内的自己対話-川の畔のささめごと

日々考えていることをフランスから発信しています。自分の研究生活に関わる話題が多いですが、時に日常生活雑記も含まれます。

「トランスナショナルな正義」の漸進的な拡張という微かな希望

2023-11-19 16:39:43 | 雑感

 「世界のあらゆる国とあらゆる時代とを通じて、不変の正義」(パスカル『パンセ』S94, L60, B294)を私たちはまだ見たことがないし、おそらくけっして見ることはないだろう。「川一筋で仕切られる滑稽な正義」(同断章)はもう過去の話だと笑うこともできず、「ピレネー山脈のこちら側での真理が、あちら側では誤謬」とパスカルが皮肉った当時の状況と今日の世界の状況との差は程度の差でしかない。ある国が力で「正義」を他国に押し付けても、問題は一つも解決しない。普遍主義の理想は幻想でしかなく、現実に対してまったく有効性をもたない。「トランスナショナルな正義」(Martha C. Nussbaum, Frontiers of Justice. Disability, Nationality, Species Membership, Harvard University Press, 2007)を、状況に応じて修正を重ねながら、地道に漸進的に拡張していく努力を続けることのみに微かな希望がある。