藤井聡 『公共事業が日本を救う』 ( p.85 )
日本の港は、コンテナ取扱数の世界ランキングが低下してきている。その原因は、水深の「深い」港が存在しないからである。したがって日本-外国間の貨物輸送は、次第に韓国等を経由するケースが増えてきており、その結果、日本の貿易は外国の影響を受けやすくなっている、と書かれています。
引用文中の「表1」は次の表です。
表1 世界の港湾別コンナテ取り扱い個数ランキング
(単位:万TEU)
1980年 2008年
順位 港 取扱量 順位 港 取扱量
1 ニューヨーク 195 1 シンガポール 2992
2 ロッテルダム 190 2 上海 2798
3 香港 146 3 香港 2425
4 神戸 146 4 深圳 2141
5 高雄 98 5 釜山 1343
6 シンガポール 92 6 ドバイ 1183
7 サンファン 85 7 寧波 1123
8 ロングビーチ 83 8 広州 1100
9 ハンブルク 78 9 ロッテルダム 1080
10 オークランド 78 10 青島 1032
12 横浜 72
18 東京 63
24 東京 427
29 横浜 349
39 大阪 25 39 名古屋 282
44 神戸 256
46 名古屋 21
50 大阪 224
この表を見ると、たしかに日本の港湾では、コンテナ取扱数の順位が下がってきています。そしてまた、日本とは対照的に、(ほかの) アジア諸国の港の順位が急激に上昇していることもわかります。
とすれば、著者の指摘は「正しい」のでしょうか? 私は、著者の指摘にはかなり疑問があります。なぜなら、
(1) 急激に順位を上げてきている国々は、経済発展が急速に進んでいる地域だからです。たしかに著者の述べるように、「港の深さ」も重要な要素なのだろうとは思いますが、それ以上に、その港の「存在している地域」の経済状況に、このランキングは大きな影響を受けていると考えられます。
(2) また、日本の港で唯一、ランキング順位を上昇させたのが名古屋であることも、重要だと思います。日本で一番「深い」港である横浜港の順位は「下がり」、名古屋港の順位が「上昇している」のです。これは2008年頃、日本では名古屋周辺の景気が (相対的に) よかったことと無関係ではないと思います。
したがって、たしかに港の「深さ」は重要ではあるけれども、
日本の港を「深く」したところで、
ランキングの順位は大きくは変わらない、
と考えられます。
次に、著者が指摘している、港が「浅い」ことの問題点について考えます。
これは要は、東アジア諸国の設定する「積み替え手数料」によって日本製品の国際競争力が弱まる、日本経済が東アジア諸国の政策・状況に左右されてしまう、という問題ですが、
韓国のほか、中国の港 (複数) もランクに入っています。したがってそれぞれの港の間で「競争」が働くはずです。とすれば、これはさほど問題視するにはあたらない、と考えられます。
しかし、2ヵ国しか選択肢がないというのは問題であり、かつ、どちらの国とも日本は領土がらみの問題や歴史問題をかかえています。したがって、ランキングの順位はともかく、港を深くする必要性は高いと考えてよいのではないかと思います。
以上をまとめると、結論としては、
日本の港湾を深くする必要性は高いが、
日本の経済状況・財政状況などを考えれば、
1つか2つ程度の港湾を深くすれば足りる
ということになるのではないかと思います。
■追記 ( 2011-05-25 )
みなさんご存知のように、尖閣諸島について、日本側の主張は「領土問題は存在しない」です。簡潔な表現が思いつかなかったので、やむなく、私は「領土問題」と記載していましたが、今日、「領土がらみの問題」という表現方法があることを知りました。
「領土問題は存在しない」が、中国が主権・領有権を主張してきた場合には「外交問題になる」ので、「領土がらみの問題がある」というのが、この表現の意味です。
こういう「うまい表現」があることがわかりましたので、早速、この記事における表現を「適切な表現」に訂正します。
訂正前: どちらの国とも日本は領土問題や歴史問題をかかえています。
訂正後: どちらの国とも日本は領土がらみの問題や歴史問題をかかえています。
表1をご覧いただきたい。
この表は、1980年と2008年のそれぞれにおける、コンテナの取り扱い数の世界ランキングである。
1980年に世界第4位であった神戸港は、2008年にはなんと、世界44位にまで凋落している。
その他の日本の港も、軒並み、その順位を下げている。
当時46位だった名古屋港が39位へと少々ランクを向上させているが、東京港は18位から24位、横浜港は12位から29位、大阪港は39位から50位へと、その順位を大きく下げてしまった。
その代わりに躍進しているのが、シンガポールであり、中国、韓国、ドバイである。
つまり、港湾の取扱量について日本勢が凋落していった一方、日本を除くアジア各国の港湾取扱量が飛躍的に上昇したのである。
(中略)
昨今のいわゆる「グローバリゼーション」の進展によって、世界中の貿易量は年々増え続けてきている。そして、今日では20年前の3倍にも膨れあがっている。
それに呼応する形で、貿易のための船も年々大型化してきた。
例えば、現在、貿易で使われている船の中で一番大きな船は、20年前に一番大きかった船よりも、実に3倍以上ものコンテナを積むことができるほどに、巨大なものとなってきている。
これだけ船が大きくなってくると、「港そのもの」も大きなものでなければ、その船を受け入れられなくなってくる。大きな船は、「水深の深い港」でないと入れないからだ。
この問題に対処するために、過去20年、30年の間、中国や韓国やシンガポールは、「大きな港」を建造し続けてきた。そして、先に述べたように、それぞれの港での取扱量を飛躍的に増加させたのである。
ところが、日本は、港の大型化を怠ってきてしまった。
具体的に言えば、日本で今、一番「深い」埠頭は、横浜港にある「16メートル」の水深の埠頭である。しかし、今一番大きな船が入港するには、「18メートル」の深さの埠頭が必要なのである。
たかだか「2メートル」、ではある。
しかし、このたった「2メートル」が、国際貿易における大問題なのである。
実を言うと、「あと2メートル深い港」を作るという事業は、何百億円、場合によっては何千億円もの財源を必要とする大規模な、国家的な「公共事業」なのである。
日本はそんな「国家事業」を進めることができず、「たかだか2メートルの深さが足らない」というだけの理由で、大きなコンテナ船が立ち寄れない、という問題を抱えてしまったのである。その結果、過去30年の間に、港のコンテナ取扱量は軒並みそのランクを大幅に下げてしまう、という事態になってしまったのである。
こうなると、超大型のコンテナ船を使う船会社は、日本との間の輸出入のためには、「日本近郊の港、例えば、釜山などに一旦、コンテナを運び入れて、そこで小さな船に積み替えてから、日本にコンテナを運び入れる」、という面倒な戦略を取らざるを得なくなる。
こうした経緯から、「積み替え」によるコンテナ輸送が、日本では年々、増え続けたのである。
(中略)
まず、いちいち外国の港でコンテナを積み替えなければならなくなるのだから、輸出入の時間が延びてしまうし、なんと言っても、その外国の港に「積み替え手数料」を払わなければならない。もうそれだけで、輸送のためのコストが増加するという問題が生じてしまう。
しかし、そんなことよりも、外国の港での「積み替え」が常態化してしまうことの最大の問題は、日本の貿易のための輸送が、「外国の港」に主導権を握られてしまうことになるという点である。
仮に、日本と外国の貿易で「積み替え」が完全に常態化してしまったとすると、「積み替え」をする外国の港、例えば釜山は、日本に輸出入をする場合の港の使用料を、日本の港のことを気にせずに、思い通りに設定することができてしまうようになる。
(中略)
さらには、外国での積み替えが常態化してしまえば、その国(例えば、釜山を持つ韓国)の政情の不安定化や経済悪化などの問題が、直接、日本の貿易に影響してしまうこととなる。そうなると、そのあおりを受けて港の使用料が高騰するかもしれないし、特定の国の船舶が立ち寄れなくなってしまうかもしれない。最悪の場合には、日本の船が立ち寄れないというような事態も、起こらないとも限らない。あるいはそこまでの問題はないとしても、例えば、その港での単なる労使交渉がこじれて、何日間もストライキが行われるようなこともあるかもしれない。
そうなると、日本経済は大打撃を受けることにもなりかねないのだが、日本としては、その問題に対して、指をくわえて見ているしかなくなってしまうのである。
日本の港は、コンテナ取扱数の世界ランキングが低下してきている。その原因は、水深の「深い」港が存在しないからである。したがって日本-外国間の貨物輸送は、次第に韓国等を経由するケースが増えてきており、その結果、日本の貿易は外国の影響を受けやすくなっている、と書かれています。
引用文中の「表1」は次の表です。
表1 世界の港湾別コンナテ取り扱い個数ランキング
(単位:万TEU)
1980年 2008年
順位 港 取扱量 順位 港 取扱量
1 ニューヨーク 195 1 シンガポール 2992
2 ロッテルダム 190 2 上海 2798
3 香港 146 3 香港 2425
4 神戸 146 4 深圳 2141
5 高雄 98 5 釜山 1343
6 シンガポール 92 6 ドバイ 1183
7 サンファン 85 7 寧波 1123
8 ロングビーチ 83 8 広州 1100
9 ハンブルク 78 9 ロッテルダム 1080
10 オークランド 78 10 青島 1032
12 横浜 72
18 東京 63
24 東京 427
29 横浜 349
39 大阪 25 39 名古屋 282
44 神戸 256
46 名古屋 21
50 大阪 224
この表を見ると、たしかに日本の港湾では、コンテナ取扱数の順位が下がってきています。そしてまた、日本とは対照的に、(ほかの) アジア諸国の港の順位が急激に上昇していることもわかります。
とすれば、著者の指摘は「正しい」のでしょうか? 私は、著者の指摘にはかなり疑問があります。なぜなら、
(1) 急激に順位を上げてきている国々は、経済発展が急速に進んでいる地域だからです。たしかに著者の述べるように、「港の深さ」も重要な要素なのだろうとは思いますが、それ以上に、その港の「存在している地域」の経済状況に、このランキングは大きな影響を受けていると考えられます。
(2) また、日本の港で唯一、ランキング順位を上昇させたのが名古屋であることも、重要だと思います。日本で一番「深い」港である横浜港の順位は「下がり」、名古屋港の順位が「上昇している」のです。これは2008年頃、日本では名古屋周辺の景気が (相対的に) よかったことと無関係ではないと思います。
したがって、たしかに港の「深さ」は重要ではあるけれども、
日本の港を「深く」したところで、
ランキングの順位は大きくは変わらない、
と考えられます。
次に、著者が指摘している、港が「浅い」ことの問題点について考えます。
これは要は、東アジア諸国の設定する「積み替え手数料」によって日本製品の国際競争力が弱まる、日本経済が東アジア諸国の政策・状況に左右されてしまう、という問題ですが、
韓国のほか、中国の港 (複数) もランクに入っています。したがってそれぞれの港の間で「競争」が働くはずです。とすれば、これはさほど問題視するにはあたらない、と考えられます。
しかし、2ヵ国しか選択肢がないというのは問題であり、かつ、どちらの国とも日本は領土がらみの問題や歴史問題をかかえています。したがって、ランキングの順位はともかく、港を深くする必要性は高いと考えてよいのではないかと思います。
以上をまとめると、結論としては、
日本の港湾を深くする必要性は高いが、
日本の経済状況・財政状況などを考えれば、
1つか2つ程度の港湾を深くすれば足りる
ということになるのではないかと思います。
■追記 ( 2011-05-25 )
みなさんご存知のように、尖閣諸島について、日本側の主張は「領土問題は存在しない」です。簡潔な表現が思いつかなかったので、やむなく、私は「領土問題」と記載していましたが、今日、「領土がらみの問題」という表現方法があることを知りました。
「領土問題は存在しない」が、中国が主権・領有権を主張してきた場合には「外交問題になる」ので、「領土がらみの問題がある」というのが、この表現の意味です。
こういう「うまい表現」があることがわかりましたので、早速、この記事における表現を「適切な表現」に訂正します。
訂正前: どちらの国とも日本は領土問題や歴史問題をかかえています。
訂正後: どちらの国とも日本は領土がらみの問題や歴史問題をかかえています。
「日本の港を「深く」したところで、ランキングの順位は大きくは変わらないか否か」ではなく、「日本の港の深さを18mにしたとしてもランキングの順位は大きく変わらないか否か」を論じなければいけないと思います。
釧路にアジア最大のコンテナ専用埠頭を設置すれば日本は復活する。
そう思います。