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ビタミンP

苦心惨憺して書いている作品を少しでも褒めてもらうと、急に元気づく。それをトーマス・マンはビタミンPと呼んだ。

「どこで人生を終えるかなんて

2007年11月28日 22時29分42秒 | Weblog
わからないものよ」

 フエゴ島で出会ったミス・スターリングという7年間旅を続け、「来年の5月にはネパールのつつじを見に行く途中よ」と言う婦人の言葉を、ブルース・チャトウィンは書き留めている。48歳で夭逝する英国人作家は、このとき37歳。パタゴニアを半年かけて漂流している途中だった。

 英国ホーソンデン賞を受賞した紀行文学の傑作という書評につられて手にしたブルース・チャトウィンの『パタゴニア』(めるくまーる)を、やっと読み終えた。
 ほんと、やっとの思いで読み終えたというのが実感である。購入してから半年が経過してしまった。読んでは放り出し、それでもどこか気になっていて、また手にして、数ページ読んでは放り出しての、繰り返しだった。
 気になったのは、チャトウィンが訪ねる一人ひとりが、パタゴニアという辺境の地で、それでも生きている、運命に立ち向かっているからだった。
 ある日突然「パタゴニアに出発した」との電報を勤めていた『サンデー・タイムズ』に送りつけて会社を辞め、半年間をかけて駆け巡ったパタゴニアの旅。そこで、彼が出会ったのは、地の果てに流れ着いたアウトローたちだった。幸福そうに見える者もいれば、そうでない者もいた。しかし、皆、一様に逃れられない運命ともいえるその土地での生活に立ち向かっていた。
 パタゴニア皇太子を名乗る男、独立運動に敗れて逃げてきた男、アメリカを逃れたギャング、一角獣の骨を発掘したと語る神父、ロシア人亡命者やヨーロッパからの移民たち。
 自分が生きる場所を探してパタゴニアまできてしまった人たちに、チャトウィンは、問いかける。
「なぜ、人は生まれた土地、幸せに包まれた土地を離れて、移動し続けるのか?」「なぜ、定住せず、もっとよい土地を求めて、漂流するのか?」
 そして、
「求めていたものは手にできたのか?」


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「そして友人を失ってみて初めて、

2007年11月08日 00時11分47秒 | Weblog
思い知らされることがある。
自分の人生を充たしてくれていた歓びや目に見えない贈り物は、すべて友人が与えてくれたものだったと」
『ABCDJ』(NHK出版)の中でアメリカの名コラムニスト、ボブ・グリーンは、そう語りながら、少年時代からの親友5人の物語を進めていく。描かれているのは、彼が故郷オハイオ州の幼稚園で出会った親友Jを中心とした50年余にわたる人生だ。
 末期ガンを宣告されたJのために、残された時間をできるかぎり一緒に過ごそう。生まれ故郷に集まった50代後半の男たちは、Jがもう一度見てみたい、訪ねてみたいと言う故郷の町々を訪ね歩く。“アメリカの精神的故郷”とも言われる中西部の小さな町にかつてあったレストランを、母校の校庭を、キャンデーショップを、テーマパークを。そこは、いつもだらだらと夜の時間を過ごし、意味のない話をいつまでも飽きることなく続けることのできた、5人にとっての思い出の場所だ。だが、オハイオからも、もう“古きよきアメリカ”は消えてしまっている。“進歩というものは、ほんとうに人間を幸せにしてきたのだろうか?”ボブはそう語り掛けたかったのだろう。
「それでもまだぼくらが二十代や三十代のときまでは、最後ののんびりした時代があったな。何もかも容赦なく、過剰に流れこんでくるまえのことだよ。あの頃はまだパソコンなんてものはなかったし、携帯電話もなかった。ワールド・ワイド・ウェブも存在していなかったし、電話もナンバー・ディスプレイも保留機能もなかった」
「まだ少年だった頃・・・私たちも世界そのものもメディアによるイメージの奔流にまだ晒されてなく、その影響力に左右されることはなかった頃・・・世界は二階にある部屋から見える景色よりも、決して大きくなることはなかったのだ。」

 

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