勝つことばかり知りて、負くること知らざれば、
害その身に至る。
世におそろしいのは、勇者ではなく、
臆病者だ。
いくら考えても、どうにもならぬときは、
四つ辻へ立って、杖の倒れたほうへ歩む。
人生に大切なことは、五文字で言えば
「上を見るな」。
七文字で言えば
「身のほどを知れ」。
いさめてくれる部下は、
一番槍をする勇士より値打ちがある。
重荷が人をつくるのじゃぞ。
身軽足軽では人は出来ぬ。
一手の大将たる者が、
味方の諸人の ぼんのくぼ(首の後ろのくぼみ)」を見て、
敵などに勝てるものではない。
我がために悪しきことは、
ひとのためにも悪しきぞ。
最も多くの人間を喜ばせたものが、
最も大きく栄える。
敵だというのも
自制心を忘れた怒りである。
愚かなことを言う者があっても、
最後まで聴いてやらねばならない。
でなければ、
聴くに値することを言う者までもが、
発言をしなくなる。
滅びる原因は、
自らの内にある。
人間は、健康でありすぎたり、
得意すぎたりする時にも警戒を要するのだが、
疲れたおりの消極性も
また厳に戒めなければならない。
大将というものはな、
家臣から敬われているようで、
たえず落ち度を探されており、
恐れられているようで侮られ、
親しまれているようで疎んじられ、
好かれているようで憎まれているものよ。
真らしき嘘はつくとも、
嘘らしき真を語るべからず。
われ独り出頭して、
一人して事を埒あけたがるように致す、
これ大なる病なり。
あぶない所へ来ると、馬から降りて歩く。
これが秘伝である。
(徳川家康)