原キョウコ ダンスセラピーラボ

ダンスセラピーという手法を通して心身の解放をサポートし、心と身体と魂をつなぐことを目標に、研究を重ねている場です。

【 遺書と遺言 】  ー 坂本龍一/おおたか静流/宮崎駿 ー

2023-08-30 | 生と死を考える

今年の1月の寒い夜のこと。

自室にいたらリビングのテレビから
かすかにピアノの音が聴こえてきた。

かすかなのに入ってくる。
通常、テレビでは流れないようなその音に
なぜだかはっとして見に行った。

坂本龍一だった。

その番組のためにスタジオで演奏していた。

聴こえてきたのは2曲めの「tong poo」だった。

当時、YMOは何度も聞いてきたし
坂本龍一のソロアルバムも何枚も聴いてきた。
特に「async」と「plancton」は今も繰り返し聴いているし
自分の稽古の時にもよく使っている。
(調べてみるとこの2枚は彼が咽頭がんを患った2014年の後に
制作されたものだった。それを知るとなるほどな、と思う)

しかしその時の「tong poo」は
今まで聴いた坂本龍一の音とは明らかに何かが違った。
言葉では言えない。
けれど、その音が静かな強さを持って
胸のチャクラに細い糸のように刺さってきたのだ。

胸のチャクラに音がダイレクトに響いてくる経験は
2回目だった。

ゴスペルの先生が組んでいたグループの歌で
ソプラノ担当のヴォーカリストの声が
客席で見ていた自分の胸に響いてきたのだ。
とてもびっくりした。
こういう体験があるのか、と思った。

乳がんの手術をしたあと、
そう時間が経っていない時だったと記憶している。
綺麗な、細いけれどぴんとした響きがまっすぐにやってきたのだ。


ー坂本龍一のその番組では
過去の曲をいくつか、
そして遺作となったアルバム「12」から1曲を演奏した。

聴きながらふと
ああもうこの人はこの世界にいるのは長くない
そしてあちらとこちらを音を通して行き来しているのだな、
と思った。

そのくらい何の乱れも汚れもない、
繊細でありのままでまっすぐで邪気のない音だったのだ。

他でもない我が身が 死を目前にすると
大抵は不安と恐怖でいっぱいになるのでは、と思う。

しかしある時期を超えると
人によってはそれを己のうちに受け入れることもある。

死と向き合うことで
それまで自分と思っていたものの中身が変質していく。
(それはわたしも経験した)

おそらく彼はそういうプロセスを経たのではないだろうか。
と思ったのだ。
最期のアルバム「12」を聴いてその感を一層強くした。

おおたか静流の最期のアルバム「おとづれ」を聴いた時にも
その声の繊細な強さとアルバムの完成度に胸を衝かれた。

もともと大変に素晴らしき歌い手だが、
魂に響くような声だったのだ。
おおたかさんは2022/9に他界されたが
前年だったか、ショーロクラブのコンサートのお手伝いに行った時、
客席で聴いた歌とはまた全く違う声の印象だった。
(もちろんレコーディングされたものとライブとは違うという前提はある。
そしてレコーディングのミュージシャンたちの層の厚さと素晴らしさも)

最期の仕事。最期の作品。
お二方どちらのアルバムも
感傷で聴いてはいない。

生と死の境界線に立っている人の表現の
次元を超えたところから響いて来る音が
ダイレクトに生身のわたしの胸に入ってきた、という体験だったのだ。

これは芸術家の「遺書」だなと感じた。

そして先日。
宮崎駿の「君たちはどう生きるか」を見てきた。
それまで見たどの宮崎監督作品よりも散漫な印象を受けた。

言いたいことや伝えたいことがたくさん沢山あって
それをうまいことまとめようとせずに
ニヤリとしながら散らかしたままにした、という感じ。

そして
俺ほんとはこれ言いたかったんだよ、
こういうことほんとは思ってたんだよみたいな
自分に向けての手紙のような。

その感じがとてもいいな、と思う。

沢山のボールを観客に向けて投げているけれど
どれを受け取るかはひとそれぞれだが、
今までと違って狙っていない感じがいいのだ。

火によって死に、火によって再生する
火の精霊たる「母」よ!あれがとても好きだった。
ふふ、と笑ってしまった。

この作品を見たあと、
ああこれは遺言だな、と感じた。

遺言はまだ気力と体力のあるうちに書くもの、と
わたしは認識している。


「生と死」は
自分にとっては子供の頃から現在に到るまでの
最大のテーマであるが
この素晴らしきアーティストたちは
それぞれの「生きてきたプロセスと培われてきた技術と方法」で
それぞれの「生と死」を提示してくれた気がする。

ひとつのものだものね。

死の後には再生がやってくる。

それがいつなのかは楽しみとしましょう。

生きているうちにこのような美しき作品に出会えたことに感謝、
そして永遠なれ!

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 【エナジーダンス合宿WS 「BO... | トップ | 【 9/10のダンスセラピーWSの... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

生と死を考える」カテゴリの最新記事