My Favorite Things

お気に入りのものあれこれ

問題のshould

2006-06-12 20:55:54 | 翻訳
問題のshouldについて書きます。

前も書きましたが、この助動詞は悩みの種です。本当によくでてきます。契約書はそれほどでもないのですが、Requirement、社内規則、仕様書、Recommendationsでは一番でてくる助動詞かもしれません。マニュアルでもよくでてきます。

文法的な規則にのっとってにはいってくるものの訳さなくてよいshould (lest shouldとか、naturalなどのあととか)は形でわかりますから問題ありません。推量を表す「~のはずである」「 ~だろう」という意味のものも文脈でわかりますし、そもそも社内規則、業界規則ではほとんどでてきません。

問題は義務をあらわすshouldなのです。一応形は決めてます。shallの訳のところで書いたとおり、「~べきである」とべたに訳すやり方です。この方法で訳をとりまちがえている、と苦情がくることはないようです。しかし、本当にこれでいいのか?という疑問は常に抜けません。理由は次のとおりです。

1.「~べき」なんて日本語表現が多発されるものだろうかという疑問がある
2. shouldはmustとニュアンスこそちがえ、「~してください」「~しなければならない」の意味に近いととらえるネイティブの意見がある
3. 法的拘束力のない義務を現すshould
4. 文書の種類、書き手によって微妙にニュアンスがちがう

もう少し説明してみます。

1. 「~べき」なんて日本語表現が多発されるものだろうか

「~べき」という表現はあることはあります。でも頻繁に使うものでしょうか。日本語の就業規則、契約書を読んでみても英語のshouldほど使わない言葉なのはたしかなように思います。このあたり、言語の体質や受け取る側の温度差のちがいを反映しているとしか思えません。英語を習い始めたときから、この「~べき」という訳語は、oftenを「しばしば」と訳すように教え込まれた時と同じ違和感があったせいでよけいそう考えるのかもしれません。

それでもなおかつ、shallの項で書いたように「~べき」と訳しているのは、今、いる会社で読み手となってくれる担当者(実は英語でちゃんと読めるのだが、楽するために訳を見る人)が、「~べき」と訳してもらったほうがいい、ということを口にされたからなんですね。実務翻訳の目的は自我の掲示じゃなくて、読み手にちょっと楽してもらうことなんですから、自己の好みはさておくことにしてます。

しかし、このあたりは読み手によって意見がちがうところ。わずらわしいと思う人もいるのはまちがいありません。ですから常に迷うのです。

2.「~してください」「~しなければならない」の意味に近いというネイティブの意見がある

この意見は英語学習者を対象にしたアメリカ人の言語学者の講演ではじめてききました。目からうろこのような気がしました。たしかにmustよりやわらかいとはいえ、「~してください」「~しなければならない」としたほうがしっくりくることは多いです。日本語としてもそれならまったくおかしくありません。また、3にかくshallとの違い、代用で使っているshouldにもこの訳で通して問題はありますまい。

通訳ならおそらくそれで通してしまうでしょう。が、翻訳ではこのやり方で通すのは厳しいです。そう、mustとのニュアンスの差が問題になるのです。shall、shouldだけならこれでいいでしょうが・・・

3. 法的拘束力のない義務を現すshould

shallが死滅寸前の助動詞であるため、shouldで代用しているのではないかと疑いがでるshouldはたしかにみかけます。しかし、法的拘束力がある場合はshall、法的拘束力がなければshouldという昔ながらの使い方をしている文書はまだまだ多いです。

法的拘束力があれば「~するものとする」、なければ「~べきである」と区別する、と決めてしまって、読み手がそのつもりで読んでくれれば問題はないといえばないです。が、たとえば政府機関がだしたRecommendationでshouldが使われていれば、その規定に対する法律上の裏づけがなくても、企業は守ろうとするにちがいありません。「べき」ってのは「~しなければならない」より弱いニュアンスがあるように思います。つまり、「法律で正式に決まっているわけでないけど、守らないといけないんだよ」という意味合いは文脈と状況によってわかるのみで、文だけではわからないのでは、という疑問がでるわけです。とすれば、うっとうしい日本語を作成してまでshouldを訳そうとする必要性はあるのか、という気がしないでもありません。「~する」「~しなければならない」あたりでいいのではないか、と迷いがでます。

4. 文書の種類、書き手によって微妙にニュアンスがちがう

3でとりあげたのはrecommendationの場合です。この場合のshouldは強制力が相当あります。社内規則でもshouldがよくでてきます。守らないとだめ、というニュアンスで書かれています。

しかし、安藤進さんの翻訳に役立つGoogle活用テクニックを見ると、p.52の義務規定の英語表現で少し違う訳語があてはめられているのに気がつきます。

「(shouldは)推奨規定。「...することが望ましい」と訳す。特に法的な罰則はない。」

と書かれています。正直、一時はshouldはこの訳を多用しようかと思いました。requirementやマニュアルではこの訳がよいときもありましたから。「~べきだ」ほど気にさわりませんしね。

ですが、この「望ましい」という言葉は、強制力ががたっと落ちます。やらなくてもいいよ、でもできたらやってね、程度の意味というふうにもとれます。そのため、この訳だと収まりが悪い、それどころか誤訳になってしまいかねないものがけっこうあるわけです。となると、この訳はストックとしておいておき、ぴったりハマる場合のみ使う、というのが理想的ということになります。

ごちゃごちゃ書いてしまいました。これだ、というのがないのが義務のshouldというのが今のところの結論です。おかげで常に迷っています。おそらく正解はないのでしょう。しかし、何度もいうとおり、実務翻訳の場合、ふらふらと迷ったまま訳し続けると、別の問題もでてきます。英語は助動詞shall,must,shouldで義務のレベルをわけていきますので、日本語にも義務のレベルを残しておいたほうがよいと考えたほうが無難です。迷いはあっても、一定の対応策を決めてやるしかないです。

つまり、
a. shall、mustと義務のレベルの訳仕分けが必要な場合
 基本的に「べきである」

b. shall、mustと義務のレベルの訳仕分けが必要ない場合
 「~する」「~しなければならない」「~してください」「~することが望ましい」を強制の強さを考えながら訳し分ける。

というのが今のところのやりかたです。「べきである」が気持ち悪い、という個人的な好みはさておいてます。shallの死滅度が進み、法的拘束力を考える必要がなくなれば、「~べきである」という訳語はおそらく使わなくなると思いますが...


最新の画像もっと見る

2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
とっても参考になりました! (みなみ)
2006-06-14 08:54:11
 とても具体的に、分かりやすくかつ体系的に説明していただいたので、今後の仕事に役立ちます。ありがとうございました!



 それにしても、お仕事に、趣味にすごいなあと、いつも感心して拝見しています。
返信する
迷っている助動詞なので (lyca)
2006-06-14 22:03:49
ここに書いているのはほんの一例なので、もっといいやり方を考えてくださいね。産業翻訳はある程度ルールを決めてやると、楽なところはありますね。
返信する

コメントを投稿