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幻想 ― 白鳥の湖のように

2008-02-10 08:31:28 | ダンス
パリ・オペラ座バレエ「シルヴィア」(全2幕)

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クラシカTVに加入したおかげで、いろいろなバレエを見ることができるようになりました。舞台に直接いけないのなら、せめて映像で...というところです。

さて、前にビデオにとっておいて、昨日やっとみたのがジョン・ノイマイヤーの『幻想 ― 白鳥の湖のように』前から見たかったんですね。この舞台。ノイマイヤーの代表作です。

あのノイシュバンシュタイン城を作ったルードヴィヒ2世の物語と白鳥の湖が交差する、というたいへん面白いアイディアがベースになっています。たいへんスリリングで知的な舞台で、期待をはるかに上回ってくれました。あ~、おもしろかった。ちょっとだけ、のつもりが2時間半近くの録画を一気にみてしまいました。

お話を簡単に説明すると、

冒頭で狂った王が城に幽閉される

城の模型を部屋で発見し、それをきっかけにかつての栄光の日々を思い出す
友人たちにかこまれ、幸せなひと時をすごす王。それをかきみだす母、許婚ナタリア姫の存在。許婚を受け入れようと努力するも、王の心の影の存在が王を不安に陥れる。狂気の予感

自分のために上演された白鳥の湖を見る王。
しだいに舞台にのめりこみ、ジークフリード役をおしのけ、オデットと踊る王。オデットに愛を誓う様子をみて、ナタリアは絶望する

城での仮装舞踏会。
スペイン、ハンガリー、ロシア、イタリアの踊りが踊られた後、オデットに扮したナタリアが登場。王は彼女に夢中になる。幸せが訪れたかに見えたが、影が登場し、王は発狂

再び幽閉された城内。
ナタリアが王を訪れるが、王は正気にもどらない。影が登場。王は湖で溺死する。

もともとのプティパ、イワノフの振り付けのよいところ(つまり、観客が見たいと期待するところ)はしっかり残してあります。四羽の白鳥もでてくるし、大きな白鳥の踊りもあります。大胆なプロジェクトでありながら、一部はたいへんクラシカルです。

オデットが登場する白鳥の湖のシーンは、王と許婚のナタリア姫が見ている中で上演された舞台、という設定です。二幕の例のオデットと王子のパ・ド・ドゥは振りは基本的にそのまま。はじめはルードヴィヒもお行儀よくみているんですが、いつしか自分がジークフリードと一体化して踊るようになってしまいます。しまいめには、マイムで愛の使いまでする始末。それをみたナタリアが絶望して去ってしまうってのもとてもよくわかる。こういう演出にすることで、現実と芸術がつくったフィクションがごちゃまぜになっていたルードヴィヒの性格をあらわしてまして、なかなかこわいつくりです...

そして、特に話の展開上では重要でない一幕のパ・ド・トロワなどにもしっかり意味がもたせてあるのもポイント。

普通、一幕のパ・ド・トロワって、踊りとしてはいいのだけど、特に大きな意味合いはないでしょ?このプロダクションではひねってありました。王の親友アレクサンドル(実はこの人物そのものも、王の幻想なのかもしれない)は無邪気で明るい存在。そして恋人クレア姫とも愛し合っているわけ。原版のパ・ド・トロワはこの二人のパ・ド・ドゥに変えられていまして、この幸せな恋人たちが、王とナタリアというぎくしゃくしたもう一つのカップルとの対比になってまして、効果をあげていました。王がアレクサンドル、クレアの踊りの中にはいる時もあるのですが、やっぱり取り残されてしまうんです。ここでも王の孤独がでてるかな。

そして3幕の山場、オディールですが、これはナタリア姫がオデットの振りをしてでてくる、というしかけ。悪の存在でないことを示すためか、基調が白、そして黒でアクセントがつけられた衣装になっています。このあたりもたぶん原版の通りの振りです。

こういったクラシカルな振り付けを織り込みながら、難易度が非常に高いモダンなテクニックも随所にあります。特に「影」がみせる最後のリフトは圧巻です。なんと王を逆さにして抱え込んで振り回すんですから。

衣装も美しく、装置も美しい。19世紀のドレスをイメージした衣装はふんだんに広がる上に下のスカートがペチコートのようになっていて、華やかです。装置は転換が速いだけでなくて、ラストの溺死のシーンの青い布の使い方など、息を呑みました。またライトもいいのです。幽閉された部屋の窓からさす光の中で踊るナタリアと王のパ・ド・ドゥは絵画の世界のよう。

王をやったイリ・ブベニチェクはテクニックがあるだけでなくて、見た目もどこかルードヴィヒ王に似てます。演技もうまいです。影をやったカーステン・ユングのこわさ、アレクサンドル・リアブコ(アレキサンダー伯爵)のくったくのなさ、シルヴィア・アッツォーニ(クレア妃)の明るい輝き、ひたむきさだけでなく狂気も感じさせるエリザベス・ロスカヴィオ(ナタリア姫)、クラシカルで美しいアンナ・ポリカルポヴァ(オデット)など、キャストも優れたプロダクション。

音楽の使い方もすばらしくて、白鳥の湖のこの部分ってこういう解釈ができるんだね、と感心しきり。やっぱり白鳥の音楽ってよいのですわ。

ごちゃごちゃかきましたが、高い技術、演技、衣装を含む舞台美術を満喫させてくれただけでなく、たいへん知的な作品でした。これはなかなか消す気がしません。スーパーバレエ・レッスンの春と秋はお気に入りの作品でしたし、やはりクラシカで見た『転換』も面白かったです。 ノイマイヤー作品は追ってみたいもの。でも、写真にのせたシルヴィアぐらいですかね、DVD化が簡単に手に入りやすいのは。これは将来の購入リストにするとしましょう。

[出演]イリ・ブベニチェク(王)カーステン・ユング(影)エリザベス・ロスカヴィオ(ナタリア姫)アンナ・ポリカルポヴァ(オデット)アレクサンドル・リアブコ(アレキサンダー伯爵)シルヴィア・アッツォーニ(クレア妃)ヤチェック・ブレス(ジークフリート王子)アンナ・グラブカ(王の母)ロイド・リギンズ(レオポルト王子)ピーター・ディングル(大工の棟梁)ラウラ・カッツァニガ(蝶)他
[振付・演出]ジョン・ノイマイヤー
[美術・衣装]ユルゲン・ローズ
[音楽]ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー
[指揮]ヴェロ・パーン
[演奏]ハンブルグ交響楽団
[収録]2001年5月ハンブルク国立歌劇場
(約2時間26分)

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