白河夜舟

水盤に沈む光る音の銀砂

予報では明日、数億の天使が降る

2009-06-14 | こころについて、思うこと
やっぱり僕は薔薇を届けたいのだと思う、
と、喉の底の水琴窟に、滴り落ちて、響く。





埋もれていく、埋もれていく、埋もれていく。





瑠璃光の寺の沈めるフィギュールの、
列柱回廊の、笑みを浮かべて銀傘を差す象眼猫。





埋もれていく、埋もれていく、埋もれていく。





床一面に散りかかった華の髪の死を一瞥もせず、
釉薬がかった肌をして、鏡のなかの女になる。





糸水銀、あるいは髪の骸、ベガと地熱は縫い付けられて
東京、午前3時、ふるえぬ竪琴となる。





別れて、車を拾って後部座席から振りむくと、
電話する姿、ぼやけて、手もとの携帯は、ふるえない。





埋もれていく、埋もれていく、埋もれていく。





清澄白河、谷底になり損ねた街で投網する、
多重露光の導線ベクトル、密林の洩れ日。





二重螺旋の階段を踏み外して飛び移るの。
そういって昇段する乗客の、かたち日ごと浮かび消える。





8時45分から17時48分までデータ上そこに存在して
17時48分から翌8時42分までのあなたはどこ。





きつく抱きあって眠っているうち汗が滲んで冷えて流れて
せせらぎやがて大河のように、剥がされる。いや。





埋もれていく、埋もれていく、埋もれていく。





職なく金なく家なく服なく食なくて、新宿駅。
じっとみつめる。何もないということをじっと見つめる。





受容し、編集せず、通過して、捨てていくと、
あれ、記憶が展望が過去が現在が未来が個人史が歴史が。





わたしのしごとやくらしってなんなの、思わぬうちに
気もつかぬうちに、朝、朝、朝、たまに昼、まれに夜。





「数億の天使」(吉増剛造) 
降り注ぐ明日の気象庁の観測データは銅版画に刻むべきだ。





埋もれていく、埋もれていく、埋もれていく。





やっぱり僕は薔薇を届けたいのだと思う、
でも、僕には、傘差して届ける宛て先が、わからない。





埋もれていく。埋もれていく。埋もれていく。





予報では明日、数億の天使が降る。

最新の画像もっと見る

コメントを投稿