変人バンザイ!!

不思議が好きで、立体写真を作ったり、星占いをアレンジしちゃったりする変人。

名無しの旅人

2007-12-10 12:30:58 | 自分ネタ
旅人が飢饉の村を通りがかりました。
道に死にそうな人がごろごろ横たわっていました。
手持ちの水や食料を分け与えましたが、余計に飢えはつのるばかりです。
哀れに想い、何か自分に出来ることはないか考えました。
飢饉になったのは、川の水が枯れるのと洪水になることの繰り返しからだそうです。
少しでもいいから、川幅を広げ、その土で堤防を高くし、出来れば調整池を作ろうと決意しました。

最初、一人でコツコツ作業していたのですが、しだいに農民も加わり順調に工事は完成しました。
豊富な川の流れに、堤防には木々が茂り、池には魚が泳ぎ、豊かな実りをもたらしました。
人々に感謝された旅人ですが、大変なことが起きてしまいました。

川幅を広げたせいで、下流の村が洪水に襲われたのです。
何人もの村人が犠牲になりました。
良かれと思ってしたことが、下流の村には悪いことだったのです。
何が善で、何が悪か分からなくなりました。
旅人に出来ることは、自責の念で、下流へ下流へと川幅を広げることしかなくなりました。

一生を費やし、河口までたどり着いたとき、旅人はよぼよぼの老人になっていました。
どうしても、最初の村に行ってみたくなりました。
着くとそこは人々であふれかえり、馬やかごが行きかい、活気に満ちていました。
でも、目を移すと、横道で人々が輪になって博打に興じていました。
女たちは春を売る相手を捕まえるのに必死です。
子供がぶつかってきて倒れ込みましたが、一言も誤らず行ってしまいました。
老いた旅人にはもう、この状況をどうにかしようという気力もありません。

町外れで力尽き、うずくまりました。
自分の一生はなんだったのか?という疑問を持ちながら、静かに息をひきとったのです。

誰が立てたか、そこには木切れで作った墓がありました。
木切れには、「名無しの旅人の墓」と書いてあったそうです。
コメント
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