他
 
せっかく仕事帰りにシネ・リーブル梅田までやってきたので、2本観て帰る。
前述の『悪魔の追跡』の後にこれを。
 
オーストリア/ルクセンブルク作品。
監督はウィーン出身のステファン・ルツォヴィツキー。
チラシを見たときに、これは絶対私の好きそうなやつだと思いました。大当たり。
 
捕虜となって収容所生活を強いられていたペーター・ペルクは、ようやく解放されてほかの兵士と共に帰郷。
しかし、敗戦国となった故郷は変わり果て、祖国のために戦った兵士にも人々の目は冷たい。
居場所を亡くした彼らは救貧院に身を寄せるしかないが、そこももちろん劣悪な環境。
 
持ち家のあるペーターは、兵士たちと別れるさいに困ったときは訪ねてくるようにと告げ、
妻子が待つはずの自宅へと向かうが、待っていたのは口うるさい家政婦のみ。
数年間に渡って夫の帰国を待ち続けていた妻は、あきらめて実家に帰ったらしい。
 
そんななか、帰還兵を狙ったとおぼしき猟奇殺人事件が発生。
戦地に赴く前は優秀な刑事だったペーターは、捜査に協力することになるのだが……。
 
戦争になんか行かずに警察に留まっていれば、家族とずっと一緒にいることもできたのに。
警察の元同僚ヴィクトア・レンナーはペーターのいない間にしっかり出世。
しかもペーターの妻に懸想していたヴィクトアは、妻子の面倒を見て妻を寝取ることにも成功しています。
 
皆が祖国のために戦ったはずなのに、誰も感謝してくれない。
それどころかアカ扱いされてどこへ行っても侮蔑の言葉を投げかけられます。
ヴィクトアの部下のパウル・セヴェリンも最初はペーターを信じない。
しかし、ペーターが法医学博士テレーザ・ケルナーの命の恩人であることを知り、見る目を変えます。
 
1918年が舞台となっているから歴史物のはずなのですが、
「全編ブルーバックで撮影された絵画的背景」というものらしくてすごくユニーク。
私はロシア作品の『アンチグラビティ』(2019)を思い出しました。
かなりダークなファンタジー作品で、映像に魅入られます。
 
真相は衝撃的。
捕虜収容所で脱走を企てる者がいたときに連帯責任に問われる話が恐ろしい。
1人でも脱走しようとすれば、どれだけの人数が処刑されることか。
ペーターとパウルの抱擁が切なすぎて、胸が痛くなりました。
 
ルツォヴィツキー監督のことをこれまで知らなかったので、まだお若い人なのかと思っていたら還暦過ぎ。
あとどれくらいの作品を撮られるのかわかりませんが、注目したいと思います。

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