先日、お客さんとして、わたしが担当した老婦人が窓口に来られ、お礼だと言って、菓子箱を差し出された。
「こんなことをしてはいけません。わたしは当たり前のことをしただけですから」
と固辞したのだが、どうあっても気持ちが納まらないので受け取ってくれと言う。
「一人暮らしの心細い思いをしていたわたしに、あんなに親切にしていただいた。わたしは本当にうれしかったのです」と涙を流しながら言う。
思わずわたしも貰い泣き。
この老婦人が来店されたのは、1ヶ月位前のことだった。
1通のはがきを携えていた。
某大手証券会社からの事務通信だった。
つまりは、例の株券の非証券化のことだ。
わたしだって、金融業界に身を置いているけれど、株式のことなんてよく判らない。一体、どうして証券現物を止めて、オンライン化するのよ。現物がなくなると、ご高齢の方は、ホントに判りにくくなる。結局は、発行者や売り手側、管理側である証券会社の都合じゃないの?
それとも、税金逃れを摘発するための税当局の思惑の産物かしら?
とにかく、彼女の握り締めてきたはがきに記載されている内容は、わたしにもよく判らない内容だった。
唯一、理解できたのは、このまま放置しておくと、彼女の所有する株券が紙くずになりかねないということだけだった。
わたしは新聞などで読んで知っていた株券の電子化(ペーパーレス化)について、彼女に説明をした。
「早めに手続きをしてくださいっていうことが、この通知書に書いてあります。ご不明な点は、この証券会社にお問い合わせくださいね」
わたしは精一杯の笑顔をつくって、眼前の老婦人に言った。
「そいでも、そこに書いてある電話番号に電話したら、女の人が出てきて、1番を押せじゃの2番を押せじゃの言うばかりで、わたしの言うことなんかちっともきいておくれんのじゃ。わたしゃ、どうしたらよいか判らんようになってしもうて・・・」
ははあ、多分、自動音声の自動受付ね。電話操作がうまくできなかったんだわ。
仕方ない、ここでわたしがこの証券会社に電話して、生身の人間を電話口まで出させよう。それから、このおばあちゃんに代わってあげることにしよう。そのくらいのことはしてあげてもいいわよね。
いや、そんなことを思ったのは、わたしに対する風当たりが、職場で強いからだった。わたしも一応チーフなのだけれど、もうひとりのチーフが、上役にあることないこと、吹き込んでいるのだ。
電話が長くて迷惑しているだの、窓口応対が長くて、仕事がしわ寄せされるだのと。
全部ウソ。
全部、もうひとりのチーフの所業。
あいつときたら、私用の電話を長々としているし、その間、わたしが食事にいけないで、とうとう昼食を抜いたこともある。そのくせ、自分はどんなに窓口が混んでいようが、さっさと定刻に食事に行ってしまうし、他人には忙しい時は昼食休憩を早めに切り上げることを強要するくせに、自分はしっかりと時間いっぱい休む。いいかげにしてよっ。
でも、そんなことを言っても仕方がないから、わたしは我慢して言い訳もせず、黙々と仕事をこなしている。
今回の案件にしても、商売にならないことは目に見えているから、時間をかけたら、多分、文句を言ってくるだろうことは判っていた。でも、彼女はこんなに途方にくれている。
わたしは意を決して、某証券会社に電話した。案の定、自動音声が流れる。
わたしは、次々と指定された番号を押して、ようやくオペレーターを電話口に呼び出すことに成功した。
こういう方式って、便利なようで不便なのよね。高齢化社会に適応してないわ。
わたしは、電話に出た担当者に、事情を説明して、老婦人に電話を代わった。
老婦人は、ようやく証券会社の担当者と話しができた。
結局、彼女の場合、現在の株券の名義人登録が間違っているらしいのだ。本人確認法によって、現在は、官公庁の発行した書類で本人確認を行うことになっているが、それ以前においては、必ずしもそうである必要はなく、本人の申告どおりに登録が可能であった。そのため、ご高齢者の場合は、幼名とか字名での登録もありうるのだ。
彼女も幼名で登録していたため、株券の電子化に先立って、まず氏名変更が必要ということらしい。
彼女が証券会社の方がちょっと代わってくれと言っていると言う。
「はい、お代わりしました。わたし、○△銀行の◇◇と申します。」
「今、○○様とお話をしたのですが、後はわたくしどもで直接ご案内を差し上げますので。お宅様は、どうして当社にお電話をなさったのでしょうか」
「○○様は、ご高齢で一人暮らしをなさっておいでです。身寄りもなく、相談する相手もおられず、大変に困っておられたので、見るに見かねてお電話させていただきました。御社の案内文書に記載されている電話は、自動アナウンス方式ですが、お客様にとっては、それがそもそもハードルが高く、御社に連絡、相談できなかったのです。ですから、今後、○○様にご連絡をとられるのなら、直通電話番号をお教えしなければ、うまくいかないと思いますよ」
「なるほど、よく判りました。そうすると、御行には何のメリットも関係もないお話なのですね」
「そうなんです。ですが、あまりに困っておいでだったので」
「大変、失礼しました。ご迷惑をかけました。後は、こちらで対応させていただきますので、もう一度、○○様にお代わりください」
こうして、ようやく、彼女は変更手続きに取り掛かることになるのである。
実際は、この後、3回ほど、店頭に来られ、その度にわたしは、某証券会社に電話をして、手続きを進めた。
印鑑証明や氏名が相違ないことを証明する書類を市役所に発行して貰うために、市役所まで問い合わせの電話したこともあった。なかなかどうして、大変な手続きだった。これは、とても自動音声のアナウンスなんかでは、対応不可能だと思った。
「老い」という問題は、既にわたしの周囲にも、こんなに具体的に身近に迫っている。高齢化社会の歪は、進歩した文明の利器に警鐘を鳴らしている。
それらは、今回の自動アナウンス方式のように、便利なようで、実は、わたしたちの生活を暮らし難いものにしているのかもしれないのだ。
わたしには、何の力もないけれど、こういう形で誰かの助けになれるのなら、生きている間は、精一杯頑張りたいと思う。
☆ブログランキングに参加しています。
気に入ったら、プチッと押してね、お願い →
こちらもお願いね →
「こんなことをしてはいけません。わたしは当たり前のことをしただけですから」
と固辞したのだが、どうあっても気持ちが納まらないので受け取ってくれと言う。
「一人暮らしの心細い思いをしていたわたしに、あんなに親切にしていただいた。わたしは本当にうれしかったのです」と涙を流しながら言う。
思わずわたしも貰い泣き。
この老婦人が来店されたのは、1ヶ月位前のことだった。
1通のはがきを携えていた。
某大手証券会社からの事務通信だった。
つまりは、例の株券の非証券化のことだ。
わたしだって、金融業界に身を置いているけれど、株式のことなんてよく判らない。一体、どうして証券現物を止めて、オンライン化するのよ。現物がなくなると、ご高齢の方は、ホントに判りにくくなる。結局は、発行者や売り手側、管理側である証券会社の都合じゃないの?
それとも、税金逃れを摘発するための税当局の思惑の産物かしら?
とにかく、彼女の握り締めてきたはがきに記載されている内容は、わたしにもよく判らない内容だった。
唯一、理解できたのは、このまま放置しておくと、彼女の所有する株券が紙くずになりかねないということだけだった。
わたしは新聞などで読んで知っていた株券の電子化(ペーパーレス化)について、彼女に説明をした。
「早めに手続きをしてくださいっていうことが、この通知書に書いてあります。ご不明な点は、この証券会社にお問い合わせくださいね」
わたしは精一杯の笑顔をつくって、眼前の老婦人に言った。
「そいでも、そこに書いてある電話番号に電話したら、女の人が出てきて、1番を押せじゃの2番を押せじゃの言うばかりで、わたしの言うことなんかちっともきいておくれんのじゃ。わたしゃ、どうしたらよいか判らんようになってしもうて・・・」
ははあ、多分、自動音声の自動受付ね。電話操作がうまくできなかったんだわ。
仕方ない、ここでわたしがこの証券会社に電話して、生身の人間を電話口まで出させよう。それから、このおばあちゃんに代わってあげることにしよう。そのくらいのことはしてあげてもいいわよね。
いや、そんなことを思ったのは、わたしに対する風当たりが、職場で強いからだった。わたしも一応チーフなのだけれど、もうひとりのチーフが、上役にあることないこと、吹き込んでいるのだ。
電話が長くて迷惑しているだの、窓口応対が長くて、仕事がしわ寄せされるだのと。
全部ウソ。
全部、もうひとりのチーフの所業。
あいつときたら、私用の電話を長々としているし、その間、わたしが食事にいけないで、とうとう昼食を抜いたこともある。そのくせ、自分はどんなに窓口が混んでいようが、さっさと定刻に食事に行ってしまうし、他人には忙しい時は昼食休憩を早めに切り上げることを強要するくせに、自分はしっかりと時間いっぱい休む。いいかげにしてよっ。
でも、そんなことを言っても仕方がないから、わたしは我慢して言い訳もせず、黙々と仕事をこなしている。
今回の案件にしても、商売にならないことは目に見えているから、時間をかけたら、多分、文句を言ってくるだろうことは判っていた。でも、彼女はこんなに途方にくれている。
わたしは意を決して、某証券会社に電話した。案の定、自動音声が流れる。
わたしは、次々と指定された番号を押して、ようやくオペレーターを電話口に呼び出すことに成功した。
こういう方式って、便利なようで不便なのよね。高齢化社会に適応してないわ。
わたしは、電話に出た担当者に、事情を説明して、老婦人に電話を代わった。
老婦人は、ようやく証券会社の担当者と話しができた。
結局、彼女の場合、現在の株券の名義人登録が間違っているらしいのだ。本人確認法によって、現在は、官公庁の発行した書類で本人確認を行うことになっているが、それ以前においては、必ずしもそうである必要はなく、本人の申告どおりに登録が可能であった。そのため、ご高齢者の場合は、幼名とか字名での登録もありうるのだ。
彼女も幼名で登録していたため、株券の電子化に先立って、まず氏名変更が必要ということらしい。
彼女が証券会社の方がちょっと代わってくれと言っていると言う。
「はい、お代わりしました。わたし、○△銀行の◇◇と申します。」
「今、○○様とお話をしたのですが、後はわたくしどもで直接ご案内を差し上げますので。お宅様は、どうして当社にお電話をなさったのでしょうか」
「○○様は、ご高齢で一人暮らしをなさっておいでです。身寄りもなく、相談する相手もおられず、大変に困っておられたので、見るに見かねてお電話させていただきました。御社の案内文書に記載されている電話は、自動アナウンス方式ですが、お客様にとっては、それがそもそもハードルが高く、御社に連絡、相談できなかったのです。ですから、今後、○○様にご連絡をとられるのなら、直通電話番号をお教えしなければ、うまくいかないと思いますよ」
「なるほど、よく判りました。そうすると、御行には何のメリットも関係もないお話なのですね」
「そうなんです。ですが、あまりに困っておいでだったので」
「大変、失礼しました。ご迷惑をかけました。後は、こちらで対応させていただきますので、もう一度、○○様にお代わりください」
こうして、ようやく、彼女は変更手続きに取り掛かることになるのである。
実際は、この後、3回ほど、店頭に来られ、その度にわたしは、某証券会社に電話をして、手続きを進めた。
印鑑証明や氏名が相違ないことを証明する書類を市役所に発行して貰うために、市役所まで問い合わせの電話したこともあった。なかなかどうして、大変な手続きだった。これは、とても自動音声のアナウンスなんかでは、対応不可能だと思った。
「老い」という問題は、既にわたしの周囲にも、こんなに具体的に身近に迫っている。高齢化社会の歪は、進歩した文明の利器に警鐘を鳴らしている。
それらは、今回の自動アナウンス方式のように、便利なようで、実は、わたしたちの生活を暮らし難いものにしているのかもしれないのだ。
わたしには、何の力もないけれど、こういう形で誰かの助けになれるのなら、生きている間は、精一杯頑張りたいと思う。
☆ブログランキングに参加しています。
気に入ったら、プチッと押してね、お願い →
こちらもお願いね →
私もなんだか切なくなってしまいました。
確かに今、便利な世の中にはなってきてはいますが、
高齢化社会に対応したものか?といえば、
むしろ逆行していると思えますし、
随分とお年寄りに対して不親切なものが多いですね。
minaさんのようなあたたかい気遣い、心配りが、
これからの高齢化社会に潤いをもたらすのだと思います。
私も身近で出来ることからでも、
人や社会の役にたっていきたい!と熱烈に思いました。
職場での風当たりがキツイようですが、
自分の良心に従って、これからも頑張ってくださいね!!
元凶は、言わずと知れた現首相。
早く辞めればいいのに。
今日、特番があるそうですが、彼の残した数々の課題を、後継者がどう対応していくかがテーマらしいです。
彼が切り拓いた課題と言えば聞こえがいいけれど、無能な彼がろくに対処せずに、物事を深刻化させた後始末をどうするかと言う様に、正確に表現してほしいものだと思います。
まず、第一に論ぜられるべきことは、彼の就任以来、飛躍的に増加している自殺者の問題。
どう責任を取って、どう対応するつもりなのか。
彼の就任以来、企業利益は85%も増加したけれど、個人の所得はほとんど増加していない。
おかしいじゃありませんか。個人の所得が増加せずに、どうして企業だけ儲かるのか。だって、個人消費が増えなければ、本当の意味の景気回復、つまりは消費増大、売り上げ増による企業利益の増加はないはず。結局、持つ者だけが良い生活ができる格差社会を出現させたというのが、彼の唯一の功績?かしらね。
そうだとしたら、まったくもって、史上最低の首相です。かつて、名宰と言われた池田氏は、貧乏人は麦飯を食ってろと言ったそうですが、それでも、彼はまだ麦飯は食わせるつもりがあった。そして、そうやって頑張っておれば、やがて所得は倍増すると誓約し、それを実現した。
それに引き換え、現在の首相は、わたしみたいな貧乏人は、霞でも食ってろというのでしょうか。現在の無策、格差社会を助長するようなやり口をみていると、そうとしか思えません。そして、挙句の果ては、飢えて死ねというのでしょうか。そんなことになるのは、個人の努力が足りなかったと、そして、国民各人応分の痛みを分ち合ってこそ、改革は成るのだと今でも、公の場で言うつもりなんでしょうか。
いいかげんにしてと言いたい。
彼自身、応分の痛みなんか、絶対に共有していない。
ぬくぬくと暮らしている。
北朝鮮がミサイルを発射した時に、激務のご褒美だとかぬかして、自身がファンだというプレスリーの博物館に行っていたりする。どこが激務か。そんなに激務なんだったら、小渕さんみたいに死んでしまうはず。
激務なんていうことは、死んでから言ってよね。
マスコミのコントロールが上手だから、プレスリーの件は、失脚につながらなかったけれど、例えば、この間、亡くなった橋龍さんだったら、どうだったかしらね。
ホントに、彼のことを考えると、腹が立って、夜も眠れなくなるし、お酒もまずくなる。
あああ、伽羅さまっ。
わたしは、いつもこんなことを考えているから、精神が病んでしまうのです。映画鑑賞に没頭できなくなってまったのです。わたしだって、彼よりましな政治ができるのに、なんで彼らはあんなに馬鹿ぞろいなんだと思うと、いてもたってもいられなくなります。
極論すれば、新しい首相が、素晴らしい、妥当な政策を実施してくださることだけが、わたしの平穏な生活を取り戻す唯一の薬かもしれません。
ありがとう。
わたし、ちっとも偉くないし、馬鹿です。
力のあるものに媚びへつらえれば、どんなに楽になることでしょう。
それができない。
ホントに馬鹿者です。
このへんが、小説のテーマだったりする。
へへへ、エロ小説なのにね。
読んでいただいて、ありがとうございます。
もしも、わたしの書いたものや世界観に共感していただけたのなら、とてもうれしいです。
またのご来訪をお待ちしております。