報道写真家から(2)

中司達也のブログ 『 報道写真家から 』 の続編です

そもそもおカネとは何なのか ② 80兆円と1000兆円

2009年12月28日 23時04分35秒 | 通貨・マネー

 われわれはおカネのいったい何を知っているだろうか。
 おカネを使いこなすのには特別の訓練も知識もいらない。小学生になれば、自然に使いこなしている。マネタリーベースとか、預金準備率なんて知らなくても何も困らない。おカネそのものを商品にしている人なら、おカネに関する深い知識を持っているだろう。しかしそれでも、おカネの根本的な仕組みについて問い直すことはあまりないと思う。
 なぜならそれは、経済学がとっくに解き明かしているのだから。

 はたして経済学は、おカネの何たるかを解き明かしているだろうか。
 経済学者ガルブレイスはこんな記述をしている。

経済学の他のいかなる分野にも増して、貨幣の研究は、真実を明らかにするためではなく、真実を偽装し、あるいは真実を回避するために、複雑さが利用される分野なのだ。
p9 『マネー その歴史と展開』 ジョン・ケネス・ガルブレイス

 ガルブレイスがこの本を著したのは1976年だが、以後、貨幣の真実が明らかになったかというと、あまり大きな期待はできない。貨幣研究に限らず、経済学は全般的に何か釈然としないものがもやもやたちこめている。

第二次大戦後の経済学の大半は改めて最初からやり直されるべきである。「学問的」発見と称されている経済学の業績の大部分は、これまでとは別の方法論にしたがって、文字通り再作業されるべきである。そうでなければだれも信用すべきではない。
p6 『ノーベル賞経済学者の大罪』 ディアドラ・マクロスキー

 もしかすると、おカネに関するわれわれの認識はまったく見当はずれなのかも知れない。


80兆円の現金と1000兆円の預金

 現在、日本銀行が発行している日本銀行券の発行高はおおよそ80兆円である。それに対して、銀行全体の預金(普通預金、当座預金、定期預金など)は約1000兆円ある。日本銀行は80兆円しか日本銀行券を発行していないのに、なぜ、銀行には1000兆円もの預金があるのだろうか。この1000兆円はいったいどこからやってきたのだろうか。

 経済学を学んだ人なら、「それは信用創造と言って、最初に預金されおカネが銀行間を移転する過程で、最初の預金の乗数倍の預金が創造される。信用乗数の等式は……」といった具合にこともなく説明するだろう。

 銀行システムの中に預金が生まれる仕組みを、経済学では「信用創造」と呼ぶ。それを説明する理論が、信用乗数論(貨幣乗数論、乗数的信用創造論)である。図書館で『経済学』や『マクロ経済学』の名のついた内外の解説書を開けば、ほぼそのすべてに載っているだろう。この理論は世界中で教授されている定説であることがわかる。この理論の創始者はC.A.フィリップス(1882-1976)。

 しかしながら、フィリップス流の信用乗数論は実証的な検証に耐えられるような理論ではない。銀行システムの研究者なら、およそこんな説は信じていない。

信用乗数における信用創造論については、現実の銀行および中央銀行の行動から見ると理解に苦しむところがある。
p154 『決済システムと銀行・中央銀行』 吉田暁

乗数的信用創造論は、準備と預金の関係を説明するものではあっても、信用創造の実際のプロセスからみると非現実的である。
p201 同上

この通俗的な信用創造論には……、最初の「本源的預金」はどこからくるのかについてはまったく説明がな(い)……また、この過程はたんなる金融仲介の繰り返しにすぎず、銀行でなくてもたんなる金融仲介業で十分可能である。
p90-91 『現代金融と信用理論』 信用理論研究学会

貨幣乗数論においては、貨幣乗数の過程が成立する中で、受動的に銀行資産が増加すると考えている。……。しかし、銀行が貸出を増加させるのは、……利潤を得るためである。銀行は有望な貸出先、証券があれば、貸出や証券購入を行う。そうでない場合には、……行われない。このようなむしろ自明のことが貨幣乗数論では無視されている。
p54 『貨幣と銀行』 服部茂幸

 銀行システムの研究者にとって、信用乗数論は机上の論理の典型例のようだ。本来ならとっくに、現実的な説に置き替わっていなければならない。しかし、いまだに経済学のテキストでは、信用乗数論が貨幣的真実として教授され続けている。実に奇妙と言うしかない。ガルブレイスの言葉が現実味をおびてくる。

 では、実際には銀行システム内にある預金はどのようにして生まれたのだろうか。実のところそれは、ほんの数行の引用で事足りるほど単純だ。この単純明快な仕組みの説明を経済学は頑なに回避している。

現代においても、信用創造の典型的なケースが「貸出」による「預金貨幣」の創造であることには、まず異論は少ないだろう。
p49 『現代金融と信用理論』

銀行は貸出によって相手先の銀行口座に預金を振り込む。こうして銀行は預金を創造する。
p41-43 『貨幣と銀行』

 たったこれだけのことなのだ。
 しかし、「貸出」によって「預金」が創造されると説明されても、ピンとこないはずだ。
 というのは、“ 銀行は預金を貸出しているのだ ” という固定観念がわれわれの中にあるからだ。
 銀行は預金など貸出していない。銀行は貸出によって、預金を無から創り出しているのだ。
 まさか、と思われるだろうが、それが真実なのだ。

 銀行が貸出を行うことによって、いままで存在しなかった新たな預金が銀行の中に創造されるのだ。だからこそこのプロセスは『信用創造』と呼ばれる。信用(=通貨)とは創造されるものなのだ。つまり、何もないところから誕生する。「貸出」以外の方法で預金が生まれることはない。したがって、日本の銀行システム内にある1000兆円の預金は、すべて銀行「貸出」によって創り出された。こうして創られた預金は、通貨として機能するので「預金通貨」と呼ばれる。

 おカネの真実を理解するのには特別の知識は必要ない。必要なのは、思考の柔軟性だ。
 今日、天動説を信じている人はまずいない。しかし、中世ヨーロッパでは太陽が地球の周りを回っていると固く信じられていた。地動説など正気の沙汰とは思われなかった。コペルニクスやガリレオが、その他の学者と違っていたのは知識の多寡ではなく、常識や固定観念に囚われない柔軟な思考力を持っていたことだ。ただし、無闇矢鱈と反対意見を否定する行為はあまり意味があるとは思われない。常識に囚われないというのは内的な行為であって、挑戦の対象は自分自身なのだ。

 


 1000兆円の預金の内訳
   「預金通貨」が約400兆円………預金通貨とは、要求払預金 (普通預金、当座預金など)のこと。
   「準通貨 + CD」が約600兆円…準通貨とは、定期性預金のこと。CDは譲渡性預金
          
準通貨とCDは休眠中の預金通貨であり、満期や解約によって預金通貨にもどる。

 詳しい数字は下記を参照。
 マネタリーサーベイ  日本銀行HP
http://www.boj.or.jp/theme/research/stat/money/datams/index.htm

 

そもそもおカネとは何なのか ① プロローグ
http://blog.goo.ne.jp/leonlobo2/e/938957d1f1e6b8813e2e713650a250c1

そもそもおカネとは何なのか ③④⑤
http://blog.goo.ne.jp/leonlobo2/e/191061a2a824d42c12f8a8f431307a0c



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