
評価

「薬指の標本」「六角形の小部屋」の2作品。
標本技術士の許で働くわたしは薬指を標本にすることを望む。病院で働くわたしは彼を憎むようになり、語り小部屋に通いその思いを吐き出すようになる。小川洋子が語る「消滅」と「死と別れ」の世界。
楽譜、火傷、ジャックナイフ、練り香水、文鳥の骨、なんでも標本にしてしまう標本技術士・弟子丸とわたしの怪しい関係。弟子丸に黒い革靴を贈られたわたしの足は靴に侵食されて消えかかる。プールで出会った婦人の後を追ってついた荒れ果てた社宅管理事務所にはミドリと息子のユズルが暮らしていて、六角柱の語り小部屋を解放していた。わたしはその部屋に入り浸る。
「どんな道をたどろうとも、わたしたちはただ、あらかじめ定めれた場所へ向かうしか他に方法はないのです」
小川洋子の世界を現す言葉、である。
じわじわと小川ワールドに引き込まれる私であった。