今日も ぺこぺこ

ジョリ夫婦&ぺこ。3匹とも、今日も元気に「ぺこっ」てます。

ガルガンチュア と 聖なる酒びん

2006-10-16 22:09:33 | Weblog

お友達のみなさんに相変わらず不義理を働いていてごめんなさい・・・。
気力・知力を養うため、ムーミン谷のヘムレンさんのごとく、寝床で本ばかり読んでいます。

今読んでいる本は、写真の右側の「ガルガンチュア」です。
「ヨーロッパ中世の宇宙観」を読んだ後でこれを読むと、より一層、中世世界への理解が
深まって面白いです。

正直言って、最初は「ガルガンチュア物語」はぜんぜん楽しめなかったのですが、というのも、

↑間に紙をはさんでちょっとスキマを作ってみました。そのスキマ以降が「解説」ならびに「年表」です。
「解説」etc.がこんなに長い小説っていうのも、そう沢山は無いだろうと思います。
一体何の解説かと言うと、注釈とかではなく、ラブレーとその文学に関する訳者の解説であり、
バックグラウンドの説明なのです。これを読まずしていきなり本文だけを読んでも楽しめない。
そんな感じです。

で、本文のほうはと言いますと・・・↓

これがまた、すんごい注釈だらけ。(笑)
本文と同じ行数の注釈が左についています。(このページが特別ってわけではなく、普通です。)

「ヨーロッパ中世の宇宙観」を読み終えて、ちょっとばかし澁澤先生に寄り道してから、なにげにこの
「ガルガンチュア」を開いてみたのです。前にぱらぱらめくってみただけで置いておいたのを。
すると、なんとなく面白い気がしてきて・・・
さらに、読み進めていくと、酒盛りの場面が。(あらゆる場面でお酒の話題は出てくるのだけれど。)
わたしも彼ら中世人たちと一緒に飲みたいぞ!なんて思って、なんと(!)ベッドにグラスを持ち込んで、
白ワインをイッパイやりながら読み進めていったのです。これがなんとも面白かった!
ヨッパライの会話は、酔っ払って読むに限りますね~(笑)
そしてその後くらいからです、ラブレーの描く世界に一歩足を踏み入れた気がしたのは。


“荒唐無稽”と表現されるラブレーの文学。とにかくはちゃめちゃです。
しかし、はちゃめちゃな中にもちゃんと筋道があるのが面白い。
なんていうか、ヨッパライが千鳥足で危うく溝に落ちそうになりながらも、なんとか帰宅して知らず知らずのうちに
自分の布団に入ってちゃんと寝てた、なんていうような感じでしょうか。それを、作為的にやっているというか。
解説にて、ラブレーの作風について語る際に、同列の作家として幾人か挙げる中に、スイフトの「ガリバー旅行記」が
ありました。こちらもじっくり読んでみると、実は非常に面白いオトナの小説なのかもしれません。(子ども用の本
しか読んだこと無いので・・。)

ガルガンチュアとガリバー旅行記が対比されるのには、どちらにも「巨人」が登場する、という共通点があるからでしょう。

↑これはジャケットの絵なのですが、ノートルダム寺院の釣鐘を「僕のお馬ちゃんの鈴にちょうどいいから」といって
盗もうとして、市民に抗議されている巨人ガルガンチュアの絵です。
巨人なのだから、このサイズ。
(幼児のガルガンチュアの日々の食事として、17913頭の乳牛の乳があてがわれたという記述が本文に出てきます。)

ガリバー旅行記の面白いところは、ひとつに、ガリバーが旅行する先々で、彼が巨人にも小人にもなり得る
という点ですが、このガルガンチュアもなんとなくそういう雰囲気があり(彼は小人にはならないけど)、
つまり、巨大と極小を常に対比させているという点です。
小説の中の舞台のひとつは、実際に存在していた小さな小さな田舎村であり、そこに巨人族の子、ガルガンチュアが
生まれるという設定。

そんな「巨大」と「極小」を対比させながら、当時の政治・宗教問題などを揶揄しながら進む物語の語り口ときたら、
これまたヘンテコなのです。しかも、オヤジ・ギャグばりのジョーク満載。。。

↑敵に攻め入られたのを発見した、若くて血気盛んなジャン修道士を止めようとする他の修道士が
神のおつとめ(service divin)の邪魔をするとは不届き千万」と声をあげたところ、
ジャン修道士は「酒のおつとめ(service du vin)ならば、じゃまもなにもいたしませんぜ」と答えている。
本文中には、このようなフランス語の言葉遊び(ダジャレ?笑)だけではなく、ギリシャ語が頻繁に登場し、時に
ラテン語も出てくるので、簡単に理解できるシャレでは無いのですが、それでもなんとなくでも面白味がわかる
のは、訳者さんのおかげなのでしょうね。

「ガルガンチュア」の中では、ざっとおおまかに掬ってみて、糞尿に関する表現と、お酒に関する表現が特に多いです。
糞尿表現に関しては、(禁書になりかねないという意味で)、サドの小説辺りが引き合いに出そうに
思えます。お酒に関しての表現は、いつの時代にもいる「酒好きのよっぱらい」が、「今日は寒いから体を温めねば」と
言っては飲み、「風邪を引きそうだから体を消毒せねば」と言っては飲むといった感じを思い起こさせます。
哲学や神学、当時の政治や宗教の問題がベースになっていても、表現がコレなので、表面的にはとても庶民的
なのですね。

でも、なんといっても一番おもしろいのは・・・この小説の元々のネタが他の人物が書いた短編にあった、という点。
「パンタグリュエル大年代記」という薄い本が最初に出て、その続編がラブレーに求められた、ということらしい
のですが、詳細は不明だとか。とにかく、他人が書いた本を元にして、ラブレーが腕をふるって書いたのが一連の、
ガルガンチュアとパンタグリュエルの物語なのだそうです。(パンタグリュエルは、ガルガンチュアの息子。)


最後に、私見として。
笑えないなーと思っていた小説でも、噛み締めるごとにそこに含まれた「笑いの味」がわかるようになっていく
という意味で、わたしの少ない読書経験の中からは、日本では永井荷風の「おかめ笹」が思い浮かびます。
これは“滑稽小説”なんて表現されていたから、どんなにか笑わせてくれるのだろうと思って読んでみたのだけど・・・
(汗)って感じでしたからね、最初は。(いや、今もかな?苦笑)

ブリューゲルの絵画が大好きな人になら、「ガルガンチュア」は、ちょっとオススメできるかも。
そうでない人には、退屈極まりない小説かも。


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