歴史だより

東洋と西洋の歴史についてのエッセイ

≪石の形について~三村智保『石の形 集中講義』より≫

2022-07-31 19:00:45 | 囲碁の話
≪石の形について~三村智保『石の形 集中講義』より≫
(2022年7月31日投稿)

【はじめに】


 前回のブログでは、大竹英雄氏の著作を参照して、「石の形」について考えてみた。
 今回は、三村智保氏の次の著作をもとにして、「石の形」について考えてみる。
〇三村智保『石の形 集中講義』毎日コミュニケーションズ、2006年

 この著作は、名著とされている。例えば、最近のYou Tubeにおいても、佐々木柊真氏(野狐9段)が、「【囲碁】ヨム必要が減る「石の形を学ぶ」」(2021年6月28日付)において、石の形については「この1冊で十分すぎる名著」と絶賛している。

 著者の三村智保氏のプロフィールと目次を紹介しておく。
≪三村智保氏のプロフィール≫
昭和44年生まれ。北九州市出身。田岡敬一氏に師事。藤沢秀行名誉棋聖門下。
昭和61年入段、平成12年九段。

 三村智保氏の著作は、目次を見てもわかるように、内容が多岐にわたるので、今回のブログでは、次の点に限って、紹介したい。
〇「第3章 アキ三角」に述べているように、ツケオサエとアキ三角との関係について
 ツケオサエ(定石)は形は悪いが、地が大きいので、石の効率は悪くないと考えられている。ただ、ツケオサエ自体は、あまりあちこちで打つべき形ではないとされる。

〇「第8章 石の動き方」
 効率よく石を動かすために、いくつかの基本的な動きがあるが、第8章では、実戦でよくでてくる、「一間トビ、コスミ、ケイマ、ツケノビ」について解説している。
 ここでは、「攻めはケイマ、逃げは一間」という格言に関連した打ち方、そして石の動き方に関連して、連絡させない形について述べておきたい。




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三村智保『石の形 集中講義』毎日コミュニケーションズ、2006年

本書の目次は次のようになっている。
【目次】
序章
第1章 サカレ形
第2章 二目の頭
第3章 アキ三角
第4章 手拍子で打つ愚形
第5章 ツギ方
第6章 形の急所
第7章 ポン抜き30目
第8章 石の動き方
第9章 重い石と軽い石

目次をさらに詳しくみてみよう 

序章 形を身につける勧め
   本書の読み方
第1章 サカレ形
 サカレ形
 テーマ図1【サカレ形】
 テーマ図2【サカレ形2】
 テーマ図3【弱気が作り出すサカレ形】
 テーマ図4【攻める時に現れるサカレ形】
 テーマ図5【サカレ形を避ける】
 テーマ図6【信じられない形】
 テーマ図7【サカレ形を強要する】
 テーマ図8【読んでもしかたのないところ】
 テーマ図9【アテの方向】

第2章 二目の頭
 二目の頭
 テーマ図1【二目の頭を避ける】
 先にノビるのはいい形
 テーマ図2【先にノビる】
 効率よくツナがる形
 練習問題 パート1、パート2、パート3

第3章 アキ三角
 アキ三角
 テーマ図1【アキ三角を避ける】
 テーマ図2(見出しなし)
 テーマ図3【愚形を避けるツギ方】
 テーマ図4【ツケオサエとアキ三角】

第4章 手拍子で打つ愚形
 悪いアタリ、ケイマの突き出し
 テーマ図1【アテるか否か】
 テーマ図2【先手だから打つ?】
 テーマ図3【ケイマの突き出しの罪】
 テーマ図4【ひと目の手筋?】

第5章 ツギ方
 ツギ方
 守りのカケツギはいい形
 テーマ図1【逃せぬ形】
 テーマ図2【カケツギの好形】
 テーマ図3【カケツギとノゾキ】
 テーマ図4【カケツギに導く手順】
 カケツギの好形を与えないような石の動かしかた
 サバキを封じる固いツギ
 テーマ図5【正しいツギ方】
 テーマ図6(見出しなし)

第6章 形の急所
 形の急所、三子の真ん中
 テーマ図1【逃せぬ一手】
 三子の真ん中
 テーマ図2【三子の真ん中】
 テーマ図3(見出しなし)
 テーマ図4【相手の形を崩すノゾキ】


第7章 ポン抜き30目
 ポン抜き30目
 テーマ図1【当然の一手】
 テーマ図2【ポン抜きの大きさ】

第8章 石の動き方
 テーマ図1【石の動き方】
 テーマ図2【ツケノビとコスミ】
 テーマ図3【模様の消し方】
 ワタリを止める形
 テーマ図4【連絡させない形1】
 テーマ図5【連絡させない形2】

第9章 重い石と軽い石
 テーマ図1【重い石と軽い石】
 テーマ図2【軽い形】
 テーマ図3【軽い受け方】
 テーマ図4【プロの感覚】





さて、今回の執筆項目は次のようになる。


・ツケオサエとアキ三角(第3章 アキ三角)
・第8章 石の動き方
 「攻めはケイマ、逃げは一間」という格言に関連して
・第8章 石の動き方~連絡させない形







ツケオサエとアキ三角


「第3章 アキ三角」において、ツケオサエとアキ三角について解説している。

【テーマ図:ツケオサエとアキ三角】
≪棋譜≫(103頁のテーマ図4)

・白1のツメに、黒2、4のツケオサエ。
 これは、あまりよくない手である。
 白の次の一手は決まっている。
※ツケオサエとアキ三角は、意外と縁の深い形であるといわれる。

【ツケオサエに対してアテ】
≪棋譜≫(104頁の1図)

・テーマ図で白番のとき、白1のアテが当然の一手。
・黒2とツガされた姿は、黒二子(13, 三)と(14, 四)とのアキ三角である。
※本来、ツケオサエというのは、形の悪い打ち方なのであると、三村智保氏は強調している。

【参考図:一路あいた形はいい形】
≪棋譜≫(104頁の2図)


・このような形なら、黒はいい形である。
・三角印の白(12, 三)に白石が入っているので、黒三子(12, 四)と(13, 三)と(13, 四)はアキ三角ではない。

【参考図:いきなりコスミツケても悪い打ち方】
≪棋譜≫(105頁の3図)


☆テーマ図のツケオサエはよくない打ち方であるが、だからといって、黒1のコスミツケから、黒3、5と守るのも、悪い打ち方である。

【参考図】
≪棋譜≫(105頁の4図)


※黒は気持ちを前向きに持つことが大切である。
⇒せめて黒1とトンでa (9, 四)や b (17, 八)を見合いにするか、黒1ですぐにa (9, 四)と上辺へ向かいたい場面である。



次に、ツケオサエ定石について説明している。
【ツケオサエ定石】
≪棋譜≫(106頁の5図)

・白1のカカリに、黒2、4と打つ定石がある。
⇒ツケオサエ定石である。

【ツケオサエ定石からアキ三角へ】
≪棋譜≫(106頁の6図)

・上図のツケオサエ定石に続いて、白1とアテられて、黒2とツグ形はまさにアキ三角。
黒の形はあまりよくない。
※ただし、形は悪くても、他のよさがあるので打たれていると、三村智保氏は付け加えている。その理由はこうである。

【ツケオサエの例外:形は悪いが地が大きい】
≪棋譜≫(106頁の7図)

・上図に続いて、黒1、3とカミ取って、黒5とトベば一段落である。
※形は悪いが、隅の黒地が大きいので、石の効率は悪くないと考えられているそうだ。
・むしろ、この定石のほうが例外であると、断っている。
・ツケオサエ自体は、あまりあちこちで打つべき形ではないと、三村氏は強調している。



【やはりツケオサエは愚形になる例】
≪棋譜≫(107頁の8図、9図)


・例えば、このような形で、黒1、3とツケオサエに決めていくと、白4、6で、黒はアキ三角の愚形になる。
※やはり、ツケオサエは、アキ三角になりやすい打ち方であるから、注意が必要であるという。
(三村智保『石の形 集中講義』毎日コミュニケーションズ、2006年、103頁~108頁)

第8章 石の動き方


第8章では、石の動き方について解説している。
〇碁は地を囲むゲームである。
ただ、地を囲う手を打っても効率が悪く、相手より多くの地を作ることはできない。
効率よく自分の石を動かし、形を整え、相手の石の形は崩して、あわよくば攻めてしまう。

〇強い人は、地を囲うだけの手はあまり打たないそうだ。
 「地の大小」よりも「石の効率」を考えたほうが楽しく、碁も強くなることを知っているからだという。

〇さて、効率よく石を動かすために、いくつかの基本的な動きがある。
第8章では、実戦でよくでてくる、「一間トビ、コスミ、ケイマ、ツケノビ」について、その特徴と使い方を解説している。

「攻めはケイマ、逃げは一間」という格言に関連して


【テーマ図1】(白番)
≪棋譜≫(246頁のテーマ図1)


・テーマ図1は白番である。
・三角印の白(10, 十五)、(10, 十七)の二子を逃げるときに、どのように石を動かすのがいいのか?

【正解:白のトビ出し】
≪棋譜≫(247頁の1図)

※「攻めはケイマ、逃げは一間」という格言もある。
・ここは単純に白1、3とトビ出してしまうのが、いい形。

【失敗:ケイマで逃げると、ツケコされる】
≪棋譜≫(247頁の2図)

・逃げる立場の白が1とケイマしたりすると、すかさず黒2とツケコされる。
※ここは黒の勢力圏であるから、白の苦戦は必至。

【参考:ポン抜きではなく効率の悪い石の場合】
≪棋譜≫(248頁の3図)

☆百歩譲って、三角印の黒(3, 十一)の位置を変え、白3のシチョウが成立する場合を考えてみよう。
・たとえ白3のシチョウが成立しても、黒4、6と破られる。
※白はポン抜きではなく、三角印の白(11, 十三)が効率の悪い石であると、三村智保氏は解説している。

今度は立場を変えて、黒番で考えてみよう。
【問題図:黒の石の動かし方】
≪棋譜≫(248頁の4図)


☆下辺の白二子を攻める場合に、黒からはどのように石を動かすのか?

【失敗:黒のトビ】
≪棋譜≫(249頁の5図)

・黒1のトビでは、白1にプレッシャーがかからない。
・白2くらいに構えられ、くつろがれてしまう。

【正解:黒のケイマ】
≪棋譜≫(249頁の6図)

・黒から打つなら、攻めはケイマ。
・黒1とケイマして白にプレッシャーをかけ、白2ならさらに黒3とかぶせていく。

【参考1:白のツケコシは怖くない】
≪棋譜≫(250頁の7図)

・ここは黒の勢力圏であるから、白2のツケコシは怖くない。
・黒3、5と堂々と戦って問題ない。

【参考2:白がかわした場合】
≪棋譜≫(250頁の8図)

・黒1のケイマに白2とかわせば、黒3とトブ。
※攻められている白石が中央への出口を止められて、白は苦しくなる。
(三村智保『石の形 集中講義』毎日コミュニケーションズ、2006年、246頁~250頁)


第8章 石の動き方~連絡させない形


第8章では、石の動き方に関連して、連絡させない形についても解説している。

【テーマ図4:連絡させない形】
≪棋譜≫(264頁のテーマ図4)


☆下辺の三角印の黒(10, 十六)を動くとする。
 左右の白に連絡されないように動きたいのだが、こういう石を動く形があるという。

【失敗:黒のトビ】
≪棋譜≫(265頁の1図)


・黒1のトビはこの場合よくない形。
・白2のツケでワタられてしまう。

【続き:ハネ出しても白の分断不可】
≪棋譜≫(265頁の2図)

・黒1とハネ出しても白8まで。
※これでは白を分断することができない。

【正解:コスミが形】
≪棋譜≫(266頁の3図)

・白の連絡を妨げながら動くのは、黒1のコスミが形。
※この手で白の連絡を妨げることができる。

【続き:白のツケはうまくいかない】
≪棋譜≫(266頁の4図)

・今度は白1のツケがうまくいかない
・黒は同じように黒2とハネ出して、黒4と出ていくことができる。

【続き:黒の好形、白のサカレ形】
≪棋譜≫(267頁の5図)


・続いて白1に黒2と突き出し。
※三角印の黒(11, 十五)が働いて、白はa(11, 十六)と切れない。
・白3には黒4が好形。今度は白がサカレ形。

【参考:トビ】
≪棋譜≫(267頁の6図)


・ワタリを止めるだけなら、黒1のトビで分断することもできる。
・しかし、白2、4と攻められてしまう。

【正解:黒のコスミ】
≪棋譜≫(268頁の7図)

・正しい形である黒1のコスミなら、白2のトビには黒3と中央へ早に進出できる。
※黒a(13, 十六)とカケる調子もある。
(三村智保『石の形 集中講義』毎日コミュニケーションズ、2006年、264頁~268頁)