何といったらいいのかわからないのだが、それはもう曲ではなくて、「物語」だった。
定番とされている「ラ・カンパネラ」も、もちろん素晴らしかったのだが、より衝撃的だったのはショパンのエチュード「革命」だった。
ショパンがロシア軍のワルシャワ侵攻を耳にし、失望と憤怒のあまり一気に書き上げたと伝えられている曲だから、椅子から立ち上がらんばかりに激情的に弾くのが通例だし、作曲者自身もそれを望んでいると思う。
しかし彼女の弾く「革命」の凄みときたらどうだろう。
彼女はショパンの曲によって、自分自身をなぞる物語をつむぎだしてしまった。そんな印象だ。
一見静かでありながら、底知れぬ深みと「悟り」のようなものまで感じさせるその演奏は、鑑賞者の心をひきつけて離さない。
それにしても、一見運命に翻弄されてきたかのような、苦難の人生を歩んできた人の仕事のほうが、心を打つ何かを持つような気がするのはなぜなのだろう…