自分で自分の人生を選ぶことができない。
選択肢のない人生の辛さを知る父親二人は、子供には苦労させたくない、自由に生きてほしいと一方的に思いを架ける。
家族とはいっても、人はいろいろな価値観や感情で生きているのに。
子供の意思を奪うことになったり、双方が思いを言葉にしないために、情に薄く冷たい人間だと父への理解も進まず、親子関係はこじれてしまっている。
とは言っても、親が子を思う、それぞれの事実の中には普遍性があって、真実と思えるものがある。
家族の解体や再生への希望が表から裏から、丁寧にすくい上げられる。
人間同士の関係はほんと厄介だ。人間関係がなければ、なんの苦労もないのだろうが・・・。それじゃあ人生は空白だ、という思いに納得する。
人と人との関係も、南部鉄器のように多くの工程をたどり、繊細な、シンプルで強い模様がデザインされていけたらいい。
「辛い思いをしたあなただからこそ、誰かのためにできることがきっとある」
補導委託を受けたことで、人間関係が浮き彫りになって、糸がほぐれていくラストは心地よく、あたたかだった。
折に触れての
固かった紫陽花の冬芽がほころび始めた。