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『モンサントの不自然な食べもの』

2020年05月13日 | 映画(ま行)
『モンサントの不自然な食べもの』(原題:Le monde selon Monsanto)
監督:マリー=モニク・ロバン
 
オンラインで鑑賞する“アップリンク・クラウド”で配信中。
アップリンク・クラウドは“仮設の映画館”と同様に、
作品ごとに料金を支払う形態。本作は500円で視聴できます。
 
2008年のフランス/カナダ/ドイツ作品。
12年前の作品ではあるのですが、いまもう一度観るべき作品です。
 
主要作物種子法、通称種子法は、日本では1952(昭和27)年に設立された法律。
米、大豆、麦等の主要作物の種子について審査するものです。
一昨年の2018(平成30)年にその種子法が廃止され、
今その運用規則も廃止されようとしているらしい。
 
これが廃止されるとどうなるか。
私もこういった映画を観るまではたいして考えたことがなく、
海外から食物がどんどん入ってきて日本の食物が売れなくなったら困る農家が
声高に叫んでいる、ぐらいに思っていました。
 
でも全然違うんですよね。
種子法の廃止というのはつまり、遺伝子組換え作物の種子が、
在来作物の種子と同じように安全だよと国が太鼓判を押したということ。
 
遺伝子組換え作物の種子を研究開発するいろんな企業にチャンスが与えられて
いいじゃないか。そう思いますか。それも違います。
このままではこのモンサントの独擅場になってしまう。
 
日本ではどのぐらいの認知度なのでしょうか、
1901年に設立されたアメリカの巨大多国籍企業モンサント社。
元は化学薬品会社でしたが、主流商品だったPCB(ポリ塩化ビフェニル)の毒性が指摘されるように。
1960年代には工場のパイプの破損によってPCBに侵された従業員が出たのみならず、
工場付近の住民の体内にPCBが巣食い、さまざまな病気を発症して死に至ります。
 
そんなモンサント社を住民は集団で訴えましたが、
こういう企業を訴えたときの常、役員らは無罪放免。
モンサント社は何十年も前からPCBの毒性を認識していたにもかかわらずひた隠しにし、
またそれが明るみに出たさいも、当局はあろうことかモンサント社の味方をしました。
当時の社外秘の書類には、読んだらすぐに破棄するようにという注意と、
「1ドルの儲けも無駄にするな」という文言があったそうです。
1ドルも損をしないように事実を隠す。
 
PCBを販売できなくなったモンサント社は、
1970年代に入って“ラウンドアップ”という除草剤を売り出し、大ヒット商品に。
ラウンドアップは雑草だけを一掃し、農作物はいっさい傷つけないと謳って。
 
そしてモンサント社は遺伝子組換え作物の種子も売りはじめます。
広大な畑に育つ遺伝子組換え大豆。
雑草が生えて大変だけれど、ラウンドアップを使えば大丈夫、
草抜きなんてしなくていいんだよというわけです。
 
すべての雑草が枯れるのに、大豆だけ生き残るってどういうことでしょう。
そんなことがあっていいのか。
 
楽ですよ、儲かりますよ、そう言われると人間はそちらに流れてしまう。
でも、モンサント社の遺伝子組換え作物が安全だという科学的根拠はありません。
遺伝子組換えという新しい作物がつくられたなら、
本来はそれが安全かどうか審査する法律が設けられるべきところ、
政治判断が働いて、遺伝子組換え作物は自然な作物と「ほぼ」同じだから、
新たな法律は不要であると決まりました。
「ほぼ」なのか、私の大嫌いな「ほぼほぼ」なのか知らんけど。
 
世の中、儲けを考える人ばかりではありません。
さまざまな国の研究者が、遺伝子組換え作物の危険性を指摘してきました。
しかし、指摘したが最後、モンサント社の力によって職を失うのです。
世界中、どこの国の人であっても。恐るべし政治力。
 
モンサント社が各国の企業を買収し、遺伝子組換え種子を販売。
最初は在来種子より安く売る。ラウンドアップがあれば楽チン、収量も多いよと。
こりゃいいやということで在来種子から遺伝子組換え種子に鞍替えする農家。
絶対儲かると思わされているから、借金してでもモンサント社の種子を買う。
次に買うときは在来種子の4倍の値段になっていたとしても。
 
やがて、遺伝子操作のせいで除草剤には耐性があっても他の病気を発する。
畑がすべて駄目になり、借金のせいで自殺する人も後を絶ちません。
これを自業自得と切ってしまっていいのでしょうか。
 
種子法が廃止されるということは、
遺伝子操作されてこのさき何が起こるかもわからない種子でつくられた作物を
そうとは知らずに私たちは口にするのだということです。
「遺伝子組換え作物です」と表示することは禁じられているから。
 
遺伝子操作と品種改良は違う。
およそ「サステナブル」とはいえそうにない企業、モンサント社。
いまその企業が、世界中の食物を支配しようとしています。
 
こちらの作品にもモンサント社が登場しますので、併せてご覧ください。

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