2021.09.08 種山雅夫(元航空科学博物館展示部長 学芸員
ジェット機の最低速度はいわゆる「V2」?
一般的なジェット旅客機は800~900km/hの「亜音速」と呼ばれる速度帯で、プロペラ駆動のターボ・プロップ機はもう少し低い450~650km/hの速度帯で巡航します。では逆に、これらの機体はどれくらい低い速度帯で運航が可能なのでしょうか。
そもそも飛行機の飛行にとって重要な「速度」は、静止している空気を基準にして表示する「対気速度」であり、
地上の交通機関で一般的な、地面を基準に測る「対地速度」とは異なります。
これは空中を飛ぶという性質上、主翼が発生する力は対気速度を基準とするためです。
そのため、たとえばジェット旅客機が「対気速度」の900km/hで飛んでいたとしても、
上空を強い追い風が吹くなかを飛行する場合などは、地上から見た「対地速度」で見ると、1000km/hを軽く超えていた、などということも珍しくありません。
成田空港をV2以上で飛び上がるユナイテッド航空機(乗りものニュース編集部撮影)
さて一方で、飛行機が安全に運航を継続できる最も小さい速度はどれくらいなのしょうか。
旅客機の離陸時には、パイロットが「V1」、「ローテイション」、「V2」という速度を表す言葉をコールしながら、
地上を離れるのを聞いたことがあるかもしれません。
「V1」は「これ以上速度があがれば離陸を中断できない」離陸決定速度、
「ローテイション(VR)」は機首を引き起こす速度、
そして「V2」は「飛行機が安全に離陸を続けられる」安全離陸速度とされます。
これらの速度は各フライトで、風向きや気温といった離陸空港の状態、シップ(当該機)の搭載燃料、
搭載貨物や乗客数、元々の機体の重さ、設定するフラップ(高揚力装置)の角度などから、フライトごとに算定されるものです。
ジェット旅客機が最も重い状態でも、安全に空中で飛行を継続できる速度は、
実質的に安全離陸速度「V2」と考えてよいでしょう。
一般的に、V2より低い「失速速度」というものありますが、
そもそも、この失速という和訳のベースとなった「STALL」という概念は、
機体総重量に対して、主翼などによる空気による力やエンジンから発生する力のうち、
重力方向の力が、重力よりも小さくなっている状態を表します。
つまりこのスピードを下回ると高度を維持できないのです。
加えこのSTALL速度は機体の設計時に定められた値で、様々な条件で変わる実際の運航に準拠したものではありません。
このフライトごとに変わる条件に対応して設定した速度がV2となりますので、
この機体がフライトごとにSTALLしない実用的な最低速度が、V2と言い換えることができるでしょう。
V2で浮かび上がったシップは、エンジンを離陸パワーにセットして上昇していきます。
V2の速度は先述のとおり、そのときにシップの状況によって変化がしますが、
おおむね 300km/hくらいといえるでしょう。
ターボプロップ機の「V2」速度は? 最低速度、フライト通して一定とは限らない!
ターボプロップ機の場合、ジェット旅客機よりV2のスピードは小さいといえるでしょう。
一般的にターボプロップ旅客機のV2スピードは、220km/h(120ノット)から270km/h(150ノット)の範囲となっています。
たとえば国内でもJAC(日本エアコミューター)が導入しているATR72-600型機などは、
最大離陸重量に達している状態でも、約230km/h(125ノット)で、
V2の前段となる機首引き起こし速度「ローテイション」速度に達することができる点をセールスポイントとしています。
ローテイション速度が低ければ、V2のスピードもより低速になる効果が期待できます。
またこれらの速度が遅いということは、滑走路が短くとも離陸できることにつながりますので、
メーカーによっては、これを売りとしているところもあるようです。
なお、空気の状態は高度によって変わります。
地表に近ければ近いほど、空気の密度は濃くなります。
これにともなって、飛行機の最低対地速度も高度によって変化します。
つまり地上から見ると、高度が低いほど、より低速で飛ぶことができるのです。
ちなみにセスナ機などの軽飛行機の場合、一人乗務の単発エンジン機であれば、V2速度の概念はありません。
これはV2が「双発機で、エンジン1基が壊れてしまっても、安全に上昇を続けられる」という概念であるためです。
もちろんさまざまな外部要因によって変化しますが、地上付近の最低速度はおおよそ60km/h程度と、
自動車なみのスピードで航行できるときもあります。
また当然のことながら、ヘリコプター、VTOL(垂直離着陸)機などは最低速度が0km/hとなります。
ただ回転翼航空機でもオートジャイロなどは前進していないとローターが回転しないため、一定の前進速度が不可欠です。
ここまで、旅客機が安全に飛行を続けられる最も低い速度は、
多くのケースでV2に相当する……という仮定を軸に話を進めてきましたが、
この速度は着陸まで一定かというと、そうとも言い切れません。
ジェット旅客機が着陸の際には、V2よりはるかに低い200km/h台で最終進入することが一般的です。
これは、滑走路内で停止するため、出来るだけ遅い速度で接地する必要があるためです。
その理由としては、それまでの飛行で燃料を消費しており、重量が相当軽くなっていること。
もちろん、この速度は、滑走路に接地してから安全に停止ができる一方で、
何らかの理由で着陸できない場合に速度を上げれば再び上昇できるといった、絶妙な速度設定といえます。
涼しい顔をしているようにも見える空中の飛行機。実は目には見えませんが、とてもがんばって浮いているのです。
【了】
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ボーイング747の離陸速度は
離陸重量370トンのケース
離陸速度 V1. VR. V2 とは
飛行機は離陸滑走を開始して、次第に速度を上げていくと
V1(離陸決定速度)に達する
離陸滑走を続け、更に速度を増すと
VR(ローテーション。機首上げ速度の事)に達する
続いて、飛行機は地面を離れる
機種にもよるが、パイロットは大体1秒に2度の割合で機種の角度が増加するよう操縦桿を引く
引き起こし角度は15度から19度位
機首を引き起こされた機体はリフトオフ速度(浮揚速度)で地面を離れ、更に速度を増しながら
V2(安全離陸速度)に達する
V2の速度は、機種や離陸重量により異なるが
150ノット(時速約280km)前後と考えてよい
V2は飛行機が安全に離陸できる速度のことで、飛行機が規定の離陸距離に含まれる
末端(ジェットエンジン装備機で高度35フィート、ピストンエンジン装備機で高度50フィート時点)
までに到達しなければならない速度だ。ジェット旅客機で規定の高度35フィートを通過すると
ギアをアップ(ノーズギアとメインギアを格納すること)する。
この後はV2の速度プラス10ノットというさらに安全な速度まで加速したのち、
これを維持しながら上昇していくことになる。
機体が浮揚してからギアアップするまでをファーストセグメント(第1段階)
さらに
離陸面上400フィートの高度に達するまでをセカンドセグメント(第2段階)
さらに
この先高度1500フイートまでをファイナルセグメント(最終段階)と呼ぶ
V1とは