以下、まえのページで説明した内容の具体的な計算となります。
そうしてこのページではホーキング温度について通説の寿命式に従った場合と、修正された場合の2通りを算出し比較します。
1、通説の寿命式の場合
Schwarzschild ブラックホールの表面重力をkとした時に
T=k/(2pi)の関係がある。(piは円周率)(注1)
ここでkはRsをホライズンの半径とすると
k=GM/(Rs)^2
=GM/(2GM/C^2)^2
=C^4/(4*GM)
Gは重力定数、MはBHの質量、Cは光速
それで
T=k/(2pi)から
T=k/(2pi)=C^4/(8*pi*GM) ・・・①式
C、ℏ、Kbをもどしてー>つまりℏ/(C*kb)を掛けると
T=ℏ*C^3/(8*pi*kb*G*M) <-これがリアル温度(K)を与える式
①式に戻って計算の都合上、定数piを左に動かしておく
T*pi=k/(2)=C^4/(8*GM)
ここでC、ℏ、Kb、G、を1にすると(自然単位系にすると)
T*pi=1/(8*M)
あとでウルフラムで解くのでMをxにしておく。
ホーキング温度Tのpi倍した数値=1/(8x) ・・・②式
以上が通常の質量MのBHのホライズン上でのホーキング温度Tの算出となります。
2、修正された寿命式の場合
次にホライズン上から上方にプランク長だけ離れた場所のホーキング温度T1を求めます。
プランク長だけ離れた場所の重力のつよさk1は
k1=GM/(Rs+Pl)^2
ここでPlはプランク長Pl=sqrt(ℏ*G/C^3)
Rs=2GM/C^2から
(Rs+Pl)^2
=(2GM/C^2+sqrt(ℏ*G/C^3))^2
従って
k1=GM/(Rs+Pl)^2
=GM/(2GM/C^2+sqrt(ℏ*G/C^3))^2
T1=k1/(2pi)から
T1*pi=k1/(2)
=GM/(2*(2GM/C^2+sqrt(ℏ*G/C^3))^2)
Mをxに表示替えして
G*x/(2*(2*G*x/C^2+sqrt(h*G/C^3))^2)・・・③式
C、ℏ、Kb、G、を1にすると(自然単位系)
T1*pi=M/(2*(2M+sqrt(1))^2)
=M/(2*(2M+1)^2)
Mをxに表示替えして
T1*pi=x/(2*(2x+1)^2) ・・・④式
3、両者の比較
②式と④式をウルフラムでプロットしてみる
ちなみにこの式は自然単位系になっているのでプロットの横軸の単位はプランク質量となっています。
1/(4*2*x),x/(2*(2*x+1)^2)の0<x<2 プロット
実行アドレス
プロットが答え、パラメトリックは無視
縦軸はホーキング温度Tのpi倍した数値だが、温度だと思えば良い
④式のグラフでカーソルを動かして最大値をさがすとx=0.5あたりがピークであるのが分かる。
これが本当に0.5なのかどうかは③式の最大値を求めれば分かる
それで
G*x/(2*(2*G*x/C^2+sqrt(h*G/C^3))^2)の最大値
実行アドレス
答えが「最大値」の項にあるが、プラスを選ぶと
x=0.5*sqrt(C*h/G)
③式のhは実はℏなので
x=0.5*sqrt(C*ℏ/G)
そうしてsqrt(C*ℏ/G)はプランク質量mpそのものになっている。
従って③式は0.5*mpにピークがある、という事になります。
さてそういう訳で④式のカーソル読み値x=0.5は正解だったことが分かります。
そうしてその時の横軸の読みは0.06あたり。
しかしながら②式、これが従来の通説での温度の推移を示すものですが、それはx=0.5でY=0.24
つまりは④式のピーク値は従来寿命式での温度設定の4分の1にしかなっていない、という事が分かります。
さてつぎにどれぐらいの質量までBHの質量が減少するとこの効果が現れるのか見てみます。
1/(4*2*x),x/(2*(2*x+1)^2)の0<x<18 プロット
実行アドレス
10プランク質量では無視できない温度低下がみられます。
18プランク質量でも差が確認できます。
その部分、拡大して見ましょう。
1/(4*2*x),x/(2*(2*x+1)^2)の15<x<25 プロット
実行アドレス
20プランク質量での値をカーソルを動かして読み取りますと
従来定式化での温度 0.00623
④式での温度 0.00596 <-従来方式の96%相当
そうして問題なのはStefan-Boltzmann の法則より温度 Tでの放出エネルギーを計算するので
放出エネルギー∝T^4 ・・・放出エネルギーは黒体温度の4乗に比例する
従って放出エネルギーでの比較では
従来定式化での温度 1.506E-9
④式での温度 1.262E-9 <-従来方式の84%に相当
温度低下が4%ほどでも放出エネルギーの低下は16%にもなります。
4、以上のまとめ
ホライズン上にプランク長だけ仮想粒子の対生成する場所を移しただけで20プランク質量のBHでも相当にホーキング放射でのエネルギー放出が抑えられる事がわかりました。
そうしてより問題になるのは0.5プランク質量で温度は4分の1になりなおかつそれ以降は温度は上昇するのではなく下降する、という事です。
つまりは通説が主張している様な「BHの熱暴走=ホーキング放射を出せば出すほどBHの温度が上がり最後は爆発して消え去る」というシナリオにはならない、という事です。
0.5プランク質量に至ったBHのエネルギー放出はStefan-Boltzmann の法則より従来想定の0.4%にしかなりません。
(0.25)^4=0.0039
そうしてそれ以降はホーキング放射を出す事でBHの質量が下がればそれに応じて仮想粒子の対生成する場所の温度も下がります。
つまりは今度はBHの質量減少速度、そうしてエネルギー放出速度に「熱暴走ではなくてブレーキがかかる」のです。
その結果、BHは自身の質量をエネルギー源として、自分の質量がゼロになるまで、しかしながらそのゼロ点には有限時間内では到達できない、にもかかわらずいつまでもホーキング放射を出し続ける、というシナリオになります。(注2)
さてBHはこのシナリオでは「爆発して消え去る」のではなく「0.5プランク質量時点で最も熱く燃えるのですが、それ以降は残り火が何時までも消えない線香花火の様に存在し続ける」という事になります。
注1:寿命式導出詳細については「Hawking 輻射とブラックホールの蒸発」山内さんを参照願います。
注2:この状況を理解する為にはいまだ不明の「量子重力理論の登場」を待つ必要はありません。
ホーキング放射の物理モデルの問題であるからですね。
そうしてホーキング放射の物理モデルが当方が主張する様なものであれば、後はすでに分かっている物理法則をそれに適用すれば良いのです。
さて上記の解析によれば、20プランク質量のBHでもすでにホーキング放射にブレーキがかかっている事が分かります。
そうして20プランク質量のBHのホライズンの直径は80プランク長です。
従いまして「BHのホライズンがプランク長に達した以降のBHの挙動、ホーキング放射の様子は不明である」ので「それ以降のBHがどうなるのかは量子重力理論の登場を待つ必要がある」と良く言われるのですが、「80プランク長の大きさのBHを理解するのに量子重力理論の登場を待つ必要はない」でしょう。
ちなみに上記のシナリオでは「BHは何時までも弱いホーキング放射を出しながら自分の質量を減らしていく」ので「その質量はたとえば1000分の1プランク質量」という状況にもなるでしょう。
さてそのような状況に至った時、そのBHははたしてBHのままでいられるのか?
そのBHのホライズン直径は1000分の4プランク長です。
この問題を解くには「量子重力理論の登場を待つ必要があります」。
しかしながら通説では「1000分の1プランク質量のBHでもそれはBHとして存在してホーキング放射を出す」としているのです。
何故ならば「その質量を通過しなくてはBHは消え去る事ができない」からですね。
そうして通説によれば「BHはホーキング放射で消え去ることが出来る」とされているので「消え去る一歩手前の段階のBHがどれほど質量が小さくてもそれはBHのままで、ホーキング放射が可能である」となっているのです。