このページでは静止しているBHがホーキング放射を出す状況をさらに確認します。
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自然単位系を採用。
まずは質量mのBHのホーキング温度Tを計算しましょう。
T=h*C^3/(8*pi*kB*G*m) =1/(8*pi*m)
そうして温度Tで黒体が放射するエネルギーのスペクトル分布でピークとなっている光子がもつエネルギーEはこうなります。
E=2.821*T
Tにホーキング温度を代入すると
E=2.821*T=2.821*1/(8*pi*m)
=0.1122/m
このエネルギーを持つ光子の運動量Pはこうなる。
E=P*C=P*1=0.1122/m
従って P=0.1122/m ・・・①式
静止しているBHのホーキング放射の制限条件は m/2 > P であって境界は m/2 = P の直線となります。(注1)
m/2 = P ・・・②式
①式は質量mのBHが放射するホーキング放射のエネルギーのスペクトル分布でピークとなっている光子がもつ運動量Pを表しています。
他方で②式は静止している質量mのBHのホーキング放射の制限条件m/2 > Pの境界を示す式です。
それでこの2つの式が交差する場所を求める為に、mについて解きます。
0.1122/m=m/2
m^2=0.1122*2
m=0.4738
ウルフラムでその状況を確認します。
y=0,x=0.000001,y=0.5*x,y= 0.1122/x,y= 2.32*0.1122/x の0<x<2,-0.0001<y<2 プロット
実行アドレス
ここで横軸がBHの質量m、縦軸がホーキング放射の運動量Pを示します。
直線と曲線の交点が上記計算どおりプランク質量Mpのほぼ半分の位置になっています。
ちなみに曲線が2つ表示されますが、下の曲線が質量mのBHが放射するホーキング放射の分光放射輝度でピーク位置の光子がもつ運動量P(=①式)を表しています。(注2)
そうしてこの相対論による制限によってBHは最後に爆発的にガンマ線を出して消える、のではなくあたかも線香花火の最後の様に「だんだん弱くなるホーキング放射を、出す頻度を落としながらBHの質量ゼロをめざして出し続けるのであろう」という事が分かるのです。(注3)
以上の状況を再度、スケールを変えて確認します。
y=0,x=0.000001,y=0.5*x,y= 0.1122/x,y= 2.32*0.1122/x の0<x<4,-0.0001<y<4 プロット
実行アドレス
4プランク質量(=BHの直径が16プランク長)あたりから質量ゼロまでのプロットです。
やはり1プランク質量(=BHの直径が4プランク長)を切ったあたりから「ホーキング放射の一般解による制限がかかりはじめる」という状況が確認できます。
そうして0.5プランク質量を切りますれば、発生する仮想粒子ペアのエネルギーの過半数が制限条件にひっかかり、BHによって無視されます。
その状況はBHの質量がゼロに近づけば近づくほどひどくなり、BHはたまにほとんどゼロエネルギーのホーキング放射を出す事しかできなくなるのです。
さて、しかしながらその状況は逆に言いますと「静止BHを前提にすると、1プランク質量まではホーキング放射の一般解による制限はほぼ無視できる」という事になります。
そうではありますが「1プランク質量からホーキング放射で質量ゼロをめざすBHの旅」は通説がいう様な「一瞬で終わる」のではなく、「無限に長い時間が必要になるであろう」という事が分かるのです。(注4)
そうしてその事の具体的な寿命計算の内容は次のページ以降に譲る事に致します。
注1:ちなみに m/2 = P の時にはホーキング放射でBHの質量がゼロになってしまいます。
エネルギーの保存則だけを考慮した場合はこれで問題はないのだが、BHはこの条件では運動量の保存則を満たしながらホーキング放射を出す事はできない事が分かっている。
つまり m/2 = P の時にはホーキング放射が起こらないのである。
したがって事実上の制約条件は m/2 > P となるのです。
注2:それに対して上の曲線は全ホーキング放射の内で低いエネルギーから高い方に分光放射輝度分布を積分した時に、全エネルギーの90%までカバーした時のホーキング放射の内で最もエネルギーを持つ光子の運動量Pを表しています。
そうしてここで2.32という係数はホーキング放射の①式から90%を示すラインを出す為のものであり以下の様にして決まります。
「プランクの法則」の「百分率」から: https://archive.md/Nh670 :
①式が示すE=2.821*kb*T の位置は64.6%でありそれはx=5099の点
それに対して求めたい点は10%点と示されており、それは2195:x = λT [μm⋅K]
但しここでういきの積分の仕方が当方の説明とは逆転していますので10%=100%-90%となっています。
そうして放射光のエネルギーEはE=h*周波数 で求まります。
従って周波数比率がそのまま光子が持つエネルギー比率になる事がわかります。
そうであれば周波数が必要になります。
周波数はういきの表示がx = λT [μm⋅K]となっていますので
C/λ=周波数=C/(x/T)=C*T/X として求める事が出来ます。
ここでもちろんTは黒体のその時の温度をしめします。
さてそれで上記プランク則より90%での最大エネルギーをもつ光子の振動数は
振動数(90%)=C*T/2195
同様にして64.6%点は
振動数(64.6%)=C*T/5099
90%ラインと64.6%ラインのエネルギー比は従って
振動数(90%)/振動数(64.6%)
=(C*T/2195)/(C*T/5099)
=5099/2195≒2.32
こうしてホーキング放射の分光放射輝度でピーク位置の光子がもつ運動量Pのエネルギーレベル(=①式)の2.32倍で分光放射輝度で見た時の90%確保ラインが分かるのです。
そうしてこの90%ラインを見る事で1プランク質量(=BHの直径が4プランク長)を切ったあたりから「ホーキング放射の一般解による制限がかかりはじめる」という状況が確認できるのでした。
ちなみにこのラインから上に残りの10%が存在するのですが、その上限値は計算上は無限にまで伸びている事になっています。
しかしながらそのような光が発生する確率はほぼゼロという事になります。
注3:「なぜホーキング放射の出す頻度が落ちるのか」といいますれば「仮想粒子の対生成そのものの回数はBHの質量が落ちるに従って増加していく」のですが、発生した仮想粒子の内でエネルギーの高いものは制約条件「m/2 > P」に抵触する為にBHによって無視され、ホーキング放射となる事ができないからです。
これによって「BHの質量が減少するに従って多くの仮想粒子対が発生しますが、その中でホーキング放射に結びつくものは非常に少なくなる」のです。
注4:その旅が有限の時間内で終わる事はできない、という事は実は「BH消滅不可能定理」によって既に保障されています。
つまり「1プランク質量を切ったBHはそこから無限回、ホーキング放射を出すのですが、それでもBHの質量はゼロには到達できない」という事になります。
追記:質量mのBHがだす典型的なホーキング放射のエネルギーEの件
T=h*C^3/(8*pi*kB*G*m) であり E=2.821*kb*T であるので実は
E=2.821*kb*h*C^3/(8*pi*kB*G*m)
=2.821*h*C^3/(8*pi*G*m)
であって、質量mのBHがだす典型的なホーキング放射のエネルギーEはボルツマン定数kbとは無関係になります。
これをMEに質量換算すると
ME=E/C^2=2.821*h*C/(8*pi*G*m)
=2.821/(8*pi*m)*(Mp)^2
=2.821/(8*pi)*(Mp/m)*Mp
(Mp/m)=Rとすれば
ME=2.821/(8*pi)*R*Mp
=0.1122*Mp*R
但しプランク質量Mpは m_P = √(ħc/G)
つまり「質量mのBHが出す典型的なホーキング放射のエネルギーを質量換算したものはプランク質量の10%程にプランク質量をBHの質量mで割った値を掛けた値になっている」のです。
さてこの話「何が面白いのか」といいますれば「ホーキング温度もボルツマン定数もここには現れてこない」という所にあります。
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そうしてここでMP=1にすると本論の式になります。(MP=1の自然単位系)