1、ローパスフィルターになったBHについての寿命式導出の考え方
前のページで示した様にBHは②式よりも高いエネルギーでホーキング放射を出す事ができません。
m/2 = P ・・・②式
これはつまりBHがローパスフィルター=ハイカットフィルターになっている事を示しています。
さて通説のBHの寿命式の導出は「BHは黒体放射をする」が前提になっています。
つまり「ホーキング温度を黒体温度と読み替えることでBHからでてくるホーキング放射が黒体放射分布のスペクトルをもつ」としているのです。
しかしながらその様な前提が成立するのは1プランク質量のBHまでであり、それ以降はそのBHはローパスフィルター=ハイカットフィルターとしてふるまう、という事を前のページでは示しました。
従いましてローパスフィルターになったBHの寿命計算についてはいままで通用していた黒体放射前提でのやり方がそのままでは使えなくなります。
それではどうするのか?
黒体放射前提のやり方を修正して、それは近似計算になるのですが、寿命式を出す事が必要になります。
その寿命式で計算した時に実際に「BH消滅不可能定理が成立しているかどうか」が寿命式導出がうまくできたかどうかの目安になります。
しかしながら、②式が制約条件を表していますので、それを使って1プランク質量あたりからランダムシミュレーションを行う事も可能です。
そうであれば「そのように具体的にホーキング放射をシミュレートすれば良いのでは?」という声がきこえます。
しかしながらその方法では「なるほど順次BHの質量は減少していく」という事は分かるのですが、多数回のホーキング放射を出した後でBHの質量がゼロになるのかならないのか、それが分からないのです。
というのも「無限回のホーキング放射のシミュレーション」と言うのは計算機では不可能であるからです。
したがいまして「どうしても積分を前提とした寿命式が必要」であって、そのようにできれば今まで行ってきたように「1プランク質量から0プランク質量まで積分する事」でどれほどの時間が必要になるのか、あるいは積分が発散して有限の寿命値にならないのか判断できる事になります。
さてその近似寿命式導出の手順ですが、次のようになります。
通説では黒体放射を前提としたStefan-Boltzmann の法則より温度 T,半径 r の物体が単位時間あたりに放つエネルギー Eを次のようにしています。
但し以下の諸式運用では自然単位系を使っています。
ホーキング温度Tは
T=1/(8*(pi)*M)
Stefan-Boltzmann の法則より温度 T,半径 r の物体が単位時間あたりに放つエネルギー E は
E=((pi)^2*T^4)/(60)*(4*(pi)*r^2)
Schwarzchild ブラックホールの半径 r は
r=2GM/C^2=2M
および,温度 T は
T=1/(8*(pi)*M)
代入して
E=((pi)^2*T^4)/(60)*(4*(pi)*r^2)
=((pi)^2*(1/(8*(pi)*M)^4)/(60)*(4*(pi)*(2M)^2)
ここでウルフラムに登場願う
実行アドレス
答えは
1/(15360*M^2*(pi))
ちなみに同時にプロットされているグラフが単位時間あたりにBHがホーキング放射で出すエネルギーを示している。
最初のグラフではM=0の時に出力エネルギーが発散する事を示している。
しかしながらそこでの継続時間がゼロなので、出力エネルギーは発散しません。
2番目のグラフはそのあたりの状況が分かる様に拡大表示されている。
これを見ると2プランク質量あたりからホーキング放射で出てくるエネルギーが増加し始め、1プランク質量ではすでに暴走状態になっている事がわかるのです。(注1)
さてこのように通説の寿命式ではBHはハイカットフィルターにはなっておらず、BH近傍で対生成した仮想粒子のエネルギーがどれほど大きくてもBHはそれを受け入れる、つまり「分光放射率で見た時に、BHは100%の効率でホーキング放射をだす」という事が前提となっています。
しかしながら実際はその時に相対論による規制が②式によってかかります。
その結果はStefan-Boltzmann則で算出できた単位時間あたりにBHが放出するエネルギーが少なくなる、つまりは「100%の出力が出なくなる」のです。
従って「その分BHの寿命はのびる」という事になるのです。
そうであれば問題は「どれだけ相対論による規制によって放出エネルギーが抑えられるのか」が分かればよい、そうなればそれを通説の寿命式導出の手順の中に組み込める、という事になります。
そうしてそれができれば「積分計算で寿命が計算できる」となります。
注1:通説の寿命式導出の手順は「その5-3・ブラックホールの寿命計算」からの引用です。