元祖・東京きっぷる堂 (gooブログ版)

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「線香花火」:kipple

2011-09-01 01:56:00 | kipple小説

線香花火


昭和十九年の十一月の中頃から空襲が酷くなってきましたので、ボクのうちはお母さんの実家のある長野県のあららき村というところへ疎開する事になりました。

ボクのうちは東京の武蔵野市にあったのですが、米軍が近くの中島飛行場を狙って攻撃しているので危ないから、という事でした。

ボクはグラマンの機銃掃射を避けるのも、空のずっと高いところを飛んでるB29の爆弾を避けるのも得意でしたので、ちょっと残念でした。

コツがあるんです。グラマンの操縦士はたいていバカだから銃弾の道筋がすぐに読めるんです。横跳びでひらりとかわせば簡単なのです。

操縦士は本当に鬼畜米兵で、何度も目があいました。彼らはたいてい狂ってました。大口を開けて、ゲラゲラ笑いながら撃ってくるんです。

何度も、ボクの事を撃ち殺し損なって、低空飛行しながら操縦席でゲラゲラ笑ってこっちを見ている鬼畜米兵に、“あっかんべぇ~!”をしてやりました。

B29の場合は間が肝心なんです。B29は空の高いところから爆弾を落としますので、地面に落ちるまでけっこう間があるんです。

その間を読むんです。落下してくる爆弾を見てるとだいたい落ちる場所が分かりますので、分かったら思いっきり走って逃げるのです。慣れてくるとB29が落とした瞬間に完璧に落ちる場所がわかっちゃうんです。

そういう毎日がボクは楽しくて楽しくて大好きだったので、疎開すると聞いた時、残念に思ったわけです。

結局、十二月になってからボクのうちはお母さんの実家に疎開したのですが、途中の汽車の中で、ボクはなんだかおかしくなりました。

最初、ボクはトンネルのせいだと思いました。

汽車がトンネルに入って、窓から黒い煙が入ってきて煤をいっぱい吸い込んじゃったので、そのせいだと思いました。

みんな、すぐに窓を閉めましたが、ボクはたっぷり煤を浴びちゃって飲み込んじゃって、随分気持ちが悪くなったのです。

汽車がトンネルを抜けると、おとうさんとおかあさんと妹はボクの煤のついた顔を見て、へのへのもへじみたいだとお腹を抱えて大笑いしてましたが、ボクは身体中がどろどろと溶けるような変な気分になって、ぐっすり寝込んでしまいました。


目が覚めた時は、もうあららき村のおかあさんの実家についておりまして、ボクは厚い布団の中におりました。

夜になっておりました。

おかあさんの実家は昔、庄屋でもっと立派だったとおばあさんは言いますけど、今でも入り口には大きな門があって、他のあららき村の人の家より、ずっと広くて大きいです。

ボクが布団から出て、いい匂いのする綺麗な畳の上を歩いて襖を開けると廊下に座敷わらしのアキちゃんがにんまり笑って待ってました。

“久しぶり!もう来ないんじゃないかって心配してたんだ!でも、よかった、又、会えて。又、いっぱい遊ぼうね!”
とアキちゃん。

ボクは、今までに二度、ここに来たことがあり、そのたんびにアキちゃんや近所の子供たちと思いっきり遊びまわっていたのだけれども、今度は何だか身体の調子が悪いようなので、あまり遊べないかなぁと顔を曇らせていると。

“どうしたの?そういえばちょっと元気ないみたいだねぇ。大丈夫?”
とアキちゃん。

ボクはここに来る途中、トンネルの中で汽車の煤を吸いこんでから、気分が悪くなって、それからずっと、眠ってたんだよ、気が付くとここにいて、起きて障子を開けるとアキちゃんがいたんだ、それで今も何だか気分が悪いんだ、と広間に向かって廊下を歩きながらアキちゃんに説明しました。

すると、アキちゃんはボクの身体に抱き着いてきて、ボクの頭に頭をくっつけて神妙な顔をしました。

“どれどれ?う~ん・・・”
と言いながら、アキちゃんはアキちゃんの頭で、ボクの頭をごりごりやるので可笑しくなって、プッ!と吹きだしてしまったのですが、アキちゃんは何だかきょとんとした顔つきになり、ボクから身体を離すとこう言いました。

“ねぇ、眠り時計のカチカチがおかしくなってるよ。これはまずいかもしれない・・・”



(・・・妄想完結済: ↓ 以下、この後の展開)

広間で駅から、あららき村に来るまでの木炭バスや薪バスの話。

気分が悪いので医者が往診。病院で精密検査を受けるように言われる。

病院で「昼寝カリエス」と診断され、あららき山の隔離病棟に。

「昼寝カリエス」の症状は夜、眠ることができない。眠れるのは昼間だけ。太陽が出ている間に決して起きることができない。

「夢結核」を発病。「夢結核」は周囲の現実に影響を与える。感染する。

隔離病棟では個室で、先生の名は“まらき先生”看護婦が二人いて、“かむろぎさん”と“かむろみさん”

夜中に先生が診察にくる。狐のお面をしている。看護婦の二人も狐のお面をしている。

お面を取ると、顔には何にもなくて、卵形のもちみたいで真っ白。触るとういろうみたい。

ボクも鏡を見ると髪の毛も耳も目も鼻も口も、つるんと何もなくなっている。

先生が狐のお面をくれたので、それを被る。

年が明けて、三月十日の東京大空襲を病院の近くの高台に上がって、みんなで見物。

東京の空が赤く光っているのを見て、綺麗だね。

みな、お面を取る。何もない真っ白なもち顔が皆、赤く染まる

みな巨大化していく。どんどんどんどん巨大化していく。

空に頭がつっかえたが、赤く染まった頭はそらを貫通し、空の上にでる。

空の上に登れると知ったみんなは、空の上に登り、空が床になり、空の上に広がる星々の中から空のしたを眺める。

アキちゃんとの別れ。

・・・2011年3月10日が来る。東京大空襲から66年経っていた。

次の日、みなで線香花火をすることになる。

空の上から巨大化したみんなで線香花火のぐつぐつ溶けた玉を空の下に狙って落とす。

線香花火の火花が盛大に出てる時、タイミングを見計らって、ぐつぐつの熱い玉を落とす。

夕陽の滴がたらりと落ちた。ビルがジュージュー溶けてった・・・





                   おしまい


主題は「祟り」。

現在の日本、日本人に対する、過去から、ご先祖様から、本来の日本、日本の神々による「祟り」。

途中で大東亜戦争末期から敗戦後の台湾と満州の話を挿入。原爆と原発の幻想描写は二重構造。イメージとして覆い尽くすのはグツグツ煮立つ巨大な線香花火の玉と目玉。裸電球。

This novel was written by kipple

(これは小説なり。フィクションなり。妄想なり。)