2、ローパスフィルターになったBHについての寿命式の導出
相当に荒っぽい近似をする事になりますが、つねに寿命が短くなる方向に=放射エネルギーが大きくなる方向に近似していく事にします。
それはつまり「BHの寿命は無限である」という「BH消滅不可能定理」に対しては不利な前提での近似寿命式の導出になっている、という事になります。
そうでありますからこの近似寿命式で計算した場合の寿命が無限であった場合は「近似なしの方法で導出した寿命式ではもちろん寿命は無限となる」という結果が保証される事になります。
基本的に「近似寿命式での寿命計算時間< 近似なしの寿命式での寿命計算時間」となっていますからその様に主張する事は妥当な事であります。
さてそれで、状況をもう一度確認しておきます。
y=0,x=0.000001,y=0.5*x,y= 0.1122/x,y= 2.32*0.1122/x の0<x<2,-0.0001<y<2 プロット
実行アドレス・・・図1
双曲線で50%ラインと90%ラインが表示されていますが、下の曲線である50%ラインを使います。
それでこの50%ラインが規制ライン(=②式)とクロスする点はほぼ0.5プランク質量となっています。
そうして近似寿命式ではここから質量ゼロまでの寿命計算を行う事を考えます。
さて図1の認識として「0.5プランク質量では発生する仮想粒子のエネルギーのほぼ半分、高エネルギー側がホーキング放射にならない」という様に理解します。
あるいはその様に図1の状況を解釈します。(注1)
そうして今度は周波数を横軸に取ったプランク分布を参照するのです。
黒体輻射に対するプランクの分布則: https://archive.md/5rtYS :図1・1「黒体輻射強度のスペクトル分布の振動数依存性」を参照します。
図1・1が周波数を横軸に取ったプランク分布になっています。
それを見ると分かるのですが「黒体の温度が上がると分布は右にずれますが、分布形状は相似である事」がわかります。
これが「プランク分布は温度によって分布形状が変わらない」と言われているものです。
それでこの分布のピーク位置で発生した仮想粒子のエネルギーを求めて示したものが上記図1で示した50%ラインのカーブになっています。
そのプランク分布形状だけを抜き出すと以下の様な式で表現できます。
x^3/(e^(x/100)-1) ,0<x<1500
実行アドレス
このグラフの極大値はこうなります。
x^3/(e^(x/100)-1) ,0<x<1500 の極大値
実行アドレス・・・図2
結果にある右上の「近似値」をポチります。
Xが282.14の時に極大値を取る事がわかります。
そうしてこの282.14と言う値がプランク則でピーク位置のエネルギーを出す式
E=2.821*kb*T
の係数になっている事が分かるのです。
ちなみにこの式でkbはボルツマン定数、Tは温度です。
そうして次は図2に示されたプランク分布の形状を二等辺三角形で近似する事を考えます。
やり方は「図2の原点からグラフのピーク位置まで直線を引きそれを左辺とし、そこで折り返してピーク位置から左辺に対称にX軸に向かって直線を引いてそれを右辺」とします。
-(1421435/282.14)*(x-564.28),1421435/282.14x,x^3/(e^(x/100)-1) ,0<x<1500,0<y<1500000 プロット
実行アドレス・・・図3
そうやって作られたこの二等辺三角形の面積はもともとのプランク分布形状よりも小さい事に留意してください。
それで図1に戻るならば、その二等辺三角形の底辺がX軸上の0.5プランク質量を示す位置からY軸に平行に上方に立ちあがっている様に想像します。
そうしてその二等辺三角形のトップの位置をちょうど50%ラインの位置に合わせるのです。
それでその時には相対論による規制ラインがほぼその三角形のトップの位置にある事になっています。(注2)
y=-0.5556*(x-1.32),y=0.5556*(x-0.4737),y=0.5*x,y= 0.1122/x,y= 2.32*0.1122/x,x=0.4737 の0<x<1,-0.0001<y<1 プロット
実行アドレス・・・図4
そうしてその時にその二等辺三角形がBHが0.5プランク質量の時に発生しうる仮想粒子のエネルギー分布=プランク分布を示している、とするのです。
その様にこの二等辺三角形を解釈しますと、そのエネルギー分布の上半分が規制ラインよりも上にあるのでホーキング放射とならない事がわかります。
このように近似する事でこのBHが0.5プランク質量の時に黒体近似して求めたBHのエネルギー放射量の少なくとも半分は無効になっている事を示す事ができました。
しかしながら実際にそこにプランク分布形状を正しく置くならば、規制ラインより上方にある面積はそこに置かれた三角形の半分を超えている事は事前に指摘した通りです。
従ってこの三角形の上半分にしめる部分のエネルギー総量は下半分のエネルギー総量よりも実際は多いことになります。
さてそうではありますがここでの状態で、黒体放射に対する修正係数を0.5とします。
つまりこれは「ここに置かれた三角形の下半分の面積がホーキング放射となる事を許される」という事になります。
もちろん、実際の修正係数は0.5よりも相当に小さくなっているのですが、ここでは0.5として扱います。
こうやって「BHの寿命を実際よりは短く計算する様に近似寿命式を組み立てる」のです。
注1:実際は「その7-2・静止しているブラックホールの寿命計算」で示した様にその点までエネルギーゼロから積分しますと35.4%の出力となります。
この点のういき表示の数字では64.6%になっていますが、ういきは高エネルギー側からの積分表示なのでここで使う数値は以下の様にういきの表示とは逆転します。
35.4%=100%-64.6%
ですから残りの高エネルギー側の出力は64.6%となります。
つまりは「0.5プランク質量で発生する仮想粒子のエネルギーの64.6%がホーキング放射にならない」のですがこれを50%がホーキング放射にならない、と近似します。
それは「実際よりも多くのホーキング放射が発生している」という条件になるのですがそれで近似式を考えるのです。
そうであればこの前提からは「導出された近似寿命式では実際の寿命よりも短く寿命が計算される」という事になるのです。
ちなみに「50%ライン」は実は「35.4%ライン」なのですがそれをここでは「50%ライン」と呼んでいます。
注2:実際は0.5プランク質量より小さい場所で50%ラインと②式で表された規制ラインがクロスしていますので、その場所での状況を説明している事になります。
とはいえきりが良い数字を使いたかったのでここではそれを0.5プランク質量として話しています。