南英世の 「くろねこ日記」

まさか・・・

 この年になると、いつ死ぬかもわからぬという思いからか、時に自分でも思わぬことを思いついたりもする。
去年の夏だったか、高校生のころ密かに思いを寄せていた人が大阪に住んでいることを偶然知り、どんな所に住んでいるのか急に行ってみたくなった。もちろん、自宅を訪ねる勇気などない。遠くからちょっとだけ見てみたい。それだけの話である。グーグルマップを片手にいそいそと出かけた。

 確か、看護師をしていたはずである。幸せに暮らしているのだろうか。そんなことを思いながら電車を降りて、暑い中をテクテク歩いて行った。駅からは随分遠い。30分くらい歩いたであろうか。近づくにつれ心臓がバコバコ高鳴り始める。偶然道端で出会ったらどうしよう、などというあり得ない想像をしたりもする。気持ちはすっかり高校生だ。

 ところがいくら探しても、その住所にたどり着けない。確かにこのへんのはずなのだが、それらしき家がないのだ。1時間ほども探し回っただろうか。
ようやく間違いなくその住所にたどり着いた。
しかし、そこにあったのは普通の家ではなかった。
なんとラブホだったのだ。
まさか…。
げー、ウッソー、ショック!!!------------

 これは何かの間違いだろう。
きっと転居して、その後に建てられたものに違いない。いやいや、ラブホの経営だって立派な職業だ。さまざまな思いが脳裏をかすめる。

 目の前に流れている大和川の河川敷にしばし腰を下ろし、気持ちを整理する。もちろん電話番号もわかっている。電話をすれば確かめられるのかもしれない。しかし、その勇気はない。

 家に帰って、家族にこの話をしたら大笑いされてしまった。そして、娘が言うことには
「お父さん、私が代わりに電話をしてあげようか」だって。
いやいやありがとう。何でもかんでもわかればいいというものではない。世の中には、よくわからないことのほうがいいこともあるんだ・・・・・
 いまだに真相は謎である。
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