前ページまでの議論で「ホーキング放射の一般解」が導出できました。
まずはそれをベースに議論を進めます。
1、ホーキング放射の一般解を使った静止BHのシミュレーション手順について
それでホーキング放射を「・その2・ ホーキング放射のメカニズム」で示したシナリオに沿って離散的に計算を進める時に(=ランダムシミュレーションする時に)この「ホーキング放射の一般解が示す制約」が必要になります。
その状況と言うのは例えば1グラム以下の質量にまでホーキング放射によって質量が軽くなったBHの状況をそこからプランクスケールに至るまで計算する時に必要となるものです。
計算のスタートはホーキング放射の反動でBHが移動する速度が光速Cに対して無視できるあたりのBH質量mに設定します。
その状況でBHの中心に座標原点をとり、BHのホーキング温度を計算し、乱数によってその温度で発生する仮想粒子ペアのエネルギー(=運動量P)と運動方向を決めます。
そうやって決められた運動量Pと3次元内での運動方向があれば最初の計算、それはBHが静止している、と言う状況に運動量Pをもつ仮想光子が飛びこみ、その結果、BHの質量が減少し、もう一方の仮想粒子が実粒子化してホーキング放射となりBHから飛び去る状況が計算できます。
さて「ホーキング放射の一般解」は次の通りでした。
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-2P*sqrt(m^2+Q^2)+(m^2+Q^2)+P^2-R^2 ・・・⑧式
この式の値がゼロ以上である事がこのBHがホーキング放射を出すことが出来る仮想粒子の運動量Pを決めています。
なんとなれば「ホーキング放射を出した後のBHの質量はゼロ以上である事が必要だから」ですね。
そうであれば ⑧式≧0がホーキング放射の起きる事が可能である事を示す判定式、「ホーキング放射の一般解」となります。
但しここでQ=PbhであってそれはこのBHが最初に持っていた運動量の大きさ、mは仮想粒子が飛びこむ前のBHの静止質量、PはBHに飛び込んだ仮想粒子の運動量の大きさ(=Pベクトルの絶対値)。
そうしてRはR=(Pbh+P)で(Pbh+P)は当初のBHの運動量ベクトルPbhとそのBHに飛び込んだ仮想粒子の運動量Pをベクトル合成したベクトルの大きさ(=絶対値)となります。
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2、静止しているブラックホールの寿命計算
2-1、制約条件の導出
対象のBHは最初は静止している、としていますから、Q=Pbh=0で、R=(Pbh+P)=Pです。
従って「ホーキング放射の一般解」は
-2P*sqrt(m^2+Q^2)+(m^2+Q^2)+P^2-R^2 ・・・⑧式
でQ=0、R=Pを代入して
-2P*sqrt(m^2)+(m^2)+P^2-P^2
=-2P*m+(m^2)
=m*(-2P+m) ・・・⑨式
です。
この⑨式がゼロ以上の値になるP、それはBHに飛び込む仮想粒子の運動量の大きさを示しますが、そのように乱数によって指定された仮想光子が設定されていればBHはホーキング放射を出す事が可能となります。
⑨式≧0 ですから
m*(-2P+m)≧0
mはBHの当初の質量だから、ここではプラスです。そうなるとこの条件は
(-2P+m)≧0 となり、従って
m/2 ≧p
がこの場合にBHに飛び込むことになる仮想光子が持ちうる運動量Pの範囲を示します。
但し m/2 =p の場合、⑨式の値はゼロになり、それはこの条件でホーキング放射が起こるとBHの質量がゼロになる事を意味しています。
そうして、そのような状況は「運動量保存則違反になる」ので「禁止されている」という事は従来から申し上げている内容です。(注1)
そうであれば「ほぼ静止していると見なせるBHの場合」は実質上のホーキング放射制約条件は
m/2 >p
となります。(注2)
ちなみに「BHのホーキング温度が上昇し、m/2 >pを越える運動量(=エネルギー)を持つ仮想粒子がBHに飛び込んだらどうなるのか?」といえば、BHは単にそのような仮想粒子を無視するだけです。
つまり、その様な高いエネルギーを持った仮想粒子はBH内に入っても何も起こらずに、時間がくればその仮想粒子は単に消え去るだけで、ホーキング放射を引き起こす事は無いのです。
注1:今「静止しているBHに仮想粒子が飛びこんでその質量をゼロにした=BHを消滅させた。」とします。
それは「ホーキング放射が消滅したBHの代わりに誕生し、運動量PでBHに飛び込んだ仮想粒子と反対方向に飛び去った」という事になります。
そういう事が起こりますと「最初は系の合計運動量がゼロだったのに、BHが消滅後はホーキング放射分だけ系の合計運動量が増加している」ということになります。
そうして「宇宙の運動量は保存している」=「運動量保存則が成立している」のですから「上記の様なホーキング放射は起らない」という結論になります。
つまり「BHが静止している場合は m/2 =p は禁止されている」という事になります。
注2:静止しているBHにm/2 >pを満たす仮想粒子が飛び込みます。
そうなると当然BHは運動量Pを持って仮想粒子が飛び込んできた方向に動きだします。
他方でそのBHの運動方向とは真逆の方向にペアで対生成した仮想粒子の片方が実粒子化し、これも運動量Pをもって飛び去ります。
こうして「最初に静止していたBHは初回のホーキング放射を出す事で動きだす」のです。
そうであれば次回以降のホーキング放射はこの動き出したBHが出す事になります。
そしてその場合のホーキング放射の制約条件はすでに求められている「ホーキング放射の一般解」が決める事になるのです。