
図書館の入口へと向かって歩いていたとき、丁寧に呼び止められて、「あの白い花の名前はなんていうのですか」と尋ねられた。ちょうど見ながら通り過ぎた直後だったから、男性がどの花をさして言っているのかは察することができた。
訪れるたびに見かけるこの花の美しさに感じ入ったのだろうか。花の底の紅、きめ細やかな美しさをたたえる花を、単に「白い花」とだけでは片付けたくない。名前を知りたいと思うのが、人の常なのだろう。名もない花などないと言うようだが、花に限らず何にでも名前が付いている。
とりわけ白い花が好きな私のひいき目かもしれないが、純白の木槿には気品がある。もっとも、そろそろ花期も終わりに近付いているので、今、花の美の質そのものは落ちていると思うけれど…。とは言え、その時々の美しさを見て取りたいと思う。
「ムクゲ、ですか?」と返された。図書館の近くに咲いていた白い花、名前を覚えてくれたらいいのにな。
きらびやかでも、目を射るほど鮮やかでも、「心を染めるにおい立つ色合い」とはならないようだ。「色は心を染め、ひたし、しみ入る力のあるもの」と篠田桃紅さんが書かれていた。