夜な夜なシネマ

映画と本と音楽と、猫が好き。駄作にも愛を。

『解放区』

2019年11月15日 | 映画(か行)
『解放区』
監督:太田信吾
出演:太田信吾,本山大,山口遥,琥珀うた,佐藤秋,岸建太朗,SHINGO★西成他
 
先々週の土曜日に出かけた帰り、テアトル梅田にて20:40の回を鑑賞。
てか、本作はその1回しか上映していなかったんですけど。
今はほかの劇場でも徐々に拡大公開されつつある静かな話題作。
 
大阪市の助成金を得て2014年に制作され、
同年の大阪アジアン映画祭で上映されるはずが、大阪市から内容の修正を求められて拒否。
太田信吾監督は大阪市に助成金を返還し、自主上映を実施するとともに、映画祭に出品。
5年の歳月を経てやっと一般公開に至りました。
 
阪本順治監督が公開に際して寄せたコメントの中に、
「先達が、フィクションはノンフィクションのように、
ノンフィクションはフィクションのように作るべしと言っていたが、
そのどちらでもありどちらでもないありかたに驚いた」とあります。
ほんとにそのとおりで、まるでノンフィクション、でもフィクション。
また、阪本監督は「まずは映画人が観るべき映画」とも書いていて、これもまたその通り。
一般人が観て面白いかと聞かれると困る。
少なくとも周囲の人には薦めない。何これって言われそう。
 
ドキュメンタリー作家を目指すスヤマは、番組制作会社に所属。
アシスタントディレクターとしてひきこもりの青年とその家族に取材するが、
撮影の進め方をめぐって先輩ディレクターと衝突。
怒りのおさまらないディレクターから暴行を受け、スヤマはその場を走り去る。
 
別の企画を進めて自分で好きなように撮るべく、
先輩ディレクターとは連絡を絶って、大阪・西成に単身乗り込むスヤマ。
しかしひとりではどうにもならないこともありそうで、
誰か協力者がほしいと思い浮かんだのはあのひきこもり青年。
必要とされた青年はこっそりと実家を出て大阪へやってくるのだが……。

監督自身が演じるスヤマは身勝手を絵に描いたような人。
冒頭こそ、あまりに偉そうな先輩ディレクターに虐げられる彼に同情するし、
警戒感あらわなひきこもり青年との距離を縮めるには
スヤマのやり方でなければ無理でしょうと思いもしますが、
西成へ青年を呼びつけてからの彼と言ったら、酷い。
 
ギャラを出すと言っておきながら、すべてひきこもり青年に立て替えさせる。
高速バスの代金ももちろん払わず、ふたりで数百円の食事代すら「すぐ返すから」と言って出さない。
宿とは言い難いドヤ街に寝泊まりさせてその代金も払わず、
青年が領収書を取って支払いを請求すると、
「ろくに仕事もしていないくせに、どうしてそんなにかかるのか」と怒る。
青年がスヤマに負けずに言い返していたのがせめてもの救い。
 
人には言いがかりをつけておいて、自分は飲みに行った先で拾った女と寝る。
起きたらその女に一切合切盗まれていて呆然。
こんなときになって青年を頼ったら、バッサリと切られていい気味です。
同棲中の彼女に電話して大阪まで金を持ってきてほしいと言えば、
これもあっさり「勝手だね。自分のことしか考えてない」と断られ。
 
ここからがまた凄い。
誰にも相手にされなくなったスヤマは、日銭を稼ぐしかありません。
そこで一緒になったおっさんやニイちゃんから、
ちょっと来てちょっと取材したぐらいで何がわかるっちゅうんや、
シャブの1本ぐらい試してみぃというようなことを言われます。
 
ドキュメンタリーを観ているかのようでした。
大阪人でさえ足を踏み入れたことのない人も多い釜ヶ崎=あいりん地区。
私も行ったことがありません。いたずらに行くことはたぶん許されない。
でも人情のある街だろうと思うのは甘いですか。
 
宿代が安いために今はバックパッカーなども増えているとのこと。
制作されてから公開までの5年の間に釜ヶ崎の印象は変わったでしょうか。

この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 『マチネの終わりに』 | トップ | 『ブラック校則』 »

映画(か行)」カテゴリの最新記事