さて次は『3、上記の寿命式ではホライズン上のホーキング温度で仮想粒子の対生成がおきる、という前提で計算されている。
しかしながら実際は仮想粒子が対生成する、BHに一番近い場所はホライズンからプランク長だけ上空に離れた場所と想定するのが妥当である。
この差分はBHのホライズンがプランク長に比較して十分に大きい場合はほとんど無視できるが、BHのホライズン直径がプランクレベルまで減少すると無視できない効果をもつ。
それはつまり「ホライズンからプランク長だけ離れた場所の重力の強さはホライズン上の重力の強さよりも弱い」=「ホーキング温度がホライズン上よりも低い」=「発生する仮想粒子のエネルギーレベルが下がる」=「ホーキング放射エネルギーが下がる」=「BHの寿命が延びる」のである。』についてです。
さてBHのホライズン上のホーキング温度を基準にしたホーキング放射のエネルギーの算出が通説の寿命式になっています。
それでBHの中心に近いほど重力の強さは大きくなります。
まあこれは当然、そうなります。
それで実際の所、ホライズン上で仮想粒子が対生成する、とはホーキングも考えてはいないようで、「ホライズンに無限に近い場所で仮想粒子が対生成する」としている様です。
しかしながら寿命式で使っているホーキング温度の算出場所はホライズン上になっています。
さて対生成する仮想粒子からすれば、少なくとも対生成した仮想粒子が占めることになるであろう空間の体積に相当する部分に対生成するだけのエネルギーが供給される必要があります。
しかしながらホーキングの定式化では対生成する仮想粒子がもつ大きさを無視しています。
それはあたかも対生成した仮想粒子は大きさを持たない点粒子であるかの様です。
その様な扱いである為に「ホライズンに無限に近い場所で仮想粒子が対生成する」とできるのです。
しかしながら実際は対生成した仮想粒子は点粒子ではなく、少なくともプランク長の大きさを持つ、とするのが妥当でしょう。(注1)
その様なプランク長の大きさを持つ仮想粒子が2つ、ホライズン近傍の上空で対生成する。
その様に考えますと通説の寿命式の算出においても「仮想粒子が対生成する中心の位置はホライズンから上方にプランク長だけ離れた場所である、とするのが妥当である」と当方は主張する事になります。
その場所で対生成した仮想粒子は、対生成した時には両方ともにBHには属しておらず、しかしながら反対方向に飛び去る仮想粒子の一つは動き出すとすぐにBHに接触する、という状況にあります。
そうであれば、その場所のホーキング温度がホーキング放射を考える時に必要な温度を与える、という事になります。
それに対して通説の寿命式の導出では「ホライズン上のホーキング温度がホーキング放射を考える時に必要な温度を与える」としています。(注2)
このホーキング放射のエネルギーを考える際のホーキング温度の設定場所の違いはプランクスケールに近づくにつれて効果を表しますが、そこまでBHが小さくなっていない場合はほとんど無視する事が可能です。
したがってBHのホーキング放射のありようの、プランクスケールにまで到達する前のほとんどの時期では通常の寿命式で対応できます。
しかしながらBHがプランクスケールに近づくにつれて通常の寿命式ではホーキング放射のエネルギーを正確には見積もれなくなります。
そうして通常の寿命式のシナリオでは「BHは最後に爆発して消え去る」となっているのですが、上記の様に仮想粒子が対生成する場所を変更した場合には本当にそうなるのでしょうか?
注意深い検討が必要になります。
注1:その様に主張する当方は超弦理論がいう「素粒子は点粒子ではなく大きさがある」を認めています。
注2:対生成した仮想粒子は大きさを持つ、というモデルで考えますと、通常の寿命式が前提としている「ホライズン上のホーキング温度で対生成した仮想粒子のエネルギーを計算する」というやりかたは「仮想粒子が対生成するであろう空間の相当する部分の体積の温度はホライズン上の温度と同じでその温度がその場所に一様に分布している」と想定している事になります。
それはまさにホライズン上に仮想粒子の対生成する中心の位置がある、と主張している事と同じです。
他方で、ホライズン上からプランク長だけ上方に離れた場所で仮想粒子は対生成する、というのが「ホーキング放射の正しいモデルである」とすると、その場所のホーキング温度はホライズン上よりも明らかに低いのです。
そうであるにも関わらず仮想粒子は対生成する場所の温度を「ホライズン上の温度で代用する」のであればそれはホーキング放射のエネルギーを過大に算出している、という事になります。
そうしてそれは最終的にBHの寿命を実際より短く計算する、という事につながります。