歴史だより

東洋と西洋の歴史についてのエッセイ

≪石の動きの名称≫

2022-07-18 18:06:59 | 囲碁の話
≪石の動きの名称≫
(2022年7月18日投稿)


【はじめに】


 今年初めの抱負として、囲碁の定石についてのブログ記事を書いてみたいと考えていた。
 今回は、そのための基礎となる囲碁の石の動きの名称について、解説してみたい。
 主に次の2つの著作を参照にしながら、石の動きの名称についてまとめてみた。

〇石倉昇ほか『東大教養囲碁講座』光文社新書、2007年[2011年版]
〇武宮正樹『武宮正樹の並べるだけで二・三子強くなる本』誠文堂新光社、1987年[1993年版]




【石倉昇ほか『東大教養囲碁講座』光文社新書はこちらから】

東大教養囲碁講座―ゼロからわかりやすく (光文社新書)

【武宮正樹『武宮正樹の並べるだけで二・三子強くなる本』誠文堂新光社はこちらから】
武宮正樹『武宮正樹の並べるだけで二・三子強くなる本』誠文堂新光社










〇石倉昇ほか『東大教養囲碁講座』光文社新書、2007年[2011年版]
本書の目次は次のようになっている。
【目次】
まえがき(兵頭俊夫)
第 1章 東京大学教養学部、全学体験ゼミナール「囲碁で養う考える力」とは?(兵頭俊夫)
第 2章  囲碁ルールを学び、6路盤で石埋め碁、囲碁を打つ(梅沢由香里)
第 3章 9路盤の模範対局、決め打ち碁(石倉昇)
第 4章 19路盤の互先局(石倉昇)
第 5章 19路盤の9子局、17子局(石倉昇)
囲碁関連用語集(兵頭俊夫)
あとがき

〇武宮正樹『武宮正樹の並べるだけで二・三子強くなる本』誠文堂新光社、1987年[1993年版]
本書の目次は次のようになっている。
【目次】
はしがき
第1章 碁譜を並べよう
第2章 四隅八辺転
第3章 基本定石20型
第4章 基本死活20型
第5章 筋と形20型
第6章 囲碁用語
第7章 格言と有名局
第8章 名局細解






さて、今回の執筆項目は次のようになる。


・石の動きや状態を表す囲碁用語~石倉昇氏の著作より
・石の動きの名前~武宮正樹氏の著作より




石の動きや状態を表す囲碁用語~石倉昇氏の著作より


【アタリ】
あと1手打たれると石が完全に囲まれて取られる状態。アタリにすることをアテるという。

【生き】
独立した眼が2個以上ある石の形。あるいは確実にそうなる形。
生きの形にすることを生きるという。

【一間トビ】
碁盤の中央に向かって、たとえば黒(4, 七)から一つ間をあけて黒1のように打つ手。
棋譜再生


【ウッテガエシ】
自分の石1子を故意にアタリにして取らせることによって、相手の石をアタリにして取り返す形。
たとえば、図のような形。
棋譜再生



【大(おお)ゲイマ】
図のような2石の関係。
棋譜再生



【オサエ】
相手の進路を止める手。
たとえば、図で、白(4, 八)に対して黒1と打つこと。
棋譜再生



【カカリ】
隅にある相手の石に対して、間を開けて迫る手。
カカリを打つことをカカるという。

【欠け眼(かけめ)】
着手禁止点ではあるが、ダメがつまってくると、アタリになってしまう形。
図のA(4, 八)やB(1, 七)。
棋譜再生


【カケツギ】
ナナメの状態にある2個の石の片方からナナメの点に、図の黒1のように打って切られないようにすること。
カケツギを打つことをカケツぐという。
棋譜再生


【カタツギ】
ナナメの状態にある自分の2個の石から出ている線の交点に、図の黒1のように打って切られないようにすること。
カタツギにすることをカタくツグという。
棋譜再生



【キリ】
図のように、相手のナナメになっている白(3, 五)(4, 六)2子から出ている線の交点の片方に自分の黒石(3, 六)がある状態から、さらに、残りの交点に自分の黒1を打ち、白2子がつながることを妨げるころ。
キリを打つことを切るという。



【キリチガイ】
図のように黒白お互いに切り合った状態。
またその状態にする手。


【ケイマ】
図のような2子の関係。


【ゲタ】
相手の石を直接アタリにせずに、逃げられなくする手。
図のような形のとき、白(4, 六)を直接アタリにしないで、黒1と打って逃げられなくする。


【コウ(劫)】
着手禁止点の例外の特別な場合で、アタリになっている相手の石を1子取ると今度は自分の1子がアタリになり、これが繰り返される形。
この形になったとき「取られた後すぐに取り返すことはできない」というルールが定められている。
1図、2図が、「コウ」という形である。
1図        2図 
  

【コスミ】
図の黒1のように自分の石からナナメに打つ手。
コスミを打つことをコスむという。


【コスミツケ】
図の黒1のように自分の石からコスミながら相手の石にツケる形。



【サガリ】
自分の石を接触させて、盤端に向かって石を打つこと。
サガリを打つことをサガるという。



【シチョウ(征)】
逃げても縦横にアタリアタリと追いかけられて、結局逃げられない、特殊な石の取り方。
≪シチョウ(白番)≫


このようにジグザグにアタリで追いかけて取る形を「シチョウ」という(145頁~146頁)

【シチョウアタリ】
シチョウを成立させないために(あるいは、成立させるために)打つ石。

【シマリ】
隅に2手打って、隅の地を確保しようとする手。
一間ジマリ、小ゲイマジマリ、大ゲイマジマリがある。
シマリを打つことをシマるという。

【タケフ】
図のような黒石の形。
黒白交互に打つ限り切られることはない。


【ダメ】
黒白の石が接している部分のすきまの点で、黒白どちらから打っても地の増減に関係しない点。
ただし、不用意に打つと自分の石がアタリに近づいてしまう場合があるので、注意を要する。
【ダメをつめる】
終局後、整地をする前に黒白交互にダメに打つこと。
また、不用意にダメを打って自分の石がアタリに近づくこと。

※ aのように、お互いの地と地の間にできた隙間を「ダメ」といい、全てのダメを、次に打つ人から交互に打っていく。
これを「ダメをつめる」という(102頁)

【ツギ】
カタツギとカケツギ。
また、一間トビのすき間に自分の石を打ったりして石をつなげることやアタリを逃げたときに自分の石とつながること。
ツナギともいう。
ツギ(ツナギ)を打つことをツグ(ツナぐ)という。

【ツケ】
相手の石の上下左右いずれかに、単独でくっつけて打つこと。

【鉄柱(てっちゅう)】
辺の星に置いてある石につなげて第三線に打った形。

※ 黒1が「鉄柱」という好手。
※ 三角印の黒石を捨てる発想が大切。
※ 三角印と四角印の白石も風前の灯(ともしび)である。(238頁)

【ナナメ】
対角線の方向に隣り合った2つの石の形。
同じナナメでも、コスミ、カケツギはすぐに切られることはないが、ハネた直後のナナメは切られる場合がある。

【二段バネ】
黒1のハネを打って白2と受けられたときに、さらに黒3とハネる手。


【ノゾキ】
図の黒1、3のように、一間トビの隙間のとなりに、隙間を覗くように打つこと。
また、ナナメのキリを狙うように打つこと。



【ノビ】
図の黒1、3のように、並んでいる自分の石の延長上につなげて、中央または外に向かって石を打つこと。
ノビを打つことをノビるという。


【ハイ】
図のように、第二線や第三線に並んでいる自分の石の延長上に石をつなげて打つこと。
ハイを打つことをハウという。


【ハザマ】
自分の石からナナメの方向に一路あけて打ったときに中間にできる点(図のA(5, 六))。
そこに相手の石を打たれると連絡が難しい。


【ハネ】
図のように、相手の石に接触している自分の石からナナメに動き、相手の進路を止める手。
ハネを打つことをハネるという。
ハネたあとの自分の石は危険なナナメになっていることもあるので注意を要する。


【ヒキ】
図の黒1のように、自分の石につなげて、味方の石に向かって石を打つこと。
ヒキを打つことをヒクという。


【ヒラキ】
自分の石から間をあけて端の線に平行に打つ手。
ヒラキを打つことをヒラくという。


※黒の三連星は、このように模様を広げて、相手に入らせて攻めようという作戦。
 自分の石から、辺に沿って、第三線か第四線に展開する手を「ヒラキ」という。
 三角印の黒石、白石の守りの二間ビラキや、四角印の黒石(下辺の星下)のように自分の地域を広げるヒラキを覚えると、布石を上手に打つことができる。(165頁)

【両アタリ】
1手を打つだけで2ヵ所の石をアタリにすること。また、その状態。

(石倉昇ほか『東大教養囲碁講座』光文社新書、2007年[2011年版]、269頁~282頁)

石の動きの名前~武宮正樹氏の著作より


 次に、武宮正樹氏の著作から、石の動きの名前を、実戦譜に即してみてみよう。
〇武宮正樹『武宮正樹の並べるだけで二・三子強くなる本』誠文堂新光社、1987年[1993年版]
 上記の著作の「第6章 囲碁用語~石の動きの名前」には、次のように述べている。

 石の動きには、名前がついている。
 このことは、それぞれの動きに独得の性質があるからであろう。たとえば、「コスミ」は堅い手であるが、「ケイマ」にはやや変幻の性質がある。「ノビ」がしっかりした手なら、「ハネ」は強くがんばった手であろう。

囲碁の用語を覚えることは、囲碁の話で便利になるというだけではなく、石の動きの意味をよく呑み込むための手助けになる。

実戦の棋譜を並べながら、囲碁の基本用語の中でも、石の動きについて覚えておきたい。
棋譜は、白番武宮正樹氏、黒番趙治勲氏、昭和60年(1985年)に打たれた棋聖戦七番勝負の第3局である。

【趙治勲VS武宮正樹の棋聖戦第3局より】
≪棋譜≫(武宮正樹『武宮正樹の並べるだけで二・三子強くなる本』誠文堂新光社、1987年[1993年版]、133頁~143頁)



棋譜再生
(武宮正樹『武宮正樹の並べるだけで二・三子強くなる本』誠文堂新光社、1987年[1993年版]、133頁~143頁)

①1手~8手
・黒5:シマリ 
 シマリには小ゲイマジマリ、一間ジマリ、大ゲイマジマリなどがある。
 念のため、黒5は小ゲイマジマリ、白6は大ゲイマジマリ。
・黒7:ヒラキ
 ヒラキも、二間ビラキ、三間ビラキ…五間ビラキぐらいまである。
・白8:カカリ
 小ゲイマガカリのほかに一間高ガカリ、大ゲイマガカリなどがある。

②9手~11手
・黒9:ハサミ
 ハサミは6種類ある。~一間バサミ、二間バサミ、三間バサミ、一間高バサミ、二間高バサミ、三間高バサミ。
 ⇒黒9は一間高バサミ、ハサミとしてはもっとも激しいものである。
・白10:一間トビ
 石の発展の、もっとも基本的な動き。
・黒11:ケイマ
 一間トビの白を攻めながら、右辺に地を作ろうとしている。
③12手~16手
・白12:オシ(押し)
 黒(16, 六、つまり白12の右)の背中を後から押している感じがわかるだろう。
・黒13:ノビ
 相手に押されたら、このようにノビるのが自然の動き。
※オシとノビは「エイッ」に「オー」と答えるような、一つの呼応した動きであると、武宮正樹氏はいう。
※白14と黒15もおなじくオシとノビ。
※白は12、14と勢力を作っておき、白16とハサミを打った。

④17手~21手
・黒17:コスミツケ
 ただのコスミとは違って、白(15, 三、つまり黒17の左)に働きかけている。
※この場合の目的はといえば、先手で隅を守ろうということ。
・白18:サガリ
※形としてはノビとおなじであるが、盤端に向かっているので、とくにサガリという。
 盤端が地面だとすれば、中央は空なので、盤面には「上」と「下」の感じがある。盤端の地面、つまり「下」に向かっているから、サガリ。
・黒19もコスミツケ
・白20は「ノビ」
※コスミツケとノビも、オシに対するノビのような呼応した動きといえる。

⑤22手~29手
・黒23:アテ
 アタリをかける手のこと。
・白24:ツギ(ツぐ)
 アタリをかければツぐのは当然。
・白26:キリ(切る)
※こう切って黒(16, 三、つまり白26の左)が取れている形であるから、白26は「切り取る」などともいう。
・白28はサガリ。
・黒29:オサエ
※相手が出たがっている隙間を封じ込んでしまう手である。

⑥30手~39手
※白30は「オシ」であるが、つぎの白32はオシではなく、「ノビ」であることに注意せよ。
※黒33は「ツギ」。アタリをツぐときに限らず、このように離れた石をつなげるのも「ツギ」である。

・白36:ツケ(ツケる)
※単独で相手の石に接触する手。
 もし白石がA(10, 四)にあるなら、36はツケではなく、「オサエ」になる。
・黒39:ヒキ(引く)
※ツケに対しては、「ハネ」で反発するか、おとなしく「ヒキ」で応じるか、というところである。
 39も形としては「ノビ」であるが、積極的なB(8, 四、つまり白36の左)の「ハネ」に対して堅実な応手なので、後へ「引く」ニュアンスを出している。

⑦40手~43手
・黒41:ハネ
※接触してきた相手石を直接オサえる手で、一般的にいって、「ハネ」はもっともきびしい手である。
ただし、きびしければいいというものではない。
・白42:キリチガイ(切り違える)
※単に「キリ」でもいいが、白40のツケ、黒41のハネを含んで、とくに「キリチガイ」と呼ぶ。
 互いに切り、切られ、石が交叉する形。
※「キリチガイ、一方をのびよ」という格言がある。
 キリチガイにはノビが冷静な対応である。
⇒この場合も、黒43のノビがそれにあてはまる手である。

⑧44手~49手
・白46:ヌキ(抜く)
※石を打ちあげること。
 この場合はいわゆる「四ツ目殺し」の最小手数でヌいており、「ポンヌキ」といわれるもの。
・白48:デ(出る)
 相手の石の隙間を出る手。
・黒49:ワリコミ(割り込む)
 一間トビの石の間にスッポリ入る手。

☆ところで、棋譜上の碁の展開についてであるが、黒は49まで上辺に大きな地を作ったが、白も46のヌキから48と突き抜いて、真ん中がたいへん厚い。
まずは互角の形勢と見られる。

⑨50手~53手
・白52:二段バネ
※白50はハネ。黒51のハネに対して、もう一度52とハネたので、50と関連して「二段バネ」と呼ぶ。
二段バネは、黒A(16, 十二、つまり白52の左)のアタリの隙が生じるので、初級者はこわくてなかなか打てない。
しかし、両アタリになるわけではないので大丈夫。
それよりも相手石の発展をおさえ込んでしまう働きが大きいという。

・黒53も二段バネ
※こんどは黒A(16, 十二)で両アタリになるから、白も気をつけねばならない。

⑩54手~64手
・黒57:ハイ(這う)
※部分的な形としては「オシ」なのであるが、前述したように、盤端は地面のようなもので、第二線は地面スレスレのところなので、そこへ石がのびていくときは「這う」という感じになる。
※第三線でこういう手を打つときもおなじである。第四線になると、地面からだいぶ離れているので、「這う」とはいわない。

・白56、58は、それぞれ「ノビ」または「ヒキ」である。
・黒63も「ハイ」

☆なお碁の対局のほうは、左下一帯から中央にかけて、白が大風呂敷を広げており、下辺の黒二子を攻めながらここに地がどれぐらい、まとまるかが勝負である。
(武宮正樹『武宮正樹の並べるだけで二・三子強くなる本』誠文堂新光社、1987年[1993年版]、133頁~143頁)

【趙治勲VS武宮正樹の棋聖戦第3局より】
棋譜は、白番武宮正樹氏、黒番趙治勲氏、昭和60年(1985年)に打たれた棋聖戦七番勝負の第3局である。
≪棋譜≫(武宮正樹『武宮正樹の並べるだけで二・三子強くなる本』誠文堂新光社、1987年[1993年版]、133頁~143頁)


<ポイント~武宮正樹氏の卓見>
・コスミツケの目的は、先手で隅を守ろうということ。
・盤端が地面だとすれば、中央は空なので、盤面には「上」と「下」の感じがある。盤端の地面、つまり「下」に向かっているから、サガリ。
・コスミツケとノビも、オシに対するノビのような呼応した動きといえる。
・部分的な形としては「オシ」なのであるが、盤端は地面のようなもので、第二線は地面スレスレのところなので、そこへ石がのびていくときは「這う」という感じになる。第三線でこういう手を打つときもおなじである。第四線になると、地面からだいぶ離れているので、「這う」とはいわない。