ビタミンP

苦心惨憺して書いている作品を少しでも褒めてもらうと、急に元気づく。それをトーマス・マンはビタミンPと呼んだ。

売るなんて出来ない

2020年01月18日 10時28分38秒 | Weblog

ぼくは本を届けた。

連中は言った。

「すごくいいねえ。君から買い取ろう。2万ドルでどうだ。主役にはライアン・オニールか、バート・レイノルズがいいと思ってる」

俺は言った。

「いや、俺が是非これをやりたいんだ」

すると相手は「君は無名じゃないか」

俺は言った。

「それはわかってる。だからタダで出るよ」

そしたら「そういう風に行くもんじゃない」

それから彼らが言った。

「じゃあ8万ドルならいいか?」

俺は言った。

「いやだ」

相手は言った。

「じゃあねえ、これをレッドフォードにも送ろうと思ってるんだ。彼がやりたかったら、君に20万ドルあげよう」

俺は言った。

「それはすごい額だなあ」

・・・・

俺はうちに帰り、家内に言った。

「ああ大変だ」って。

・・・・

でもーー俺には出来なかった。

出来ない! その金が二人の今後を安定させてくれるかもしれないが、でも・・・。

・・・・

自分に言った。

「ここまで頑張ってきたじゃないか、俺の人生! それを売るなんて出来ないだろ!」

「それじゃあ」と連中は言った。

「33万ドル」。

そしてついに「36万ドルだ」。

で、俺は言った。

「ちょっと説明させてくれ。映画は作らないでくれ。作らないでくれ。俺は映画化権を絶対売らないから」。

すると彼らは言った。

「君は頭がおかしい!」。

俺は言った。

「よくわかるよ。でも俺は決して売らない」。

すると会社はまたやってきて言った。

「わかった。君は映画を作っていいよ。週に340ドル払うが、それっきりだよ」

で、俺は言った。

「けっこうだ」

 

(シルベスタ・スタローン・・・29歳だった1975年、観戦したボクシングの世界ヘビー級タイトルマッチ「モハメド・アリ対チャック・ウェブナーの試合に感銘を受け、それをヒントにわずか3日で書き上げた脚本(後に『ロッキー』の名で映画化される)を持って映画会社に売り込みに行った・・・『アクターズ・スタジオ・インタビュー』)

 

 

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