京の辻から   - 心ころころ好日

名残りを惜しみ、余韻をとどめつつ…

祝い事のような気持ちで

2024年02月12日 | 日々の暮らしの中で
昨日2月11日は私の二番目の弟が誕生した日だったが、わずか55年間のこの世暮らしで世を去ってしまって久しい。
12月。彼の家のカレンダーにあった下旬の〈原稿閉め切り〉のメモ書きは、メモのまま残された。
誕生日だったな、と思うだけで何をするでもない。

関西に出張で来たという帰りには我が家に立ち寄ることもあり、夫との文学談議に熱が入った。
いつも弟にはお酒が入った。その相手をしながら、私は横で二人の話を聞いていた。

【アニメや少女漫画、プロレスなどの話題に「ほうほう」と聞き入り、にこにこ笑いながら「啓蒙されました」とおっしゃる。それでいて、物事の本質はわしづかみにする】、
そんな吉本隆明氏だったと大塚英二氏が書くのを読んだこともあったが、
「ほうほう」「うんうん」にこにこ笑って、相手の話を聞いて、まあ心の内ではどう解釈しているのかはわからなかったが、似たような部分もあったなと思い出す。


弟の書棚には、むのたけじ、福島泰樹、高橋和巳、吉本隆明さんといった方々の著書が並んでいた。その影響を受けて、私も彼らの書をほんの少しかじった。少しずつの食い荒らしみたいなかじり方で、読んだというだけの浅い読みを少し。

偶然にも今日の朝刊に、吉本隆明さんの素顔を長女・ハルノ宵子さんが綴った『隆明だもの』の紹介が載っていた。


吉本隆明全集が今も刊行中だが、その内容見本に推薦文を寄せて糸井重里氏が書いている。
【…全集を買って揃えてまるごと読むということも、あんまりないと思います。しなくて普通なんじゃないかとも思います。(読む読まないを越えて)「まるごと知りたいと思わせる人」なので、僕は「全集」が揃う日を祝い事のような気持ちで待っている】と。

全集はともかく、また、まるごと知りたいかどうかも置いといて、そして、私が読んだからといって弟が喜ぶとも思えないのだけど、これまたほんの少し気持ちが動いた。

ちなみに、次女のばななさんも〈父と全集〉と題して、全集発刊の運びになったことを「死に物狂いで作ってくれているよ、やっぱり出るよ」という言葉で父に届けている。【晩年ぼけて仕事が思うようにできなくなっても、出せたら本当に嬉しいと弱弱しい笑顔で言っていた】という。不況下で全集を出そうという出版社はなかったのだ。

素顔。家族だからってすべてがわかるわけじゃない。けど、ここはひとつ糸井氏の言葉に倣い、「祝い事のような気持ち」で買ってみようか。

コメント (2)
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