しかしながら、光が放出される、とするとそれはBHがローカットフィルターとなり、ホーキング温度Tで一番多く放射されるはずの振動数νpの14倍以上の振動数でないとBHは吸収せず、したがってホーキング放射も起こらない、と言うのが前回の結論でありました。
その事は放出される最低のエネルギーレベルが従来想定していた平均のエネルギーレベルの14倍程度になる、ということでもあり、従って対生成するであろう仮想粒子の寿命は14分の1となり、その粒子の飛行継続距離も14分の1程度に落ちるという事になります。
そうなりますと、従来は「多層の粒子放出層モデル」でホライズン半径の2倍程度の放出層の厚さを考慮すればよかろう、としてきましたが、とてもそれほどの層の厚さを想定する事は出来ない、と言う事になります。
飛行距離の議論は「ホーキングさんが考えたこと・15」で行いましたが、それと同じ議論を今度は「光の場合は飛行継続距離が14分の1になる」という条件を入れて再度行う事になります。
「15」での議論は温度Tでの放出数がピークとなる振動数νpを指標とし、その粒子の飛行距離がホライズンまでの距離の何倍になっているかで、黒体放射スペクトルを示す放射粒子について、十分な数の粒子がホライズンに到着できるかどうかを判断していました。
それに対して今回は状況が異なり、BHに吸収されるであろう最低エネルギーの振動数をもつ光が判断基準を与えます。
この光がとにかくBHに到達する事、そのような条件をまずは調べましょう。
それは振動数νpを指標とした場合にその飛行距離がホライズンまでの距離の14倍以上必要である、と言う事になります。
それぐらいホライズンに近い場所からでないと、仮想粒子がホライズンに到達できない、到達する前に仮想粒子は消滅してしまう、と言う事になります。
さてそれで「15」では2つのケースについて考察しました。
飛行コースとしてホライズンに到達可能な円錐の外面に沿って飛ぶ場合(このコースが最悪条件です)、それからその円錐の中心軸近傍を飛行する場合(これは最良条件です)の2つでした。
今回も同様に「15」を参照しながら、この2つのケースで見ていきましょう。
円錐の外面に沿って飛ぶ場合(最悪条件)
比率1.114X^2/sqrt(X^2-1)=14として、Wolfram|Alphaでその根の値を調べます。
「14=1.114X^2/sqrt(X^2-1)の根」と入力して
X=10/557*SQRT(70*(3500-3*SQRT(1326639)))=1.003201を得ます。
↑
仮想粒子(光子)はX=1から1.003201という範囲内の位置での発生のみが許容される事がわかります。
円錐の中心軸近傍を飛行する場合(最良条件)
比率1.114X^2/(X-1)=14として根を求めます。
「14=1.114X^2/(X-1)の根」
X=-10/557*(SQRT(83510)-350)=1.095494
↑
今度はXが1から1.095494という範囲内の位置での発生までが許容され、相当に許容範囲が広がる事が分かります。
さて、こう言う場合はたいてい平均値を使うのが妥当であります。
(今回のここでの議論はその程度の厳密さしか持たず、ある程度の目安を確認するという事であります。)
それで求めるXは
X=(1.003201+1.095494)/2=1.0493475≒1.049
こうしてXの許容範囲が1<X<1.049と決定できました。
フェルミオンの場合は1<x<3を許容していましたので、それに比べると随分と光の場合は仮想粒子の発生可能な許容範囲が狭く、かつホライズンに近い、と言う事が特徴的であります。
次にこの範囲で「ホーキングさんが考えたこと・14」の議論を参照して(1/X^6)(1-sqrt(X^2-1)/X)を積分します。
「(1/X^6)(1-sqrt(X^2-1)/X) 積分範囲1から1.049」を入力し、
答えは0.0341を得ます。
フェルミオンの時は同様に積分した結果、得られた補正数値は0.1018でしたので、光の場合はその値の33.5%、約3分の1になる事がわかりました。
結論
フェルミオン放射に対してホーキング放射が光である場合は、エネルギー増加による仮想粒子の存在時間の短縮、ひいては仮想粒子の飛行距離が短くなるという影響を考慮する必要があり、その結果フェルミオンの場合よりも許容される仮想粒子発生層が薄くなり、その事によって放射効率がフェルミオンに比べて約3分の1になるという事になります。
(ちなみに前回検討したのは、光放射の場合にはBHがローカットフィルターとして働く為に黒体放射スペクトルでの放射が実現できず、その分放射効率が落ちる、と言う話であり、今回のこの話とはまた別の話であります。
つまり、BHがフェルミオンではなく光を放射する、とした場合にはフェルミオンの場合にはなかった、新たに発生する事になる2つの放射効率を阻害する要因が絡んでくるのです。
それはBHが光に対してはローカットフィルターになる、それから光の場合は仮想粒子の飛行距離が落ちという事であります。)
追伸
さてそう言う訳で、以下、前回「17」で提示した寿命関連の記述は次のように修正される事になります。
↓
『従来のBHの寿命式はこうでした。
t=(8.41E-17)*M^3(Sec)
この式ですとM=250000Kg(250トン)に到達してから寿命まではt=1.314secです。
これが前回まで提案してきた「多層の仮想粒子発生モデル」ですとほぼ10倍のt=13.14secに伸びます。<--フェルミオンの場合はこれでOK。
↓
でも光の場合には、ここが10倍からさらに3倍した30倍に修正する必要がある、というのが今回の検討結果になります。
そしてその結果はt=13.14secから39.42sectに伸びる事になります。
さらにBHが放出する粒子は光子のみである、とすると寿命は上記の6.85*10^11倍に伸びて29.1万年程となります。<--BHが光の低周波数側を受け入れない事による結果です。
↓
上記のt=13.14secーー>39.42secが加味されその結果、寿命は29.1万年が85.6万年程にさらに伸びる、という事になります。』
同様に「17」の注2の記述も以下の様に修正されます。
『注2
BHが光子のみを放出と言う事で計算すると、最後の1秒で8.3Kgの質量が光子(γ線)に変わります。
それは7.46E+17(J)程度でありTNT換算で178メガトン、水爆3個程度に相当する爆発が起こりそうです。
ちなみに最後の瞬間から2年前の1日間ではTNT換算で376トンのエネルギーがγ線に変換されます。
それは1.57*10^12(J)/日=18205KW。
一般世帯4550軒相当のエネルギーになります。
そうであれば、BHの蒸発の観測、というのはこの辺りの状況が限界かと思われます。
その時のBH質量は3316Kg(車2台分程度),ホライズン半径は4.92*10^-24(m)。
陽子半径が8.75*10^-16(m)ですから、まあBHというものはいずれにせよ大変なしろものではあります。』
ホーキング放射が実際にはニュートリノを放出するプロセスがどれくらいの割合を占めて、光を放出する割合がどれくらいであるのか、あるいはあったのか、BHの寿命計算に与える影響を見てもそれはとても重要なポイントである、と言う事が分かります。
しかしながら、それについての情報、手がかりは残念ながら今の所はあまりない様であります。
加えて申し添えますれば、BHの最後の1秒間に放出される事になるエネルギーがγ線であれば人類にとってそれは観測可能な事象となりますが、ニュートリノであった場合は、その観測は非常に難しくなる、それはまるで「無音の爆発」の様であります。
注1
以下、上記追伸のさらに重力赤方偏移による修正となります。<--リンク
BHから放射される光は重力赤方偏移を受けます。
wikiから、仮想粒子放出点rでの時間間隔(時間の流れのスピード)=BH重力圏外の観測点の時間間隔*SQRT(1-Rs/r)。
放出点で振動数νを持つ光の周期は1/νになります。
従って1/ν(放出点)=1/ν(観測点)*SQRT(1-Rs/r)
観測されるエネルギーEはE=(生h)*ν(観測点)であり、観測点での光の振動数に比例します。
そうしてν(観測点)=ν(放出点)*SQRT(1-Rs/r)によって放出される光の振動数ν(放出点)に対しては重力による補正を行いν(観測点)を求める必要があります。
今回はr=1.049*Rsと決めましたので、この値で修正値SQRT(1-Rs/r)を計算します。
r=1.049*Rsを代入してSQRT(1-Rs/r)=0.2161・・・が求まります。
以上より上記記述は最終的に以下の様になります。
『注2
BHが光子のみを放出と言う事で計算すると、最後の1秒で8.3Kgの質量が光子(γ線)に変わります。
それは1.61E+17(J)程度でありTNT換算で38.5メガトン、水爆0.6個程度に相当する爆発が起こりそうです。
↑
観測点ではこうなります。
そうして、我々は対象BHの重力圏外に位置する観測点でしか、このような小さなBHの状況は観測できないのであります。
↓
ちなみに最後の瞬間から2年前の1日間ではTNT換算で81トンのエネルギーがγ線に変換されます。
それは3.39*10^11(J)/日=3935KW。
一般世帯962軒相当のエネルギーになります。』
そうして重力赤方偏移は観測されるエネルギーについての修正にはなりますが、BHの寿命そのものには影響を与える事はなく、寿命の計算は従来の考え方で問題はありません。
さてそう言う訳で、従来の計算では原始BHの最後は1秒間で250トンの質量がγ線に変わり、大変な爆発現象が観察される、と期待されていましたが、実際に状況を詳細に検討してみますれば、250トンが8.3Kgになり、さらには重力赤方偏移の効果によって観測されるエネルギーは1.8kg相当の質量がγ線としてエネルギーに変換された様に見えるだけの様です。
そうであればこれはBHの最後の姿というものが、本当にいつのまにか「大爆発ではなく、線香花火になってしまった様なもの」であります。
以下、ご参考までに。
・銀河中心ブラックホールの近傍で一般相対性理論を検証<--リンク
http://archive.fo/J68su
注2
[そうして重力赤方偏移は観測されるエネルギーについての修正にはなりますが、BHの寿命そのものには影響を与える事はなく、寿命の計算は従来の考え方で問題はありません。]
↑
こう書きましたが、BHタイム、[BHがホライズン近傍で感じている寿命]はこの記述の通りでありましょうが、さて、[BHの重力圏を離れた外部の観測者が測定する寿命]が本当にBHタイムと同一であるのかどうか、そこの所は多少の疑問が残る所でもあります。
・ダークマター・ホーキングさんが考えたこと 一覧<--リンク
http://archive.fo/I2zbR
http://archive.fo/Fq8Dz