大学教師には二つのタイプがある。最先端の研究をするタイプと学生に教えることを主たる仕事にするタイプである。囲碁も同じである。現在約500人いるプロ棋士のなかでタイトル争いだけで飯を食っていけるのはほんの一握り(20~30人前後)。9割以上のプロは手合い料以外で生活の糧を得る。もちろん、その中には我々アマチュアに対する指導碁も含まれる。
しかし、一流プレイヤーが必ずしも一流の教育者とは限らない。プロ棋士による指導碁の多くは「本業の片手間」としてなされているのが実態であり、教え方そのものの研究はあまりなされていないような気がする。
その中にあって石倉昇九段の教え方は抜群によい。囲碁というものを「法則」としてまた「体系的」に教えようとする工夫が随所にみられる。
たとえば、次の図を見ていただきたい。三々に打ち込まれた場合の死活問題である。黒石が両翼に大きく広がっている場合、白は三々に打ち込んで無条件で生きることができる。では、少しずつ狭めていくとどうなるのか?
このように懐をだんだん狭めていくという発想はこれまでなかったので、この教え方には感動した。さっそく私の囲碁教室でも取り入れようと思う。ちなみに正解は、1図は無条件生き、2図はコウ、3図もコウである。
では次のケースはどうか?
正解は白の無条件生きである。なぜなら「一間飛びはケイマジマリよりゆとりがある」からである。うーん、なるほどそう考えるのか。今までこんな教えられ方したことがない。さすが東大卒である。
また、下図の右上隅を地にしたい場合、黒1が正解で、これで隅に手は生じない。実戦でこの手が打てればアマチュア五段だという。
これまで石倉昇九段のVHSビデオをたくさん買ってきたが、今朝も新しいDVDを見つけたのでどうしても欲しくなり、さらに18枚買ってしまった。囲碁のVHSはたくさんあるが、DVDを出しているのは珍しい。多分彼だけではないか。そりゃそうだろう。彼ほどアマチュアに対する教え方を研究している人はほかにいない。石倉昇九段は囲碁を教える天才だと思う。