ビタミンP

苦心惨憺して書いている作品を少しでも褒めてもらうと、急に元気づく。それをトーマス・マンはビタミンPと呼んだ。

『細菌戦部隊という非人間的なテーマ・・・

2007年01月06日 16時45分57秒 | Weblog
・・・を追いかけるなかで、そのおぞましさに反して不思議なほど誠実さと人間味あふれる方たちにお目にかかれて嬉しかった』
 戦前の大東亜戦争中の関東軍731部隊を率いた石井四郎の生涯を追った『731』(新潮社)の「あとがき」で著者・青木冨美子は語っている。
 この本を手に取ったのは高田馬場の書店だったが、それは、著者の青木冨美子という名前に惹かれてだった。
 もう随分昔になるが、ベトナムで散ったカメラマン沢田教一を追った『ライカでグッドバイ』(文芸春秋)をむさぼり読んだ記憶がある。その著者が今はニューヨークに住み、フリーランスのジャーナリストとして活躍してきたことも、そのときに知った。
 昨年の秋にNHKが幾つかの『満蒙開拓団』の現実を探った番組をBSで放送しており、その中で、国民を守るはずの軍の高級将校と家族など軍属だけが、開拓団を置いてきぼりに我先にと逃げ帰った事実を伝えていたが、この中でも、同じような現実が触れられていて、興味をひかれた。
「私服とせよ」という命令を出して、関東軍は軍服を脱いで、私服で逃げるように指令を受けたことが指摘されている。
 それはともかく、ペスト菌や炭素菌の情報をマッカーサーに売り渡すことで誰ひとりとして戦犯に問われなかった731部隊の生き残り軍医たちがその後、エイズ過を引き起こすミドリ十字の中でどのように生きたのか? その後について、もう少し詳細に伝えてもらいたかった、というのが読後感である。

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『嗚呼、もし――と考えずにはいられない・・・

2007年01月05日 12時10分31秒 | Weblog
スターリンの父親が息子をあれ程ひどく虐待しなければ、おそらく二千万人もの人々は殺されずに済んだのである』
 600万人のユダヤ人殺害を強行したヒトラー、その数倍にものぼる2000万人以上(推定)を殺害したとされるスターリン、そして、毛沢東、金日成、ポル・ポト、フランコ、ミロソビッチ、フセインなど、君主制にも増して不条理で不自由な独裁体制を敷いた独裁者を誰が生んだか?
 元NHKディレクターでノーベル賞学者である利根川進夫人である吉成真由美がNHKテレビにインタビュアーとして出ているのも見たのに刺激されて、正月休みに氏の著作『危険な脳はこうして作られる』(新潮選書)を読み返した。
 人間の脳がどうかしてしてしまったのだろうか? 2007年が明けても、ニュースにはろくな事が報じられない。“まじめで大人しく、礼儀正しい”普通の兄が妹を殺して切り刻む。そして繰り返される同じ嘆き・・・。
「なぜこの子だけが突然変わってしまったのか、まったく理解に苦しむ」
 そのあとには、決まって両親の育て方やしつけ、学校や先生、社会の対応が問題と指摘される。
 吉成氏はその著書の中で、酒鬼薔薇事件以来の非論理的な殺人について、脳の不調による殺人として、脳の病気の観点から取り組まないと、これはどうしようもないと指摘している。
 特にかつて精神分裂病と言われたスキゾフレニア患者が日本でも少なく見積もっても100万人にのぼっており、その患者の50%近くが両親に同じ患者を持っているという指摘には考えさせられた。人間は皆平等に正常であり、親のしつけや先生の教育がよければ、よい子に育つものなのだろうか?


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