この土日は、
なかなか忙しかった。
おはようございます。
そして、暑かった。
こんなに暑い10月は、あっただろうか。
ああ、うんこが逝った年の10月も暑かったなぁ。
動かなくなったうんこと、
季節外れの入道雲を目指して最後のドライブをしたのだった。
あの時、私はあのまま、霊園へ行かずに、ドライブを続けたくなった。
その時、思い止まらせたのが、かずこの存在だったはずが、
今では、天気の良い日曜に限って、
かずこを車に乗せていると、あの雲を目指した時の気分が蘇る。
「どっか、遠くへ行っちゃおうか?」
そう言うと、かずこは
「おぉ、ええなぁ。あははは。」
と無邪気に笑うものから、私は思いとどまる。
かずこが笑って生きているのなら、何の問題もないのだ。
私は最近、父との関係に悩んでいた。
かずこではなく、父だ。
かずこの認知症が進行していくにつれ、父さんの性格がひん曲がって行く。
酷くひがみっぽくなり、
そのくせ、昔のことを引っ張り出しては、自画自賛して、
周囲の人間の悪口を並べて怒り、嘆いて、またひがんで、
結局、かずこがボケたことがすべて悪いかのように責める。
最低だ。
ほんと、最低。
だから私は、かずこを引き取って引っ越そうかと考え始めた。
父を捨ててやろうと思っていたのだ。
もう限界だと思った。
本気でそう考えたから、本気で宝くじを買った。
下らん。
ほんと、下らん。
私は金も勇気もないくせに、
まるで、宝くじが当たる夢物語を妄想しているだけの人間だ。
マアコのことだって、内心、
押し付けられたような気がしている。
そもそもボランティアさんに情報だけ求められていたはずが、
「ちょっとご飯あげてみてもらえませんか」とか
「ちょっと馴らしてみてもらえませんか」と言われ、
今じゃ、マアコやマアコのまだ見ぬ子猫らのことを
どう責任もって向き合ってやるべきか、思い悩んでいる。
マンションの自治会の運営も、実際動くのは何でもかんでも我が家だ。
そもそも、私は今季は役員でもないのに、押し付けられている。
目の前の現象は、全て自分のことだ。
押し付けられたと思うのは違う。
押し付けられようが、やると選択したのは自分なのだ。
そんな言葉を無理やり自分に張り付けていた。
そう言いながら、心の中は文句とひがみと嘆きで一杯になる。
それは、まるで今の父さんと同じだった。
実は、今の父と私は、鏡なのだと気付いた時、
私はようやく、父の苦悩が、我がことのように押し寄せてきた。
すると、私はハッとした。
まず、ありがとうと言おう。
言わなきゃダメだ。
なぜか、そう思えた。
謝罪でも説得でもない。ありがとうだ。
その日の夜も悪酔いしてひがんでいる父に、意を決して伝えた。
「今まで、頑張って生きてくれて、ありがとうございます。
辛くても生きてくれて、ありがとうございます。」
そう言うと、気丈な父が下を向いて涙を流した。
私は、逆に天井を見上げて笑顔になった。
「かずこさんも、ありがとうね。ありがとうだよ。」
こんなに、気持ちの良い思いは、久しぶりだった。
次の日は、また父とかずこは喧嘩をしている。
「乾いた物に湿った物を入れるなって言っただけで怒っちまう!」
「もうええ。わしは在所に帰らせてもらうで!」
豆菓子の中に、団子を混ぜて喧嘩だ。
下らん過ぎる。
ありがとうと伝えただけで、劇的に変わる訳など無い。
かずこのボケが治るはずが無いし、
父さんのヘソが今更真っすぐになったら、ノーベル賞もんだ。
ただ私が見る世界は、密かに劇的に変わった。
そんな我が家の光景は、まるで夏。
暑いだよね。
ほんと、暑いもんね。
で、のんちゃんは大丈夫かい?
漫画みたいな顔して寝てるけどぉ。