言語空間+備忘録

メモ (備忘録) をつけながら、私なりの言論を形成すること (言語空間) を目指しています。

中国人民解放軍における軍内党組織 (政治委員)

2010-11-18 | 日記
陳惠運・野村旗守 『中国は崩壊しない』 ( p.82 )

 人民解放軍の前身である紅軍の原点は、二七年四月の第一次国共分裂後、各地で共産党が指揮した農民蜂起 (その端緒が八月一日に江西省で起こった南昌起義だった) である。ようは、鍬 (くわ) や鋤 (すき) で武装した反乱農民によるゲリラ部隊で、当初は「中国工農革命軍」と呼ばれた。そして、その年の九月に湖南省で起こった「秋収蜂起」に際して毛沢東は、ばらばらだった農民軍を組織化して一〇〇〇人ほどの軍隊をつくり、これを「中国工農革命軍第一軍第一師第一団」と命名する。
 組織化にあたって毛が採用したのは、軍のなかに党の命令系統を浸透させる方法だった。当初の農民兵たちは田畑を失って食わんがために革命軍に参加した者がほとんどで、革命に対する意志は不安定だった。傭兵気分の抜けない農民兵たちを統率し、革命家としての自覚を徹底させるため毛沢東は、軍のなかに党の細胞網を張り巡らせた。軍の末端単位である班 (分隊) と排 (小隊) に共産党の小組を、連 (中隊) に党の支部を、営 (大隊) に党の委員会を置いた。これによって党の命令が軍の末端まで正確に届くようになり、党の監視が行き渡り、革命軍としての規律が保てるようになった。
 この方式で武装農民の組織化に成功した毛沢東は、二八年には農民ゲリラ軍を「中国工農紅軍 (紅軍)」と改称する。そして長征を経て延安にたどり着くと、党の軍に対する指揮権を強化するため軍内党組織の建設に腐心し、さまざまな制度をつくり出した。
 たとえば、軍の最高指揮権と司令権は党中央と中央軍事委員会に集中させ、軍内に党の綱領を徹底させた。また、軍のなかの各単位ごとに、軍務と党務の責任者――たとえば、連長と連支部書記、あるいは団長と団政治委員というように――を分業させ、両者を並立させた。
 この方式はいまなお続いている。現在の中国人民解放軍の兵力は約二三〇万人で、陸軍・海軍・空軍・第二砲兵 (戦略ミサイル部隊) に分かれている。なかでも約一八〇万人の兵力が集中する陸軍は七つの軍区に分かれ、その組織形態は、軍⇒師⇒団⇒営⇒連⇒排⇒班という単位で成り立っている。基本的には、班が三つ集まって排になり、排が三つ集まって連になり、連が三つ集まって営になり、営が三つ集まって団になり、団が三つ集まって師になり、師が三つ集まって軍となる。
 営以上の各単位には共産党委員会が設置され、党が指名した政治委員 (書記) がそれぞれの単位の党務、すなわち政治的任務を司る (つかさどる) ことになる。各政治委員の地位は軍長・師長・団長とまったく同格で、お互い監視し合っている。
 また、連には共産党支部が、排と班には党の小組が置かれ、それぞれ支部長・組長が各単位の隊長と並立して部隊を統括している。軍務と党務を兼任するのは、七つの軍区を統括する党中央軍事委員会主席で党総書記の胡錦濤ただ一人だ。
 軍の隅々にまで党の細胞を浸透させるこの方式は、ソビエト赤軍の創始者としてロシア革命 (1917) を戦ったトロツキーの発明である。

(中略)

 中華人民共和国成立後、共産党の忠実な番犬となった人民解放軍では、兵卒から将校に昇進するためにはまず共産党に入党することが条件となった。「排」以上の単位において非党員幹部の存在は許されない。なぜなら軍内の人事権は党が握っており、党の指名がなければ昇級が不可能だからである。ようするに、軍の幹部や実力者はすべて党員であって、彼らの行動原理は、軍人である以前に党員であることが求められる。


 中国人民解放軍には、軍のなかに政治委員が存在する。軍内党組織を建設することで、党の軍に対する指揮権を強化しているのである、と書かれています。



 要は、人民解放軍は党によって「軍内部からも」監視されている、ということです。その目的はもちろん、軍による (党に対する) 反乱を防ぐことであるはずです。

 とすれば、



 「国際戦略コラム」の「中国の意図と対応策

中国の国家体制は戦前の日本と同じで、内閣が軍を抑えることが出来ない。ナンバー1は胡錦濤国家主席であるが、ナンバー2は常務委員長の呉邦国で太子党かつ軍部の支持を得ている。ナンバー3が温家宝首相である。軍事委員会は内閣とは別であり、内閣より上の状態にある。今回の事件は元軍艦の漁船ということは軍部が実行したはずである。

中央軍事委員会主席は団派の胡錦濤であるが、実権は郭伯雄で中央政治局委員で太子党の方に組する。中央政治局の常務委員では、団派が5名(胡錦濤、温家宝)、太子党4名(呉邦国)という勢力である。この団派と太子党の権力闘争が起きる可能性が高い。

団派とは中国共産党青年団からのし上った人たちであり、太子党とは歴代共産党首脳の息子や孫と上海閥の連合体である。

特に軍部を味方にしている太子党は、経済分野を指揮する団派を苦しめるには、人民元の切り上げ問題で団派を国民の支持を失う可能性がある時に軍部を使って、権力闘争をすることは利にかなっている。


 尖閣沖漁船事件をめぐって、「中国の国家体制は戦前の日本と同じで、内閣が軍を抑えることが出来ない」「今回の事件は元軍艦の漁船ということは軍部が実行したはずである」と書かれています。



 軍が内閣とは異なった意図を持ち、勝手に動いているのではないか、と推測されているのですが、

 上記、人民解放軍における軍内党組織の存在を考えると、それは「ありえない」のではないか、と考えられます。中国人民解放軍は、中国共産党に対して逆らえない仕組みになっているからです。



 戦前の日本においては、軍は内閣ではなく、天皇に直属していました。内閣の干渉は「天皇の統帥権」を侵すものとして、問題だとされたのです。

 現在の中国においては、軍は国家ではなく、党に直属しています。人民解放軍は「国家の軍隊」ではなく、「党の軍隊」なのです。

 戦前の日本で、軍が天皇に逆らうことが考え難かったのと同様、現在の中国において、軍が党に逆らうことは考え難いと思います。絶対にあり得ないとまでは言いませんが、

   中国人民解放軍には政治委員がおり、
     党に対する反抗の兆候に目を光らせている

ことに鑑みれば、「戦前の日本軍以上に、人民解放軍が党に逆らうのは難しい」と考えられます。つまり、事実上、軍が党に逆らう可能性はゼロに近い、とみてよいでしょう。



 もちろん、団派と太子党の権力闘争に際して、太子党が軍部を使うとなれば、軍が「党に逆らう」のとは、事情が異なります。軍が「党の (一部勢力の) 意向を受けて」動くことになるからです。

 しかし、そのような動きがあれば、ただちに団派は、人民解放軍の幹部を更迭すればすむ話です。党の最高意思決定機関たる党中央政治局常務委員会において、多数決で幹部を更迭し、新たに適当な者を任命すれば足ります。したがって、「中央政治局の常務委員では、団派が5名(胡錦濤、温家宝)、太子党4名(呉邦国)という勢力である」とすれば、少数派である太子党側の意向に沿って軍が動くことはあり得ない、と考えられます。

 もちろん、実際には「中央政治局の常務委員では、団派が5名(胡錦濤、温家宝)、太子党4名(呉邦国)という勢力」ではなく、太子党側に有利になっている可能性はあります。しかし、仮にそうだとすれば、わざわざ軍を使って尖閣沖漁船事件を起こさなくとも、最高意思決定機関たる常務委員会において、政府の方針を太子党の意向に沿ったものにすれば、それで足ります。

 したがって、尖閣沖漁船事件が党内権力闘争の一端ではないか、という分析には、説得力が欠けているのではないかと思います。

民主党には、現場に対する敬意が欠けているのではないか

2010-11-18 | 日記
産経ニュース」の「民主・松崎議員が自衛官を「恫喝」か 「俺を誰だと思っている」」 ( 2010.11.18 01:30 )

 民主党の松崎哲久衆院議員(60)=埼玉10区=が今年7月、航空自衛隊入間基地(埼玉県狭山市)で行われた納涼祭で秘書が運転する車を呼び寄せる際、空自側の規則どおりの対応に不満を抱き、隊員に「おれをだれだと思っているのか」と“恫喝(どうかつ)”ともとれる発言をしていたことが17日、分かった。防衛省幹部や、自衛隊を後援する民間団体「航友会」関係者が明らかにした。

 入間基地では今月3日の航空祭で、航友会の会長が「民主党政権は早くつぶれてほしい」と発言。これを受け、防衛省は自衛隊施設での民間人による政権批判の封じ込めを求める事務次官通達を出した。松崎氏は会場で会長の発言も聞いており、周囲に強い不快感を示していたため、「納涼祭でのトラブルも遠因になり、異例の通達につながったのでは」(防衛省幹部)との見方も出ている。

 松崎氏は7月27日の納涼祭に来賓として出席。帰る際に駐車場から約30メートル離れた場所に自分の車を呼び寄せるよう、車両誘導担当の隊員に要求した。だが、歩行者の安全確保策として片側通行にしていた道路を逆走させることになるため、隊員は松崎氏に駐車場まで歩くよう求めた。

 ところが、松崎氏は歩行者はいないとして車を寄せるよう指示。隊員が拒否したところ、「おれをだれだと思っているのか」「お前では話にならない」などと発言した。

 別の隊員が松崎氏の秘書が運転する車を逆走させる形で寄せると、「やればできるじゃないか」という趣旨の発言もした。誘導担当の隊員が「2度と来るな」とつぶやくと、松崎氏は「もう1度、言ってみろ」と迫ったとされる。こうした過程で、松崎氏が誘導担当の胸をわしづかみにする場面もあったという。

 松崎氏は産経新聞の取材に一連の発言をすべて否定し、「(隊員の)体には触れていない」と述べた。一方、「(受付を通り越して)駐車場でしか車を降りられないなど誘導システムが不適切だと指摘はした」と説明し、「隊員に2度と来るなと言われたことも事実。(自分は)何も言っていない」と話している。


 民主党の松崎哲久衆院議員が自衛官を恫喝した。しかし議員本人は否定している、と報じられています。



 松崎議員は否定している、とのことですが、議員が「隊員に2度と来るなと言われたことも事実」とすれば、なんらかのトラブルがあった、とみるのが自然でしょう。そしてその「なんらかのトラブル」は、かなり (感情的に) 大きなトラブルだった、とみなければなりません。

 自衛官が議員に対し「2度と来るな」と言ったとすれば、それは当該自衛官にとって、かなり不愉快な態度を議員がとったと思われます。

 とすれば、議員が「おれをだれだと思っているのか」「お前では話にならない」などと発言し、さらに「やればできるじゃないか」という趣旨の発言もしたというのも、事実ではないかと考えるのが適切であるように思われます。

 とすれば、議員の「(自分は)何も言っていない」という発言は、

   あとになって、「これはヤバい」と思った議員が「とぼけている」

と考えるのが合理的である、ということになります。



 この種の事柄は、事実を「証明する」ことが難しいのですが、おそらく上記推測は正しいのではないかと思います。そして、(事実が) 上記推測の通りであるとすれば、自衛官の民主党に対する不信感は、かなりの程度にまで高まってきつつある、と思われます。

 「弁護士による「詭弁・とぼけ」かもしれない実例」などの経験から、「詭弁」「とぼけ」と思われる態度を (相手に) とられた場合、「かなりの不信感が生じる」と断言できます。



 尖閣ビデオの件もあり、自衛官・海上保安官のなかに、かなりの程度、現民主党政権に対する不信感が生じてきているのではないかと思います。それは自衛官・海上保安官に問題があるということではなく、民主党政権 (または議員) の側に原因があると考えるのが、適切ではないかと思います。

 自衛官・海上保安官は (場合によっては) 命をかけて国を守ろうとしている人々であり、もっと「現場に対する敬意」があってしかるべきではないかと思います。