言い替えは、要するに、ごまかしである。
大正時代、東京府庁社会科では、貧民や細民と言う語が「帝都の名目上耳障り」と
あって、「少額収入生活者」と改称することに決定したそうである。
改称の理由も凄いが、「少額収入生活者」も、役人が考えそうな言葉である。
こちらの方が、よっぽど人を見下ろしている
同じ頃、某銀行も、従来の「小口当座預金」の名称を「特別当座預金」と改めたという。
大正期は、名称改正が流行したらしい。大正デモクラシーであろうか。
「女中」という語が問題になっている。「お手伝いさん」と言い替えられたのは、
昭和三十年代だが、大正時代には次のような案が出たという。
いわく、「家庭手」。いわく、「家庭婦」。いわく。「家事取締役」。
いわく、「保母兼家事婦」。いわく、「主婦の助手」。いわく、「家政補助者」。
家庭手と家庭婦の他は、文章で使う名称だろう。
家庭手だが、この頃、京阪電車では、「運転手」を「運転士」と改めたそうだ。
法学士、弁護士、弁理士にならったらしい。家庭手を家庭士にせよ、との意見は
なかったのだろうか。?
☆
他にどんな言い換え語が生まれたかというと、こうである。
(荒木良造著「詭辯の研究」昭和七年刊、による)
産婆が、助産婦。強姦が、暴行。處女会が、女子青年団。軍国主義が、ミリタリズム。
一等卒二等卒が、一等兵二等兵。輜重輸卒が、特務兵。小僧が、小店員。便所が、化粧室。
催眠術が、心霊術。高等女学校が、女子中学校。借金が、債務。手品が、魔術。
☆
更に、「舶来品」なる語は「輸入品」または「外国品」に、「内国品」は、「国産品」に
改められた。他にもたくさんある。「廃兵」が「傷兵」。「不良少年」が「保護少年」。
「木賃宿」が「軽便宿」または「簡易宿」「大正宿」「貸宿」などなど。
☆
「巡査」という名称は、文字の意味が「巡(めぐ)って査(しら)べる」で感じが悪いから、
改めてもらいたい、という要望が、大正十二年の警察部長会議で出た、とある。当然、
「おまわりさん」という愛称も、議論にかけられただろう。
☆
私の友人の子が三歳か四歳のころ、駅前の交番の前を通るたび立ち止まって、その当時
流行していた「いぬのおまわりさん」という童謡を声高らかに歌いだし、友人は大いに閉口
したらしい。交番の「巡査」は、しかし笑顔でうなずいていたという。
出久根 達郎
セピア色の言葉辞典 より
文藝春秋 文春文庫 税込価格:¥660
最近の言い換えは、
売春→援助交際、これは、もう、何をかいわんや!
「車で殺人」を「交通事故」に言い換えなど。
まだまだ、ありそうですね。
その前に、極端な差別用語廃止論も、変です。
昔の言葉はわかりやすいのにと、思います。
それでは、昔の小説、浪曲、講談、落語、映画など、
面白さに欠けると、勝手に思っています。
渡り・天下り→官公労協定。菓子業界の陰謀→バレンタインディー!?
呼び名が変わっても、内実は変わらないわけですから、空しいですね。
本音と建て前。
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