最近、
電話が鳴るのが、少し怖くなっていた。
おはようございます。
いや、もともと怖いんだ。
私の携帯電話には、昔からろくな電話が掛かってこない。
見たことも無い番号から、片言の日本語で、
「カード売って!カード」と謎の依頼をぶつけられる時もあれば、
「パンティー、何色?」と聞かれることもある。
聞かれたことには、一応答える。
下着の色は「褪せたベージュです」と淀みなく答えるが、
カードに関しては
「私は、カードは売れません」としか答えられないのだ。
〇田養蜂場からのセールス電話も掛かってくる。
〇田養蜂場のお姉さんとの通話は、どうしても長電話になってしまう。
まるで遠方にいる親戚との会話のように、取り留めもなく長い。
すごく楽しいが、私はハチミツとかプロポリスとかのアレルギーがあるから、
何一つ、購入して差し上げられないのが、毎度心苦しい。
2時間も話して、収穫無しなんて、ほんと、心苦しいのだ。
ここ数年は、実家からの電話も怖い。
父さんから
「ちょっと来てくれ」と呼ばれると、だいたい母さんが床に倒れている。
酔っぱらって、床にぶっ倒れているのだ。
鎖骨が外れてしまった(脱臼)時も、それが原因だ。
こういう電話は、去年から、けっこう頻繁に鳴る。
両親は、昔から酒を飲んでは喧嘩ばかりしていたが、
倒れて動けなくなるなんてことは、ここ数年前までは無かった。
喧嘩は、嫌ってくらい見てきた。
子供の頃は、酔って泣きわめく母さんが壊れてしまわないか、
本気で怖かった。
毎日の恒例行事みたいな喧嘩を、私は毎日、ただ何もせず恐れていた。
だけど今になって、電話で呼ばれるのは、嫌ではない。
今の私なら、できることがあるからだ。
そして、泥酔したカズコさんは、
実は、すごく面白いってことに気が付いた。
酔っぱらった母さんは、最高に面白いんだ。
今更、「ちゃんとして!」なんて言う気にもならない。
昔から、我が家は滅茶苦茶な人の集まりなのだから、
今更、ちゃんとされると、すごく驚くし、怖くなる。
「いきなり、ちゃんとしてて、どうした?死ぬのか?死期を悟ったのか?」
と空恐ろしくなるだろう。
だけど、電話が鳴ると反射的に怖い!と感じる。
「さてカズコは、どうやって転がってるのか?」という、
これは、一種の武者震いなのかもしれない。
そして、昨日の夕方、電話が鳴った。
やっぱり実家からだ。
「父さん、どうした?」私は電話に出てすぐさま、そう発した。
すると、父さんは上機嫌だった。
「おう、今、ベランダにおるんやけど、
今日はどうなっとるんや?爽やかな風が気持ちいいな~。」
どうした?
ねえ、どうなすった?
「こんな気持ちいい風、久しぶりだから、
ババァと二人で、夕涼みしとるんや。
お前も、窓を開けてみろ。気持ちいいぞ。」
なんという、ロマンチックでまとこなことの言うのだ?
怖いわ!
私は空恐ろしくなりながら、電話を繋いだまま、窓を開けた。
すると、ひんやりとした風が、私の肌を撫ぜた。
「うわ~、ほんとだ!気持ちいい風やね~。」
わざとらしいくらい大きな声で、そう言ったら、
電話の向こうで、母さんの笑い声が風の音みたいに流れてきた。
すると、老人2人の夕涼みする様子が、
風が運んできたみたいに、目の前を霞め、
私はどういう訳か、右目から涙が一粒、ぽつんと落ちた。
「今日は、ババァと喧嘩しとらんからな~」
そう言って笑う父さんの声を聞きながら、
涙の行方を追うように俯くと、
これまた、なんとも、気持ちよさそうな顔をした猫と目が合った。
「今日の風は、優しいね。」
嵐の後に吹く風は、時々優しい。
さて、我が家の夕涼みは?
なんだか、会議してるみたいやね?
しかも、最年少ののん太が、一番偉そうだ
最年長うんこさんは、監査役か?
のん太「どうすれば、かかぁの目を盗んでイタジュラできるのかというと」
その会議、やめれ!