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『将軍様、あなたのために映画を撮ります』

2016年11月10日 | 映画(さ行)
『将軍様、あなたのために映画を撮ります』(原題:The Lovers and the Despot)
監督:ロス・アダム,ロバート・カンナン
出演:チェ・ウニ,シン・サンオク他

前述の『さとにきたらええやん』の次、同じくナナゲイにて。

これまでの人生で北朝鮮製作の映画を観たのは一度だけ。
『プルガサリ 伝説の大怪獣』(1985)です。
北朝鮮版ゴジラとされる『プルガサリ』を観たときは目が点になりました。
投獄された鍛冶屋が差し入れのおにぎりの飯粒で怪獣をつくる。
その飯粒に命が宿って怪獣になるという話でした。

当時、首相の座は退いて国家主席を務めていた金日成(キム・イルソン)。
映画好きで有名だった彼は、『プルガサリ』を製作するために、
『ゴジラ』(1954)を手がけた東宝特撮チームを日本から招聘し、
ゴジラのスーツアクターだった薩摩剣八郎までをも呼び寄せたというのですから、
金があるとただの道楽ではなくなるんだなぁと話を聞いて驚いたものです。

『プルガサリ』の監督が本作に登場する故・申相玉(シン・サンオク)。
金日成の息子でやはり映画好きの金正日(キム・ジョンイル)が
映画ビジネスで成功したいがために韓国の監督と女優を拉致したなんて、
もうホントに呆気にとられて声も出ません。

本作は、拉致されて北朝鮮で映画を撮らざるを得なくなった女優の証言と、
拉致を示唆する金正日の肉声入りテープ、再現映像、
監督と女優の家族、さらにはふたりが逃げ込んだ大使館職員などの話を基に構成されています。

韓国の著名な映画監督シン・サンオクと国民的女優の崔銀姫(チェ・ウニ)。
ふたりは映画の現場で知り合って結婚、しかし、監督の浮気が原因で離婚。
1978年、香港を訪れたチェ・ウニは、滞在先のホテルから姿を消します。
その様子から拉致された疑いがあるとして、
別れてはいたけれど心配だったのか、監督は香港へ彼女を探しに行った模様。

ところが監督も行方不明に。
その後、この監督と女優のコンビによる映画が次々と北朝鮮で製作され、
韓国の人々は、女優は拉致されたのだろうが、
監督は自ら亡命したのではないかと疑います。
だって、映画の製作にはお金がかかる。
金正日ならば、監督の好きなように撮らせてくれるし、金に糸目もつけない。
映画のつくり手として、これほど恵まれた条件はないんじゃないか。

3年足らずの間に監督が北朝鮮で製作した映画は実に17本。
監督の亡き今、本心はどうだったかはわかりません。
しかし、女優の話を聞けば、どれほど怯えながら映画製作に関わっていたかがわかります。

金正日の映画に対する思いは半端ではないでしょう。
だけど、恐ろしすぎる。
物理的な面のみならず、感性までもが洗脳される北朝鮮。
ぶっ飛んでいます。

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