ビタミンP

苦心惨憺して書いている作品を少しでも褒めてもらうと、急に元気づく。それをトーマス・マンはビタミンPと呼んだ。

新型コロナ感染症にかかった人の脳は、最高で10歳も老化

2020年10月31日 20時08分18秒 | Weblog

新型コロナ感染の後遺症で脳が10歳も老化する?

(2020年10月28日(水)17時55分Newsweek日本版)

<新型コロナ感染症にかかった人の脳は、最高で10歳も老化し、高度な思考力が目に見えて減退する可能性があるという恐るべき研究結果が発表された>

 新型コロナウイルス感染症にかかった人は、脳が最高で10年も老化する可能性があるという研究結果が発表された。

 この研究はイギリスで行われたもので、新型コロナウイルス感染症(未確認症例含む)から完治した8万4000人以上の元患者に対して、思考能力をテストした。研究結果は専門家の検討前に医学系論文を事前公開するサイト「medRxiv」に掲載されている。学術誌での発表に必要な厳格な査読プロセスを経ていないため、この結果は慎重に受けとめる必要がある。

 研究の参加者は、いずれも新型コロナウイルスの感染が確認されたか、あるいは感染が疑われた経験があると答えた人々で、症状が続いた期間、重症度、基礎疾患の有無といった質問に答えた。また、問題解決能力、空間記憶力、注意力、感情の調節能力などを測定するテストを受けた。

 思考力テストの結果は、比較対象のため、新型コロナに感染したことのない人々のテスト結果と比較された。すると、新型コロナ感染症の元患者は、非感染者よりも認知力テストの成績が悪いことがわかった。

 新型コロナと認知力低下の関連性は、重症者のほうが大きかったが、症状が軽かったケースでも関連があることは明らかだった。この研究では、呼吸障害のなかった患者は軽症と定義している。

■重症者ほど思考力が低下

 この研究で明らかになったのは、高次の認知といわれる能力に、特に目立つ後遺症が見られることだ。

 元患者の注意力、論理的思考力、特に口頭で論理的思考力を展開する能力について、研究論文の共同執筆者である英インペリアル・カレッジ・ロンドン脳科学部のアダム・ハンプシャーが本誌に語った。

 入院し、呼吸器の症状が深刻化して人工呼吸器をつけた20~70歳の元患者の思考力は、平均で10歳年上の人のレベルにまで減退していた。

認知障害との関連性が高い重要な予測因子は、呼吸器症状の重症度と感染の有無だけだった、とハンプシャーは本誌に語った。既往症の有無といった他の条件は、発見された傾向を説明する要素にならなかったと、彼は言う。

 今回の研究データは「新型コロナ感染が慢性的な認知力の低下という後遺症をもたらす可能性がある」ことを示唆していると、研究チームは述べている。また、新型コロナ感染症から回復した後で、脳卒中や免疫系の過剰反応および炎症などの合併症に起因する神経学的な問題が生じる可能性を示す研究が数多く行われている点も指摘した。

「これらの結果は、新型コロナ感染症を乗り越えた人々に起こりうる認知障害の原因をさらにくわしく研究する必要性を訴えるものだ」と、論文の執筆者らは書いている。

 専門家からは、この研究結果は新型コロナウイルスが思考力の問題を引き起こすことを証明していないという批判もある。

 英エジンバラ大学のジョアンナ・ウォードロー教授(応用神経イメージング)は、研究チームが新型コロナに感染する前の被験者の認知機能に関する情報を把握していなかったことから、研究成果は限定的だと述べた。この研究で明らかになった問題も、短期的な現象かもしれない、と彼女は言う。

 英ロンドン大学ユニバーシティ・カレッジのデレク・ヒル教授(医学イメージング科学)は、この研究を「興味深いが、結論は出ていない研究」と評した。新型コロナに感染したかどうかを被験者の自主申告にまかせているので、情報の信頼性が疑われる、と彼は言い、コロナウイルス検査を受けて陽性が確定していたのは、元患者の「ごく一部」だけだったことを明かした。

 ヒルはまた、たとえば脳のスキャンなどでウイルス感染が脳にどんな生物学的に影響を与えたかを調べていない点を指摘した。「アルツハイマー病の認知機能低下は、MRIスキャンによって特定できる脳の収縮に関連していることはよく知られている」と、ヒルは言う。

 英エクセター大学の上級臨床講師デービッド・ストレインは、非感染者と比較して10年ほど老化した一部の新型コロナ感染症患者の脳の状態は、他のウイルスによる感染症から回復した患者の脳の状態よりも「はるかに悪かった」と述べている。

 今回の研究では、参加者約8万4000人のうち、ウイルス検査で陽性が確定していたのはわずか361人であったため、研究結果は確定的とはいえない。

 ハンプシャーによれば、感染が確認された参加者の数が少ないのは、研究が行われた時点で、ウイルス検査を受けたイギリス人がまだ少なかったからだという。「今も研究の参加者を募集している。新型コロナ感染者が参加したら、認知能力が本当に低下するかどうかを確認するため将来にわたって追跡する」

 


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致死率30%超、スーパー耐性菌がコロナの恐れの陰で流行拡大の恐れ

2020年10月30日 23時44分14秒 | Weblog

治療も消毒も困難なカンジダ・アウリス、世界中の医師が警鐘

(2020.10.29 National Geographic)

 

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が世界的に猛威を振るうなか、あらゆる薬剤に耐性を持つこともあるスーパー(超多剤)耐性菌カンジダ・アウリス(Candida auris、カンジダ・オーリスとも)の感染が一部で拡大していると、医師たちが警鐘を鳴らしている。カンジダ・アウリスは特に院内感染で広がりやすく、今年はコロナ患者であふれる医療現場に大きな負担がかかっているためだ。

 カンジダ・アウリスは、シーツ、ベッドの手すり、ドア、医療器具などに付着して長時間生存し、そこに人の手が触れると感染が広がる。また、カテーテルや人工呼吸器、流動食など、体内へ管を挿入するときに感染するリスクが高い。コロナで入院した患者は、呼吸器系がやられるため、こうした措置を受ける機会も多い。

「残念なことに、一部の地域でカンジダ・アウリスが拡大しています」と、米疾病対策センター(CDC)の真菌症部長トム・チラー氏は言う。「救急病院やコロナ病棟にまで広がっているところもあります。いったん感染が発覚すると、完全に取り除くのが難しいので、非常に心配です」

 カンジダ属の真菌は、元々舌や性器に白い斑点ができる程度の軽い症状を引き起こすことで知られていた。ところが、カンジダ・アウリスは2009年に帝京大学の槇村浩一教授らが初めて報告してから、少なくとも40カ国で報告され、数千人の感染者が出ている。日本型の病原性は低いものの、致死率が30~60%にのぼるタイプもある。

 薬剤に耐性を持つ菌は、カンジダ・アウリスだけではない。既に世界では、数百万人が様々なスーパー耐性菌に感染しており、カンジダ・アウリスの感染拡大はその危機をさらに悪化させる恐れがある。2019年、CDCはカンジダ・アウリスを米国の薬剤耐性菌のなかでも最大級の脅威と位置付けた。今年は8月末までに、米国内で1364件の感染が確認されている。2018年全体の感染者数と比較して4倍強だ。

 だが今年は、新型コロナの陰で見逃されているカンジダ・アウリスのケースも多く、実際の数字はそれよりもはるかに高いとみられる。菌が人の皮膚に付着しても、症状を示さない場合がある。新型コロナの流行中に急増している超過死亡数の中に、スーパー耐性菌による死者が含まれている可能性もある。世界中の医師たちが警鐘を鳴らしているのはそのためだ。

■コロナ重症患者が院内で感染か、10人中6人が死亡

 2011年のこと。インド、ニューデリーの研究所で働いていたアヌラダ・チャウドリー氏のもとへ、複数の血液サンプルが送られてきた。市内にある2つの病院の集中治療室と新生児室で、謎の真菌感染症が広がっているということだった。

 デリー大学ヴァラブバイ・パテル・チェスト研究所の医真菌学教授であるチャウドリー氏は、真菌の正体を特定し、治療薬を提案するよう依頼された。分析結果を見たチャウドリー氏は、首をひねった。

「カンジダ・アウリス? 何それ? と聞いてしまいました」

 チャウドリー氏が知らなかったのも無理はない。カンジダ・アウリスが初めて報告されたのは、そのわずか2年前だった。ある患者の耳の中から発見されたので、ラテン語で耳という意味を持つ「アウリス」と名付けられた。

 何よりも驚いたのは、真菌感染症に真っ先に使用される治療薬フルコナゾールが、チャウドリー氏の血液サンプルにはまったく効果を示さなかったことだ。2013年に、チャウドリー氏の研究チームがこの件に関して論文を発表しているが、その後カンジダ・アウリスはフルコナゾールやその他のアゾール系薬剤に耐性を持っていることが明らかになった。また、別の主要な2つのタイプの抗菌薬すら効かない場合もある。

 現在チャウドリー氏は、デリーの集中治療室に入った新型コロナの重症患者のなかで、カンジダ血症が認められた患者を研究している。カンジダ菌が血液に入り込んで起きる疾患だ。

 チャウドリー氏らが医学誌「Emerging Infectious Diseases」の11月号に発表した小規模研究の結果では、15人の患者のうち10人にカンジダ・アウリスが見つかった。いずれも院内で感染したとみられている。

 全ての血液サンプルがフルコナゾールに耐性を持ち、血液から分離した株のうち4つは別の抗菌薬アムホテリシンBも効かなかった。最後の望みであるエキノカンジンは、インドでは入手が難しい。最終的に、6人が死亡した。

 チャウドリー氏は、新型コロナと同じく、カンジダ・アウリスの感染拡大を抑えるためにも、検査と接触者追跡が重要であると訴える。カンジダ・アウリスの検査は、皮膚の表面をこするか、血液または尿を採取して行う。陽性と判定された患者では、3種類の抗菌薬の効果が調べられる。

 こうしてスーパー耐性菌による死者数をある程度特定することは可能だが、院内感染しやすいという点が問題を複雑にしている。病院では、患者は既にコロナなどほかの病気にかかっているため、死因がその病気によるものなのか、薬剤耐性菌によるものなのかを判断するのは難しい。

■気候変動とパンデミック

 2019年、世界保健機関(WHO)は薬剤耐性菌を人類の健康に影響を与える10大脅威のひとつに挙げ、今や簡単に治療できるようになった結核や淋病すらも制御できない世界へ逆戻りしてしまうのではとの懸念を示した。

 世界的に家畜や人間の医療現場で抗菌薬を乱用したことが、スーパー耐性菌を誕生させたといわれている。だが、ワシントンD.C.にある疾病動態経済政策センター(CDDEP)の設立者で代表者のラマナン・ラクスミナラヤン氏は、気候変動によって真菌感染症が将来さらに拡大するだろうと予測している。

 米国微生物学会の学術誌「mBio」に昨年掲載された論文では、「カンジダ・アウリスはおそらく気候変動によって誕生した初めての真菌感染症かもしれない」との見方が示された。

 感染症にかかると、人間は防御反応として発熱する傾向がある。菌は熱に弱いためだ。だが、カンジダ・アウリスのような真菌が地球温暖化により高温の環境に適応すれば、その防御反応も効かなくなる恐れがある。つまり、将来的には既存の真菌が拡大するだけでなく、新たな真菌感染症が現れるかもしれない。

「抗生物質が効かない細菌が増えているように、抗菌薬が効かない真菌も人類を脅かすようになるかもしれません」とラクスミナラヤン氏は警告する。多剤耐性結核菌や、北米を中心に症例が急激に増えているクロストリディオイデス・ディフィシル(Clostridioides difficile)などの強力な細菌は、米国で年間280万件というスーパー耐性菌感染症の99%を占め、死者はおよそ3万5000人に上る。

 以前から薬剤耐性を育む温床と言われてきたインドは、今や新型コロナ感染症流行の中心地となっている。チャウドリー氏の研究室でも、約半数の職員が最近の検査でコロナ陽性と判定され、2人が死亡した。個人的にも大変な状況に置かれているなか、カンジダ・アウリスの脅威に人々が気付き始めていることを、チャウドリー氏は歓迎している。

「多くの人が、インドの問題なので自分たちには関係ないと考えていました。これまで私はたったひとりで研究し、大変な思いもしましたが、今は世界がその研究に取りかかっています。真菌感染症は、決して無視してはいけない病気です」


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国立公園で再生エネ発電促進 環境相、規制緩和の方針

2020年10月28日 10時24分03秒 | Weblog

来年1月に召集する通常国会に関連法案を提出

(2020/10/28 1:00 日本経済新聞 電子版)

 

 小泉進次郎環境相は国立公園内で再生可能エネルギーの発電所の設置を促す規制緩和をすると表明した。公園内は地熱や太陽光、風力を利用しやすいためだ。温暖化ガスの排出量を2050年までに実質ゼロにする新たな政府目標に向けて再生エネを増やす。26日の日本経済新聞のインタビューで語った。

 年内に環境省がつくる脱炭素社会に向けた政策集に盛り込み、来年1月に召集する通常国会に関連法案を提出する。

 全国34の国立公園の敷地の多くは発電所の新設を制限している。一部で認めるが、資源エネルギー庁の報告書などは規制で整備できない場合があると指摘していた。小泉氏は「いい案件があっても保護一辺倒で活用が進まない例もあり得る。保護と利活用の両立へ発想を転換する」と話した。

 50年までに排出量の実質ゼロを宣言した自治体に再生エネの導入を補助金で支援する。太陽光発電を使う道路灯などのインフラ投資を後押しする。50年までの実質ゼロは既に160超の自治体が宣言済みだ。小泉氏は「国より先に宣言した自治体の再エネ導入を加速する」と強調した。

 電力消費が多いデータセンターに関しては電力を再生エネで賄う場合に整備費用を補助する。北海道石狩市では、原則として再エネで稼働する施設を民間企業が建設中だ。小泉氏は「他の地域にも広げていく」と述べた。

 電気自動車(EV)の普及を巡っては「物流や配送の分野での導入を支援したい」と方針を示した。物流企業などを念頭に、バッテリー交換式の二輪車や四輪車を購入したときの補助を拡充する。

 EVは運転しなくても蓄電池としての役割を果たす。小泉氏は「EVは『動く蓄電池』だ。社会インフラとして後押しする」と説明した。普及のため災害時は緊急電源に使えると訴えていく。

 菅義偉首相が50年までの排出量の実質ゼロ目標を唱えたことに関しては「(自分の)働きかけが首相の決断という形で実って素直にうれしい。成長戦略の柱として脱炭素社会への移行を掲げるのは歴史的な転換点だ」と指摘した。

 小泉氏は「脱炭素社会への移行は無関係な人はいない。再生エネを使っていないだけでグローバルのサプライチェーンから排除される可能性すらある」とも明言した。中小企業などでも対応が必要になると呼びかけた。

「50年までに実質ゼロ」にあわせ、これまで掲げていた「30年度までに13年度比で排出量26%削減」の目標も見直す。30年目標はパリ協定に基づいて政府が国連に提出する。今年は見直し年だったが日本は据え置きを決めて批判を受けた。

 小泉氏は来年11月に英国で開く第26回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP26)までに削減目標を再設定すると表明した。


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欧州エアバスは水素を燃料にした飛行機の事業化計画を公表

2020年10月28日 07時57分39秒 | Weblog

脱炭素へ大競争時代 中国は水素奨励、欧州は新税検討 

(2020/10/27 1:00 日本経済新聞 電子版)

 菅義偉首相が26日表明した温暖化ガス排出を「実質ゼロ」にする目標に関し、具体的な計画づくりで先行するのは欧州連合(EU)と中国だ。再生可能エネルギーや省エネの拡大に加え、水素社会の実現がカギとみる。官民挙げての技術開発競争が激化してきた。

 国際エネルギー機関(IEA)は10月に公表した報告書で、2050年に世界の排出を実質ゼロにするため30年までに必要な道筋を示した。

 (1)二酸化炭素(CO2)を10年比45%減

 (2)電力部門からの排出を19年から60%減

 (3)電力供給に占める再生エネの割合を19年の27%から60%に上げる 

 (4)30年の乗用車販売の半分以上を電気自動車(EV)に――。

いずれも容易な内容ではない。

 IEAは個人の行動を変えることも提言した。

 (1)労働者の2割が週3回以上在宅勤務

 (2)運転速度を時速7キロメートル遅く

 (3)冷暖房の設定を3度弱める

 (4)3キロメートル以内の車移動を自転車か徒歩に変更

――などを推奨した。

 EUは50年までの「実質ゼロ」を掲げる。30年までに1990年比で40%減らすとの目標も引き上げ、少なくとも55%減らす案を議論する。30年までは再生エネや省エネなどの普及が主だが、30年以降は新技術に期待する。その中心が水素だ。

「商用航空機分野でこれは歴史的な瞬間だ」。欧州エアバスのフォーリ最高経営責任者(CEO)は胸を張る。9月、水素を燃料とする航空機を35年までに事業化すると発表した。航空機は世界のCO2の約2%を排出しており、水素燃料の航空機が実現すれば排出ゼロに近づく。

 EUは7月に「欧州クリーン水素連合」を創設、官民で研究開発やインフラ整備を進める。EUのティメルマンス上級副委員長は水素を「新エネルギー界のロックスターだ」と呼ぶ。EUは50年の世界のエネルギー需要の24%を水素が担う可能性があるとみる。

 水素などの新技術にはコストがかかり、当面は欧州企業が競争力で不利になる恐れがある。環境規制の緩い国から安価な製品が欧州に流入する懸念があるが、それを防ぐためにEUが検討するのが「国境炭素税」だ。

環境対策が十分でない国からの輸入品に事実上の関税をかける内容だ。欧州企業が抱く高い排出減目標への不安に応える狙いがあり、EUは公平な競争条件の確保に必要として、遅くとも23年までに導入する。

「60年までにCO2排出量を実質ゼロにする」。中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席は9月の国連演説で強調した。努力目標とはいえ、踏み込んだ目標設定に他国の政府関係者は驚いた。

 中国はCO2の排出量で世界の3割弱を占める最大の排出国だが、再生エネ導入にも熱心だ。中国はEVの世界最大の市場で、IEAによると19年の販売台数は世界全体の54%だった。中国の太陽光の発電電力量は18年時点で世界の32%と、日本のシェアの3倍近い。

 26日開幕した中国共産党の重要会議、中央委員会第5回全体会議(5中全会)で決める第14次5カ年計画(21~25年)では、非化石燃料の1次エネルギーに占める消費比率を従来目標の15%から18%程度に引き上げるとの見方がある。

 具体策として、再生エネの「利用実績」を取引できる市場をつくる。温暖化ガスの排出量取引に似た仕組みだ。中央政府が決めた再生エネの利用目標を達成できない電力小売事業者らに、目標を達成した企業から「利用実績」を買い取らせる。

 水素社会の実現も急ぐ。中国政府は9月、燃料電池車(FCV)の販売補助金制度を撤廃し、中核技術の開発企業に奨励金を与える制度を導入。FCVは技術的な難度が高く、当面は技術開発に対して直接財政支援する必要があると判断した。

 20年9月、北京市は新たに「北京大興国際水素エネルギーモデル地区」を設けた。水素エネルギーのインフラを整備し、中核技術を持つメーカーの技術力を高める。

 日本は計画をどう実現するのか。まず再生エネの普及の制約となっていた送電網を増強する。出力が不安定という再生エネの欠点を補うため、大容量の蓄電池の量産体制を整える財政支援などにも取り組む見通しだ。

30年までに洋上風力発電を全国に整備し、原発10基分にあたる1000万キロワット分の発電容量を確保する計画も立てた。大量のCO2を出す石炭火力は事業者に達成すべき発電効率の目標を課すなど、非効率な設備の削減を促す措置を検討する。

 18年度に発電量の6%にすぎなかった原子力発電所について、梶山弘志経済産業相は「今後10年間、再稼働に全精力を注ぐ」との方針を示す。ただ再稼働自体のハードルが高いほか、新増設がなければ30年時点の原発の電源構成比率は最大15%程度にとどまる見通し。(ブリュッセル=竹内康雄、北京=川手伊織)

 

■再生エネ・蓄電池・CO2回収、次世代技術カギに

 優れた省エネや電池の技術で環境先進国といわれてきた日本だが、中国や欧州の飛躍でその地位が大きく揺らぐ。世界が「温暖化ガス排出ゼロ」を競うなか、日本の将来は技術革新を起こせるかにかかっている。

「脱炭素社会」で競争力の源泉となるのが、再生可能エネルギーと蓄電池技術だ。革新的なイノベーションを期待できる技術の芽生えは既にある。いかに育てるかだ。

 再生エネのなかでも、無尽蔵の太陽光を電力に変える太陽電池の進化は欠かせない。屋根に載せる一般の太陽電池は光を電気に変える効率は足踏みを続ける。だが専門家は、限界を超える太陽電池の実現は可能とみる。

 2019年秋、文部科学省の科学技術・学術政策研究所が専門家への調査などをもとに予測調査をまとめた。36年に変換効率が50%を超える太陽電池が実用化できると分析した。新しい太陽電池の開発は急速に進んでいる。「ペロブスカイト型」と呼び、低コストで薄く作れる。太陽電池を取りつけにくかった建物の壁面や曲面を覆い、太陽電池の設置面積を飛躍的に広げる可能性を秘める。

 再生エネの普及を支えるのが蓄電池だ。電気自動車(EV)の性能に例えると、今は1回の充電で様々な工夫を凝らして500キロメートルを超えて走る車種がようやく出始めたにすぎない。30年ごろの実用化が待たれる次世代蓄電池に求められるのは、1回の充電で2倍以上にあたる1千キロメートル超の走行を可能とする性能だ。

 再生エネの太陽光や風力発電を長らく使いこなせていないのは、気象条件によって発電量が変動し、停電などのトラブルを恐れるためだ。大容量の蓄電池があれば、余った電気を蓄え、必要なときに使うしくみが整う。火力発電所に頼ってきた世界が一変する。

 蓄電池の進化で、EVはより長い距離を走れる。トラックなどの物流も電化が進み、脱炭素が可能となる。こうした蓄電池や再生エネの技術は互いに連携して実用化を進めることが不可欠だ。

 廃棄物の問題はあるが、原子力発電も温暖化ガスの二酸化炭素(CO2)を出さない。多様な電源を求めるなら、40年代には安全な小型原子炉の実用化が必要になる。次世代原子力技術でも欧米中は競う。安全性を高めたとされる核融合発電は50年代に実用化を目指す。欧日中などはフランスで共同開発する。

 CO2を回収する技術も総動員すべきだろう。世界の企業の取り組みは進み、30年代にはCO2を大気中から取り出し、化学原料などに再利用することが当たり前になっているかもしれない。

 地球温暖化が産業界にもたらす脅威の一つは、たった一つの技術革新で、これまでの「勝ち組」と「負け組」の構図が入れ替わることだ。日本はこれまで再エネ・省エネ技術で世界をリードしてきた。脱炭素社会の進展とともにあっという間に中国や欧州に市場を奪われた。50年ゼロを規制や負担と捉えずに好機としなければ日本の環境先進国としての復権はない。(気候変動エディター 塙和也)


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中国、2035年全て環境車に 通常のガソリン車は全廃 

2020年10月28日 07時15分34秒 | Weblog

中国「省エネルギー・新エネルギー車技術ロードマップ」を発表

(2020/10/27 19:30 日本経済新聞 電子版)


 中国政府は2035年をめどに新車販売のすべてを環境対応車にする方向で検討する。50%を電気自動車(EV)を柱とする新エネルギー車とし、残りの50%を占めるガソリン車はすべてハイブリッド車(HV)にする。世界最大の中国市場の方針転換は、世界の自動車大手にも対応を迫る。
 中国の自動車専門家組織「中国自動車エンジニア学会」が「省エネルギー・新エネルギー車技術ロードマップ2.0」を27日発表した。工業情報化省の指導を受けて作成しており、中国の自動車政策はこのロードマップに基づいて実施される見通しだ。
 EVを中心とする新エネ車の比率を高める。19年の新車販売に占める比率は5%だったが、ロードマップでは25年に20%前後、30年に40%前後、35年に50%超まで高める。新エネ車の95%以上はEVとする。
 残りのガソリン車などは、すべて省エネ車のHVに切り替える。HVの比率を25年にガソリン車などの50%、30年に75%、35年に100%に高め、HVではない従来型のガソリン車などは製造・販売を停止する方針だ。


 習近平(シー・ジンピン)国家主席は9月、60年までに二酸化炭素(CO2)排出量を実質ゼロにする目標を表明した。排出量世界1位の中国が脱炭素社会に移行するにはEVなどの爆発的普及が不可欠とみて、通常のガソリン車を全廃する大胆な方針転換を図る。
 自動車の「脱ガソリン」は欧州が先行する。英国がガソリン車などの新規販売を35年に禁止すると表明し、フランスも40年までに同様の規制を設ける方針。9月には米カリフォルニア州が35年までにガソリン車の販売禁止の方針を表明した。
 日本でHVやEVなどが販売台数に占める割合は19年に39.2%。政府は30年に50~70%にする目標だが、中国や欧州などに比べ見劣りする。
 新車販売台数で世界最大の中国市場が、世界の自動車大手の戦略に影響を与えるのは確実だ。トヨタ自動車は9月の北京国際自動車ショーで、中国のHV累計販売台数が100万台を超えたと発表した。ホンダを含めHVに強い日系メーカーに有利との見方は多い。中国国有の重慶長安汽車と北京汽車集団は25年までのガソリン車などの製造・販売停止を発表した。
 米中対立の先鋭化や国際物流の停滞にも備える。35年には部品などを海外に依存しない中国独自のサプライチェーンを構築する。販売だけでなく技術でも世界をリードする「自動車強国」への転換をめざす。
 自動運転分野の開発を進める方針も示した。30年に自動運転技術を高速道路や限定地域で実現。35年に物流などを組み合わせた高度な自動運転技術を各地で実用化する。
 燃料電池車(FCV)に力を入れる方針も盛り込んだ。25年に保有台数10万台、35年には100万台にする。当面はバスなどでの利用拡大をめざす。


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新型コロナウイルスはインフルエンザウイルスに比べて、5倍長い時間感染力を保ち続ける

2020年10月19日 19時16分56秒 | Weblog

皮膚付着の新型コロナウイルス 感染力9時間続く 京都府立医大
2020年10月19日 14時50分 NHK NEWSWEB

 新型コロナウイルスがヒトの皮膚に付着した場合、感染力がある状態がおよそ9時間にわたって続き、インフルエンザウイルスのおよそ5倍長い時間だったとする研究成果を京都府立医科大学のグループが発表しました。

 京都府立医科大学の廣瀬亮平助教らのグループは、ヒトの手などに着いた新型コロナウイルスがどれくらい感染力がある状態が続くのか調べるため、亡くなったヒトから提供された皮膚に新型コロナウイルスとA型インフルエンザウイルスをそれぞれおよそ10万個付着させて違いを比べました。

 その結果、新型コロナウイルスは活性化した状態がおよそ9時間にわたって続き、1時間50分ほどだったインフルエンザウイルスに比べて、5倍長い時間感染力を保ち続けることが分かったということです。

 一方、アルコール消毒の効果を調べるために新型コロナウイルスを付着させた皮膚を濃度80%のエタノールに15秒間浸したところ、ウイルスはほとんど検出されなかったということです。

 廣瀬助教は「感染防止をするためには、インフルエンザウイルスよりも消毒などの対策が重要だ。また手指のアルコール消毒の効果があることが実験でも確認できた」と話しています。


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息で新型コロナウイルスの感染の有無や重症化リスクを判定

2020年10月19日 04時40分11秒 | Weblog
息で新型コロナを判定 東北大と島津製作所が実用化へ
 
2020年10月16日 15時30分 朝日新聞DEGITAL
 東北大学と島津製作所は16日、息で新型コロナウイルスの感染の有無や重症化リスクを判定できる手法を開発したと発表した。患者と接触せずに検体を採取でき、1時間以内の診断も可能だという。自宅で息を集めることも想定しており、早期の実用化を目指す。
 この手法は、息に含まれるウイルス由来の成分を抽出し、島津の分析装置にかけて詳しく調べるというもの。息を集めるのに5分ほどかかるが、患者への負担が少ない。合併症の予測や、複数のウイルスを同時に測定できるなど得られる情報が多いのが特徴だ。成分を抽出する工程も自動化し、医療関係者の感染リスクも防ぐ。
 
 息には、患者の健康状態を示すさまざまな情報が含まれているという。今回のシステムを応用し、生活習慣病やがんの診断に生かすことも目指す。
 東北大学の大野英男総長は「全人類でコロナに立ち向かわなければならない中で、非常に画期的な検査法だ」。島津の上田輝久社長は「世界初の技術だ。早く実用化し、グローバルに展開したい」と話した。
 新型コロナの検査方法は、綿棒でのどや鼻の奥をぬぐって検体を採る手法が一般的だ。島津では医療関係者への感染リスクを抑えるため、つばから感染の有無を調べる方法を実用化している。
 

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レムデシビルは死亡率改善や入院期間短縮に、「ほとんど効果がない」

2020年10月16日 19時09分36秒 | Weblog
レムデシビル「死亡率の改善効果ほぼなし」WHOが発表
(2020年10月16日 14時00分 朝日新聞DEGITAL)
 
 
 新型コロナウイルスの治療薬として日本で特例承認され、米トランプ大統領も使っていた抗ウイルス薬の「レムデシビル」について、世界保健機関(WHO)は15日、「死亡率を改善する効果はほとんどない」という暫定結果を発表した。
 WHOは、既存薬が新型コロナに効くかどうかを試す「連帯治験」という国際協力の枠組みを使って調べた。30カ国の405の病院で計1万1266人の成人が無作為に選ばれ、薬を使う人と、使わない人の死亡率の違いを見た。その結果、レムデシビルについては死亡率改善や入院期間短縮に、「ほとんど効果がない」とした。
 レムデシビルはエボラ出血熱の治療薬を目指して開発され、日本では5月にコロナ初の治療薬として「特例」として認められた。
 
 WHOはこのほか、抗マラリア薬の「ヒドロキシクロロキン」とエイズ治療に使われる「ロピナビル」と「リトナビル」、抗ウイルス薬の「インターフェロン」についても、ほとんど効果が無いか、全く効果がないとした。
 ただし、この結果は暫定的なもので、査読を受けて論文として発表される前のものだ。
 
■NIHは違う見解
 一方で、レムデシビルについては今月8日、米国立保健研究所(NIH)などの研究グループが10カ国での試験にもとづき、患者の回復期間が短くなるという論文を、世界でもっとも権威ある医学誌ニュー・イングランド・ジャーナル・オブ・メディシン(NEJM)に発表した。
 新型コロナにより入院した計1062人に、レムデシビルと偽薬を使って効果を比較した。レムデシビルを使った患者がある程度回復するまでにかかった期間は、中央値で10日であり、偽薬の患者よりも5日短かった。研究グループは「患者の回復期間を短縮する点で優れていることを示せた」と結論づけた。
 ヒドロキシクロロキンについては、WHOと同様、米コロンビア大などの研究グループが、死亡率を改善する効果はないとする論文を8日のNEJMに掲載した。
 この薬をめぐっては、米食品医薬品局(FDA)が「使った患者の一部に心拍の異常がみられる」などとして、3月に出していた緊急使用許可を、6月に撤回した。しかしその後もトランプ大統領は「有効だ」と主張し薬を飲んでいることを公言するなど、波紋を呼んでいた。

 


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新型ウイルスは28日間、「極めてしぶとく」生き残る

2020年10月12日 19時08分32秒 | Weblog

新型ウイルス、紙幣やスマホの表面で28日間生存=豪研究機関
(BBC NEWS 2020・10・12)


 感染症COVID-19を引き起こす新型コロナウイルスが、紙幣や携帯電話などの表面で28日間生存することが、オーストラリアの研究機関の調査で明らかになった。ただし一部の専門家は、物の表面を介した感染リスクを疑問視している。
 オーストラリア連邦科学産業研究機構(CSIRO)の調査によると、紙幣や携帯電話のスクリーン、ステンレススチールなどの表面に付着した新型コロナウイルス(SARS-Cov-2)は28日間生存するという。
 つまり、これまで考えられてきたよりもはるかに長く生存する可能性がある。
 ただ、この実験は暗室で行われたもので、すでに紫外線(UV)でウイルスが死滅することは示されている。
 一部の専門家も、実生活における物体の表面を介した感染の脅威に疑問を投げかけている。

 新型ウイルスは人の咳やくしゃみ、あるいは会話の際の飛沫を介して感染することがほとんどだ。
 しかし、空気中に浮遊する粒子で感染することも証明されている。また、米疾病対策センター(CDC)によると、新型ウイルスが付着した金属やプラスチックなどの表面に触れた手で顔を触ることで感染することもあるものの、可能性は飛沫感染よりもはるかに低い。

■研究で分かったこと
 英医学誌ランセットに以前掲載された実験では、結果にばらつきはあったものの、紙幣やガラスの表面に付着した新型ウイルスは2~3日間、プラスチックやステンレススチールの表面の場合には最長6日間生存することが分かっていた。
 しかし、オープンアクセス科学ジャーナル「Virology Journal」に7日に掲載されたCSIROの研究によると、摂氏20度の暗い場所では、携帯電話のガラススクリーンやプラスチックなどのつるつるした表面に付着した新型ウイルスが28日間、「極めてしぶとく」生き残ることが判明したという。インフルエンザウイルスの場合は、同じ環境下で17日間生存する。
 また、より高温な環境下では生存期間が短くなることも分かった。摂氏40度の場合、一部の物体の表面に付着した新型ウイルスは24時間以内に感染力を失ったという。
 新型ウイルスは布のような多孔質素材では14日程度だったが、つるつるとした非多孔質な物体の表面ではより長く生き延びた。

■意見の相違
 風邪やインフルエンザなどの研究を行う、英ウェールズ・カーディフ大学風邪研究所の元所長、ロン・エクルス教授は今回発表された研究は「不必要に一般の人々の不安」を引き起こす内容だと批判した。
「ウイルスは咳やくしゃみ、汚れた指についた粘液が物体の表面に付着して広がるが、この研究では新型ウイルス媒介手段として人間の新鮮な粘液を使わなかった」
「新鮮な粘液はウイルスにとって不利な環境だ。ウイルスを破壊する酵素を生成する白血球が多く含まれるほか、ウイルスを中和する抗体なども含まれるので」
「私の見解では、感染力のあるウイルスが物の表面で生き延びるのはせいぜい数時間だろう」
 今年7月にランセットに掲載された、米ラトガース大学の微生物学教授エマニュエル・ゴールドマン氏の論文によると、「無生物表面を介して感染する可能性は非常に小さい」という。ゴールドマン教授は、重大な感染リスクを示す研究は、「実生活でのシナリオとはほぼ異なる」設定で行われたものだと指摘した。
 米カリフォルニア大学医学部のモニカ・ガンディー教授は先週、新型ウイルスが物体の表面を介して広まることはないと述べた。

■なぜ研究が重要なのか
 CSIROの最高経営責任者(CEO)、ラリー・マーシャル博士は、「新型ウイルスが物体の表面で実際にどれくらい生存し続けるのかを立証することで、より正確に感染拡大を予測し、軽減できるようになる。人々を守るためのより良い仕事につながる」と述べた。
 研究の著者たちは、新型ウイルスが低温の環境下でステンレススチールの表面で生き延びるということは、食肉加工や冷蔵施設でのCOVID-19の感染流行に説明がつくと指摘した。
 世界各地の食肉加工工場や食肉処理施設では、何千人もの労働者がウイルス検査で陽性と判定されている。
 これまでは感染流行の原因に、従業員が密集していることや、寒さや湿気、機械の騒音のため大声を出さなければならないことなどが挙げられていた。
 CSIROの研究員たちは、新型ウイルスが生鮮食品や冷凍食品の表面で生き延びるとする過去の研究結果を裏付けることにもなるとしている。
 世界保健機関(WHO)は、「現時点では食品あるいは食品の包装を介したCOVID-19への感染は確認されていない」としつつ、2次感染予防のリストに食品包装を取り扱う際の注意点を掲載。包装を触った後や食事の前の適切な手洗いを促している。


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バイオ技術の光と闇

2020年10月08日 20時16分40秒 | Weblog

ノーベル化学賞受賞のヤバすぎるゲノム編集技術「クリスパー」とは何か
2020/10/08(木) 12:31配信 現代ビジネス


 今年のノーベル化学賞は、ゲノム編集技術「クリスパー・キャス9」の基礎研究を行ったジェニファー・ダウドナとエマニュエル・シャルパンティエの両博士に授与された。

 受賞者を発表したスウェーデン王立科学アカデミーのヨラン・ハンソン事務局長は「今年の(化学)賞は生命のコード(遺伝情報)を書き変える技術に関するものです」と紹介したが、まさにゲノム編集クリスパーとは何かを的確に表現した言葉だった。

■農作物の品種改良から難病治療まで多方面に応用

 2012年、カリフォルニア大学バークレイ校のダウドナ教授と(当時)スウェーデンのウメオ大学に在籍していたシャルパンティエ博士らの共同チームが発表した論文は、世界の生命科学者の間で一大センセーションを巻き起こした。

 https://science.sciencemag.org/content/337/6096/816.full

 これは元々、細菌や古細菌のDNA上で発見された「クリスパー(CRISPR)」と呼ばれる特殊な反復配列が、我々人類を頂点とする、地球上のあらゆる生物のDNA(ゲノム)を自在に改変する技術に応用できることを証明する論文だった。

 この技術はやがて「クリスパー・キャス9」と呼ばれるようになり、生命科学やバイオ技術に関する、ほぼ全ての分野に応用されるようになった。

 たとえば農作物の品種改良では「栄養価の高いトマト」「褐変しない白色マッシュルーム」「干ばつに耐えられる小麦」など多数の新品種がゲノム編集によって開発され、その一部は既に米国などで商品化されている。

 また医療への応用では「鎌状赤血球貧血」や「ベータ・サラセミア」など遺伝性の難病がクリスパーによって症状が大幅に改善するなど次々と成果が報告されている。

 いずれは癌や糖尿病のような罹患率の高い病気も、ゲノム編集で根治できる時代が来ると言われ、既にそこに向けた臨床研究も進んでいる。

■中国のゲノム編集ベビーは謎に包まれたまま

 しかし、この驚異的バイオ技術には光と闇の両面がある。もしもクリスパーで人間の受精卵をゲノム編集すれば、いわゆる「デザイナー・ベビー」と呼ばれる超人類が誕生してしまうことが危惧された。

 既に2014年には中国の研究チームが「マカク」と呼ばれる実験用猿の受精卵をゲノム編集し、遺伝子改変された猿の赤ちゃんを誕生させることに成功していた。

 「猿でやれたのなら人間でも……」との懸念が高まる中、2018年11月にはついにゲノム編集された人間の赤ちゃんが同じく中国で誕生し、世界に波紋を広げた。

 深圳・南方科技大学の科学者によって、エイズ感染への抵抗性を持たせるためにゲノム編集されたとする双子の女児は、中国政府がその存在を確認したものの、双子の健康状態等その後の経過は一切伝わってこない。

 相変わらずの中国政府の隠蔽体質によって、ゲノム編集ベビーの真相は謎に包まれたままだ。


■受賞を逃した3人目の科学者とは

 このように劇的な展開が続く中、クリスパー・キャス9のノーベル賞受賞は時間の問題と見られた。

 そしてついに今年、化学賞を受賞したシャルパンティエ、ダウドナの両博士は当初から最有力候補だったが、彼女達と並んで、もう一人、米ブロード研究所のフェン・チャン博士もノーベル賞を受賞すると見られていた。

 チャン博士はシャルパンティエ、ダウドナ両博士らが確立したクリスパーの基礎理論をマウスや人間など生きた動物の細胞に応用し、ゲノム編集技術としてのクリスパー(・キャス9)を開発した立役者だった。

 しかもクリスパー特許の帰属を争う裁判では、今までのところチャン氏らの研究チームはダウドナ/シャルパンティエ陣営よりも圧倒的優位に立っている。

 ノーベル賞は上限3名に与えられる以上、チャン博士も受賞者リストに名を連ねておかしくないが、今回、彼が外された理由も謎である。

 しかしクリスパー技術の発明には、このチャン博士だけでなく、デンマークの食品メーカー「ダニスコ」に所属する微生物学者Rodolphe Barrangou氏をはじめ多数の科学者が貢献している。

 その中には1986年にクリスパーの反復配列を世界で最初に発見した石野良純、中田篤男・両博士らの研究チームも含まれる。

 数多の科学者の中で、世界的な栄光に浴するのは、ほんの一握りの幸運な人たちだけだ。しかし、これらの科学者が協力して編み出したゲノム編集技術クリスパーは今後、全人類に奇跡を巻き起こすかもしれない。


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日本の石野博士らが大腸菌で初めて見つけた不思議な回文構造が出発点

2020年10月08日 19時47分03秒 | Weblog

CRISPR/Cas9の発明に2020年ノーベル化学賞

(日本の科学と技術より)

 

 2020年10月7日のノーベル財団の発表によりますと、2020年のノーベル化学賞が、Jennifer A. Doudna(ジェニファー・ダウドナ)、 Emmanuel Charpentier(エマニュエル・シャルパンティエ)の両氏に与えられることになりました。

■祝☆ノーベル化学賞2020

 ノーベル賞の枠は3人。CRISPR/Cas9の有用性は直ちに認識されて熾烈な特許戦争が勃発していたわけですが、Jennifer A. Doudna(ジェニファー・ダウドナ)、 Emmanuel Charpentier(エマニュエル・シャルパンティエ)の二人がノーベル賞3人枠の中に入ることは、誰の目にも明らかでした。ノーベル賞をもらって当然と言われてきましたが、それでも、実際に本当に授賞が決まるとこれほど嬉しいものなんだなあとこの映像を見ていて思いました。

 別にノーベル賞をもらうために研究をするわけではありませんが、研究が正当に認めらることは研究者にとって非常に大事な部分なのだと思います。

 ゲノム編集技術の革命的なツールであるCRISPR/Cas9(クリスパー・キャスナイン)ですが、もとはといえば、自然界においてバクテリアがウイルスから身を守るために備えているシステムです。

 2012年にこれがゲノム編集のツールとして利用できることが示され、わずか数年の間に、この技術を使わないラボがあるのか? というくらいにまで、研究の世界の隅々にまで浸透しました。

■CRISPRの発見と応用技術の進展のタイムライン

 CRISPR/Casが働く仕組みの解明には多くの研究者が関与しており、メジャーな発見だけでも論文が多数になるため、時系列にまとめたサイトを紹介しておきます。

■CRISPRの発見

 大阪大学微生物病研究所の研究グループが奇妙な繰り返し配列を大腸菌のゲノムで見つけ、石野 良純(いしの よしずみ)博士らが1987年に論文報告をしたのが、CRISPRが見出された最初の例です。この配列は、後の研究者によって、CRISPR、Clustered Regularly Interspaced Short Palindromic Repeatsと名付けられることになります。

 石野博士らは、大腸菌(E. coli)のiap遺伝子の構造を調べた際に、iap遺伝子の近傍に不思議な配列があることを見出しました。29塩基からなる共通配列が、32塩基からなるスペーサー配列を挟むようにして、5回繰り返し配置されていたのです。この共通配列の内部はパリンドーム(回文構造)になっていました。

 この論文では、「現在のところ、今回見つかった配列と相同性を示す配列は他の原核生物では見つかっていない。また、この配列の生物学的な意義は不明である(So far, no sequence homologous to these has been found elsewhere in procaryotes, and the biological significance of these sequences is not known)」と述べています。

 石野博士らが大腸菌で初めて見つけたこの不思議な構造が、実は他の細菌(Bacteria)や古細菌(Archaea)にも存在していることが、他の研究者らによって徐々に明らかにされていき、Mojicaらが、DNA配列のこの特徴的な構造が実は原核生物のゲノムにおいては広く一般的に存在しているのだということを2000年に報告しました。

 この論文で、Mojicaらはこの不思議な配列をShort Regularly Spaced Repeats (SRSRs)と名づけましたが、定着しませんでした。また、論文の結論は、多くの原核生物で見出されたのだから何か共通する機能があるのではないかという問題提起にとどまっています。

■Cas遺伝子の発見

 CRISPRという繰り返し配列が原核生物のゲノム中に広く存在することはわかりましたが、その配列の意味するところはいっこうにわからないままでした。

 このミステリーを解き明かす手がかりを与えたのが、Jensenらによる、CRISPR近傍に存在する遺伝子群の発見です。

 Cas遺伝子(Cas1, Cas2, Cas3, Cas4)を報告したこの論文では、奇妙な繰り返し配列をCRISPRと名付けており、この呼称が定着しています。

 Cas遺伝子がヘリカーゼやエクソヌクレアーゼといったDNAの代謝に関わる酵素のモチーフを持っていたことから、この論文では、この謎の繰り返し配列を作るのにこれらのCasタンパク質が関与しているのではないかと、正しく推測していました。

■CRISPRスペーサー配列の正体

 繰り返し配列の間に挟みこまれた配列の起源があいかわらず謎でしたが、ほどなくして、これがファージの配列だということがわかってきました。その結果、CRISPRはバクテリアが外敵であるファージから身を守るための仕組みなのではないかという推測がなされました。

■CRISPR-Casシステムの作用機序と生物学的な意味の解明

 CRISPRの配列の中の、スペーサー配列の正体がファージなど外来ゲノム断片であることがわかり、CRISPR-Casシステムはいわばバクテリアにとっての免疫システムだと予想され、実際にそのように働くことが実証されました。

■CRISPRの遺伝子編集技術への応用

 バクテリアなどの原核生物が持っているCRISPR/Casシステムにおいて、標的DNA配列を特異的に認識され、標的DNAが正確に切断されることがわかると、ゲノム編集ツールとしての有用性が直ちに認識されました。Casタンパク質のグループには、複合体を作って働くものや、ひとつで全ての役割を備えたものなど種類があります。

 Cas9は一人で全ての役割をこなす巨大なタンパク質で、これとガイドRNA(クリスパーRNA(標的配列)とトレーサーRNAを、人工的に一本鎖にまとめたもの)の2つのプレーヤーだけでゲノム編集ができてしまうという驚くべき簡便さが、応用の広さを生み出しました

 George Church博士やFeng Zhang博士の研究グループにより、CRISPR/Cas9システムが真核生物においても働くことが示され、ゲノム編集ツールとして人間を含めた全ての真核生物に応用する道が開かれました。

 ちなみに、フェン・ジャン(Feng Zhang)博士は、大学院時代にスタンフォード大学のカール・ダイセロス博士のラボでオプトジェネティクスに関する仕事をしています。

■CRISPRの発見者は誰?

 CRISPRという自然現象の謎解きには多くの研究者が関わっています。また、CRISPR/Cas9を有効なゲノム編集技術のツールにするための技術開発も複数の研究グループが熾烈な競争を繰り広げています。そのため、誰がCRISPRの発見者なのか、誰が一番大きな貢献をしたといえるのかについては、見解が分かれるかもしれません。2017年度のJapan Prize(日本国際賞)は、「生命科学分野」ではエマニュエル・シャルパンティエ博士とジェニファー・ダウドナ博士の両氏が受賞しています。

 シャルパンティエ博士とダウドナ博士は、「生命科学」分野において「CRISPR-Casによるゲノム編集機構の解明」という顕著な功績をあげたことが受賞理由となりました。

 両氏によって発表されたCRISPR-Casシステムによるゲノム編集は、遺伝子工学において従来方法と比べてはるかに安価で時間をとらず、圧倒的に容易な革命的な新技術です。

 どんな生物においても目的とするDNAを任意の部位で切断し、削除、置換、挿入など自在な編集を可能にしました。

 本技術は生命科学研究のツールとして爆発的に広がっただけでなく、育種、創薬、医療など幅広い分野で応用研究が進んでいます。

 また、2018年度カブリ賞ナノサイエンス分野では、エマニュエル・シャルパンティエ博士、ジェニファー・ダウドナ博士、および、リトアニアのヴィルギニユス・シクスニス (Virginijus Šikšnys)博士の3人が受賞しました。

■ゲノム編集技術CRISPR/Cas9の特許をめぐる熾烈な争い

 特許に関しては、フェン・ジャン(Feng Zhang)博士ら(ブロード・インスティチュート)の陣営と、ジェニファー・ダウドナ博士(カリフォルニア大学バークレー校)らの陣営との間で熾烈な訴訟合戦が繰り広げられており、アメリカでの裁定とヨーロッパでの裁定が異なるなど、混沌とした印象があります。

■遺伝子編集技術CRISPR-Casシステムの技術的な問題点

1.ゲノム遺伝子の欠失には非常に効率の良い方法ではあるが、塩基置換や挿入の効率はまだ十分ではなく、目的の変異の導入には多くの受精卵または胚が必要である。

2.現在使用されているガイドRNAが認識するDNA配列は20塩基であるため、特異性はそれほど高くなく、目的としないゲノム配列にも変異が導入される可能性は否定できない。

■遺伝子編集技術CRISPR-Casシステムの社会的な問題点

 動物や植物の品種改良技術として使われる可能性が高い。その場合に、原理的には自然突然変異と区別がつかないが、遺伝子組換え食品として扱わないかは、合意が得られていない。

 

 


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クリスパー・キャス9

2020年10月08日 19時22分09秒 | Weblog

たった2つの因子だけで、ゲノム上の特定の狙った場所を「正確に」切断するという技術

(ロックフェラー大教授Hironori FunabikiさんのTwitterより)

 

 今年のノーベル化学賞は、CRISPR-Cas(クリスパー・キャス)システムによるゲノム編集という革命的技術へ特筆すべき貢献をされたEmmanuelle Charpentier(エマニュエル・シャルパンティエ)さんとJennifer Doudna(ジェニファー・ダウドナ)さんに与えられた。このノーベル賞級の発明・発見に貢献した研究者は多く、どの「3人が?」というのが注目されていた。

 結果的に、化学賞が、この「2人」に与えられたというのは意外であったが、ノーベル委員会を代表してClaes Gustafssonさんが受賞理由を解説した文章には、その理由が明確に述べられている。

 源流は、1987年、大腸菌で石野良純(現・九大教授)さんが、後にCRISPR(クリスパー)と名づけられる繰り返し配列を発見したことに始まる。しかし、これはいわば物としての「一つの鍵」の発見であり、何かに利用できる「鍵」であることすら想像されていなかった。

 その後、様々な基礎研究が、このCRISPRという繰り返し配列と、その上流にあるもう一つの鍵であるcas(キャス)遺伝子が、原核生物がウイルスなど外来DNA感染の防御のための免疫システムであること明らかにしていった。弊学のLuciano Marraffiniさんは、CRISPR-CasがターゲットがDNAであることを示した。

 このMarraffiniさんの2008年の論文では、CRISPRシステムが、原核生物以外で機能できた場合の応用面での可能性を指摘している。

 では、ノーベル委員会が、CRISPR-casシステムを原核生物で「発見」した研究者ではなく、CharpentierさんとDoudnaさんが受賞に特筆すべき貢献をした評価したポイントはどこだったのか?

 Charpentierさんは、それまで重要とされていたCRISPRから転写されるcrRNA、Casタンパク質に加え、2011年、Cas-CRISPR遺伝子群の上流に重要な三つ目の「鍵」が隠されていたことを発見した。

 その鍵とは、CRISPRとハイブリッド形成できる trans-encoded small RNA (tracrRNA)と呼ばれるRNAだった。2012年、CharpentierさんはDoudnaさんとの共同研究を通じ、trancrRNAとcrRNAとCas9タンパク質の3つの因子だけで、特定のターゲットであるDNAを切断できることを示した。

 しかも、tracrRNAとcrRNAを人為的に融合するキメラ・single-guide RNA(sgRNA)を作成することにより、sgRNAとCas9という、たった二つの組み合わせで狙った配列を持つDNAを切断する活性を再構成することに成功した。

 実は同年2012年、リトアニアの(ヴィルギニュス・シスクニス)さんも、Cas9とcrRNAでのDNA切断活性を発表しているが、このノーベル委員会の解説では、この研究ではtracrRNAの存在を見逃していたとのコメントを記述している。

 たった2つの因子だけで、ゲノム上の特定の狙った場所を「正確に」切断するという技術は、まさに夢のような技術であり、その後、Feng Zhang(フェン・チャン=Broad Insttute)さんら多数の研究者が、ヒト細胞など様々な生物システムで、より正確で効率よくゲノム編集できる技術を開発していった。

 以上のように、CRISPR-Casシステムの発見という地道な基礎研究の部分での受賞者がいないのは若干残念であるが、化学賞という枠組みの中では、この文章による二人の受賞理由がうまく説明されているのではないかと思う。お二人の受賞を心から祝福したい。


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「CRISPR-Cas9」(クリスパー・キャスナイン)と呼ばれる「ゲノム編集」技術は画期的

2020年10月08日 17時45分59秒 | Weblog

ノーベル化学賞に欧米の研究者2人「ゲノム編集」新手法開発

(2020年10月7日 20時14分 NHK NEWSWEB)

 

 ことしのノーベル化学賞に、生物の遺伝情報を自在に書き換えることができる「ゲノム編集」の新たな手法を開発したドイツの研究機関とアメリカの大学の研究者2人が選ばれました。

 スウェーデンのストックホルムにある王立科学アカデミーは、日本時間の7日午後7時前、ことしのノーベル化学賞の受賞者を発表しました。

 受賞が決まったのは、フランス出身でドイツのマックス・プランク感染生物学研究所のエマニュエル・シャルパンティエ所長と、アメリカ出身でカリフォルニア大学バークレー校のジェニファー・ダウドナ教授の2人です。

 2人は「細菌」の免疫の仕組みを利用して、ゲノムと呼ばれる生物の遺伝情報の狙った部分を極めて正確に切断したり、切断したところに別の遺伝情報を組み入れたりすることができる、「CRISPR-Cas9」(クリスパー・キャスナイン)と呼ばれる「ゲノム編集」の画期的な手法を開発したことが評価されました。

「CRISPR-Cas9」は、それまであった「ゲノム編集」の方法に比べて簡単で効率がよく、より自在に遺伝情報を書き換えることができることから、すでに作物の品種改良などのほか、がんの新しい治療法の開発や新型コロナウイルスの研究に用いられています。

 一方で、7日の発表の中で王立科学アカデミーは、この技術は人類に大きな恩恵をもたらしうるものの、胎児の遺伝情報の書き換えにも用いることができることから、「人類は新たな倫理的な課題に直面することになる」として、ヒトや動物で実験を行う場合は倫理委員会に諮り、承認を受けなければならないとしています。

■シャルパンティエ氏 “科学の道を歩もうとする女性たちに”

 ノーベル化学賞の受賞が決まったエマニュエル・シャルパンティエ所長は報道陣の電話インタビューに「受賞を知らせる電話をけさ受けて、喜びがこみ上げてきました。この研究に専念することを2008年に決めてからは、朝の3時に帰宅して数時間だけ寝たあと、すぐに研究室に戻るような生活でした。2012年に論文を発表してから受賞までは、とても早かったです」と振り返りました。

 ノーベル賞のホームページによりますと、2人は化学賞では女性として6人目と7人目の受賞者です。

 シャルパンティエ所長は「私たちに続いて科学の道を歩もうとする若い女性たちにとって、今回の受賞が前向きなメッセージになることを願っています」と話していました。

■ダウドナ教授 「人類に恩恵を与えられるような良いことに」

 ノーベル化学賞の受賞が決まったジェニファー・ダウドナ教授は、AP通信のインタビューに応じ、「ストックホルムにある王立科学アカデミーから早朝に電話を受けて本当に驚きました。私の一番の望みは、研究の成果が、生物学の新たな神秘を解き明かし、人類に恩恵を与えられるような良いことに使われることです」と話していました。

■「CRISPRーCas9」とは

「CRISPRーCas9」とは生物の遺伝情報であるゲノムを編集する手法の1つで、世界の多くの研究者に使われています。

「CRISPR」はある特定のDNA配列のことです。「Cas9」はDNAを切断する酵素です。このゲノム編集では「CRISPR」をもとに切断したい部分にとりつくいわば目印となる配列を作ります。この目印となる配列をめがけて、「Cas9」が到達し、DNAを切断します。

 これまでにもゲノム編集の技術はありましたが、「CRISPRーCas9」によって、正確かつ簡単にねらった部分を切ったり、別の遺伝子を入れたりすることが可能になり、多くの分野で使われるようになったほか、研究のスピードが劇的に速くなったとされています。

 この分野に詳しい科学技術振興機構の安達澄子主査は、「ほかの手法は、狙った配列にむけて、正確に酵素が取り付くことが難しかったが、クリスパーを応用することでそれが可能になった。また、この手法によってより多くの研究者が自在にゲノム編集を行うことができるようになったのもポイントで農業や医療などへの応用が一気に進んだ」と話しています。

■受賞対象の手法 日本人研究者の発見がもとに

 ノーベル化学賞の受賞対象になったゲノム編集の手法、「CRISPR-Cas9」は、日本人研究者が1980年代に大腸菌で見つけたDNAの塩基配列がもとになっています。

 大阪大学名誉教授の中田篤男さん(90)と九州大学教授の石野良純さん(63)のグループは、大阪大学で研究を行っていた時、大腸菌のDNAで同じ配列が5回繰り返されているのを見つけ、1987年に論文として発表しました。

 当時は繰り返し現れる配列が何を意味するのか分かっていませんでしたが、その後、この論文をもとにヨーロッパの研究者が、この配列が外から侵入するウイルスなどの「外敵」を認識して攻撃する免疫の仕組みに関わっていることを突き止めました。

 大腸菌では、繰り返される配列の間に外敵の遺伝子が組み込まれることで、外敵を認識して攻撃します。

 この仕組みを応用して、繰り返される配列の間に目的とする遺伝子を組み込むと、遺伝子を切り貼りするはさみの役割をしている物質を狙った場所に届けることができるようになりました。

 この技術で狙ったとおりに遺伝子を切断したり挿入したりすることができるようになり、簡便で精度が極めて高いゲノム編集の方法として確立しています。

 遺伝情報を簡単に、自在に書き換えられる「CRISPR-Cas9」は、日本の研究者による塩基配列の発見がもとになって開発につながったのです。

 今回のノーベル化学賞の受賞者に選ばれたドイツの研究機関とアメリカの大学の研究者の論文の中でも、中田さんと石野さんのグループの論文が引用論文として紹介されています。

■新型コロナウイルスの研究でも

 この技術は、新型コロナウイルスの研究にすでに用いられています。

 中国では、マウスに感染するウイルスの遺伝情報を「CRISPR-Cas9」で書き換えて、感染の仕組みや、体への影響を調べる研究が行われています。

 また、アメリカのマサチューセッツ工科大学などの研究グループは、この技術を応用してウイルスの遺伝子を簡単に検出する検査キットを開発し、キットはことし5月、FDA=アメリカ食品医薬品局の緊急の許可を得て、研究用として使われています。

 このキットは、唾液や鼻の奥から採取した体液を温めたあと、特殊な試験紙を浸すことでウイルスの遺伝子があるかどうかを20分程度で判定できるとされていて、PCR検査に比べて費用も抑えられることから、大量に検査を行うことができるとしています。

 このほか複数の企業が、この技術を応用した検査方法の実用化を目指しています。

 今回、ノーベル化学賞の受賞が決まったカリフォルニア大学バークレー校の、ジェニファー・ダウドナ氏は先月、アメリカメディアのインタビューに対し、この技術を用いた検査や薬の開発は新型コロナウイルスだけでなく、ほかのウイルスなどで世界的な大流行が起きた際にも重要な役割を果たすと述べています。

■医療面でも応用期待

「CRISPR-Cas9」の手法を使ったゲノム編集は、患者の治療など医療面でも応用が期待されています。

 治療が難しいがんや遺伝性の病気などについて、病気の原因となる遺伝子を操作することで、治療できるのではないかと期待されていて、アメリカではことし2月、がん患者から取り出した免疫細胞にゲノム編集を行い、免疫の働きを抑える遺伝子を取り除いて、がんの治療効果を確かめる臨床試験が行われたと発表されました。

 一方で、ヒトの遺伝子をゲノム編集で自在に書き変えてしまうことには、たとえば、目の色や高い知能など、親が望む特徴を持つよう改変する「デザイナーベビー」を生み出すことにもつながりかねないなど、倫理的な問題が指摘されています。

 おととしには中国の研究者が「CRISPR-Cas9」の手法でエイズウイルスに感染しないよう受精卵の遺伝子を操作して実際に女の子の双子が誕生したことを発表し、世界中に衝撃が走りました。

 現在のところ、ゲノム編集では、狙った場所以外の遺伝子を改変してしまう可能性が排除できないほか、遺伝子を操作して悪影響が出た場合、子の代、孫の代と、世代を超えて引き継がれる可能性もあり、この技術をどう生かしていくのか、遺伝子の改変はどこまで認められるか、国際的な議論が続けられています。

■農水産物の品種改良にも

「CRISPR-Cas9」によるゲノム編集は、世界各国で農水産物の品種改良に使われるようになっています。

 これまで農水産物を品種改良して病虫害に強くしたり、味をよくしたりするためには突然変異で現れるのを待つか、品質のよいものを掛け合わせ、繁殖させるなどする必要があり、長い時間がかかっていました。

 これに対して、「CRISPR-Cas9」の手法によるゲノム編集では狙った遺伝子を非常に高い精度で操作することができるため、これまでにないスピードで行うことができます。

 アメリカでは、ゲノム編集を行って、コレステロールの値を下げる成分を多く含む大豆から搾り取られた食用油が販売されています。

 日本国内でも収穫量が多くなるよう品種改良したイネ、それに身の量が多いタイなどが開発されていて、去年10月からはゲノム編集を行った食品の流通が解禁されました。

 血圧を下げるとされる成分を多く含んだトマトを開発した企業などが販売のための手続きを進めていて近い将来、こうした食品の流通が始まると見られています。

■研究者の間で激しい特許争い

「CRISPR-Cas9」の技術は、農業や医療などさまざまな分野で応用され、利用する企業からの特許料も巨額になると見込まれることから、開発に関わった研究者の間で激しい特許争いが繰り広げられています。

 特許争いは、技術の基本的な仕組みを開発したアメリカ・カリフォルニア大学などのジェニファー・ダウドナ教授らと、動物やヒトの細胞に応用できることを最初に証明したアメリカ・マサチューセッツ州にあるブロード研究所のフェン・チャン博士らの間で裁判になってきました。

「CRISPR-Cas9」を動植物の細胞に応用することの特許をめぐって、おととし9月、アメリカの連邦控訴裁判所は、ブロード研究所側に特許があるという判断を示していますが、去年になってアメリカでカリフォルニア大学側がブロード研究所側の特許の取り消しを求める裁判を新たに起こし、特許争いはまだ決着が付いていません。


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入院してCOVID-19について大いに学習した(?)

2020年10月06日 07時06分40秒 | Weblog

入院2日目のトランプ大統領 隔離義務を無視して外出

(ミクスOnline  2020/10/06 04:51)

 

 入院しても、トランプ大統領のつぶやき(Tweet)は止まらない。入院2日目の10月4日(日)午後2時すぎ、大統領は、前日に続き「医療チームの素晴らしいケアに感謝している」で始まるビデオメッセージをツイッターに流し、「入院してCOVID-19について大いに学習した。机上では理解できないことも多く学んだので、これを国民の皆さんと分かち合いたい!」と意気軒昂に語り、さらに「病院の周囲で長時間心配してくれている愛国者・支援者の皆さんたちをちょっと驚かせたい!」と、前日よりもしっかりしたハリのある声で語った。

https://twitter.com/realDonaldTrump/status/1312864232711520257?ref_src=twsrc%5Etfw%7Ctwcamp%5Etweetembed%7Ctwterm%5E1312864232711520257%7Ctwgr%5Eshare_3&ref_url=https%3A%2F%2Fwww.cbsnews.com%2Flive-updates%2Fpresident-trump-covid-19-positive-test-latest-news-2020-10-04%2F

 大統領の「サプライズ」発言(支援者の皆さんたちをちょっと驚かせたい!)の意図するところがわかったのは同日午後5時すぎ。文字通り、誰もが仰天したことには、トランプ大統領が、ドライバーの他にシークレットサービス2人を同乗させた大統領専用車に乗って病院の外に姿を現わし、病院を取り巻く支援者に車内から手を振りながらゆっくりと周回して病院に戻ったのである。当然ながら、あらゆるメディアが一斉にこれを報じた。

https://www.cnn.com/2020/10/04/politics/donald-trump-coronavirus-alternate-reality/index.html

 テロ対策に防弾ガラスでシールドされている大統領専用車には、もちろん生物化学兵器対策のシールドも施されているから、走行中は車内の空気は換気されずに循環する。つまり、今日の大統領専用車には、単に感染が確認されただけでなく明らかに発症している(つまり他者を感染させるリスクのきわめて高い)大統領のCOVID19ウィルスが循環したのであり、同乗者はこのウィルスに濃厚接触したことが明らか。CDCにより今後14日間は隔離・観察が義務付けられるはずである。

 が、そもそもの問題は、すでに感染・発症が明らかで隔離・療養(症状が消えてから最低14日間)していなければならないはずの大統領が勝手に外出したことにある。

 あらゆるメディアは、病院から出て車内から手を振る大統領のビデオ映像とともに、医師はもとより各方面の有識者の「大統領としてあるまじき行為」との批判のコメントをくりかえし報じている。批判の焦点は、言うまでもなく、国民の範たるべき大統領が、そもそも自身の隔離・療養義務(米国民すべてに課されている)を無視したこと、くわえて職務命令によってスタッフに感染リスク(極論すればCOVID19で死亡するかもしれないリスクを)を強制的に負わせたことである。いずれの責任も重大だ。

 メディアの反応は厳しい。たとえばCNNの解説者は「大統領の発病は大変お気の毒ですが・・・」ときわめて慇懃に前置きしつつ「国民ももちろん同情しています。しかし、同時に、国民は怒ってもいます」と語り、大統領選挙の資金調達のために最近開かれた共和党グループの会合では参加者の誰1人もマスクをしていなかったこと、出席者の1人であった知事が他の参加者を抱擁して挨拶したこと(この知事はのちに感染)等すでに映像をもって報じられている幾多の事実に言及し、半年以上まじめに感染防止の努力を続けてきた国民を馬鹿にしているのか?と批判。さらに厳しい隔離政策のために感染した家族に別れを告げることも許されないまま亡くしてしまった悲痛な経験をもつ国民がいること、長引くビジネスのシャットダウンと不況で倒産を余儀なくされ、あるいは失業した多数の国民がいることを大統領はどう考えているのか?と糾弾するコメントをだしている。(医療ジャーナリスト 西村由美子)

https://www.cnn.com/2020/10/04/politics/donald-trump-coronavirus-alternate-reality/index.html

 

 


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重症説が流れたことを知ったトランプ大統領は、

2020年10月05日 05時59分45秒 | Weblog

トランプ大統領COVID19感染の波紋

(2020/10/05 04:51 ミクスOnline)

 大統領選挙を1ヶ月後に控えた10月3日、トランプ大統領がCOVID19に感染。要請であったとの検査結果を公表し、そのままヘリコプターでWalter Reed Military Medical Centerに入院した。

 入院翌日の4日(土)朝、大統領の医療チームが揃って白衣にマスク着用でピシリと隊列を整えて記者会見し、代表して海軍司令官Dr.Conlayが「大統領の体調は安定しており、直近の24時間は発熱もない」と報告。しかし、にこやかながら、記者から質問されても病状の詳細についてはいっさい語らずに終始した。

https://www.cnn.com/2020/10/03/politics/white-house-sean-conley-trump-coronavirus/index.html 

 ところが、その会見の直後に、ホワイトハウス首席補佐官のMark Meadowsが記者に対し、ニュースソースとして彼の名前は明かさないでほしいと念を押した上で「直近24時間の大統領のバイタルはきわめて憂慮すべき状況にあった。回復の見通しは明らかではなく、今後48時間の治療がきわめて重要」と語り、メディアがこれを「大統領の病状を良く知る人物からの情報」として報道したことから、国民は疑心暗鬼に。

 重症説が流れたことを知ったトランプ大統領は、同4日午後、国民に直接語りかけるスタイルの4分間のビデオメッセージをツイート。各メディアがこれを一斉に報じた。

https://www.cnn.com/videos/politics/2020/10/03/trump-releases-twitter-video-hospital-gupta-tsr-vpx.cnn 

 トランプ大統領は、メッセージの冒頭でまず医療チームに感謝の意を表明した後で「一時は体調が悪かったが」と暗に補佐官の発言を認め、しかし「今日はずっと気分もよく安定している」と述べ、「今後数日は療養しなければならないが、必ず(病気を)打ち負かして、大統領の職務にも選挙キャンペーンにもすぐに復帰する」と語った。

 ノーネクタイながらスーツ着用で米国旗を背にきちんとデスクに座ってビデオに登場した大統領であったが、声が幾分弱く、表情も柔らかく、ふだんの過剰なまでに攻撃的な雰囲気はなかった。

 大統領選最中に候補者が隔離を必要とする感染症に罹患するなど、歴史上前例のない事態であるが、それ以上に大統領の健康は国家安全保障上の重大問題である。トランプ大統領はまだ権限の移譲はいっさい行っていないが、万一の際に任務を引き継ぐのはMike Pence副大統領であり、その次はNancy Pelosi下院議長である。両人ともに現在のところ感染はない。(医療ジャーナリスト 西村由美子)

 

 


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