妄想太宰
昔から、ふっと気づくと近くに妄想の人が去来する。
1人でいる時とは限らぬが、だいたい1人の時が多いんだな。
十代の頃から、よく、太宰治と三島由紀夫が現われた。
横っちょに来たり、上半身だけ空中に浮いてたり、道ばたでひょいと見ると塀の上に立ってたりする。
あっしに向かって、何か忠告じみた事を言う事が多かった気がする。
あっしはもう50過ぎのオッサンだが、何年か前から、太宰と三島に、寺山修司が加わった。
以前は、他にも時々、埴谷雄高なんかが妄想の中に出現する事があったが、結局、最近は太宰、三島、寺山が一番多くなった。
じっくり語り合ったり、意味不明な感じで去っていったり、色々だ。
てな事を書いてるのは、さっき、ちょっと太宰はんが、いたずらっ子のように、あっしの背中を“わっ!”っと押して現われたからだ。
こんな感じだ。
きっぷる“わっ!太宰さん!ビックリしたぁ!脅かさないでくんさいよ!”
太宰治“おわ!どっから湧いて来たんだ!ってかぁ!ははは!ダスゲマイネ!”
きっぷる“へへへ・・・あっしは太宰はんの事、本当は、よぉ聞いて知ってまんねん!”
太宰治“な・なに?それは初耳じゃないか!あ!き・君は・・・何処か似てる・・・似てると思ったら例の・・・レーゾンデートル!”
きっぷる“ふふふ、今まで言いませんでしたがね!あっしは例のね、例の反物屋の孫ですよ!”
太宰治“なんだってぇ!ほ~う!ビックリしたなぁ!アップリゲェ~ルのあっぱれげ~るのエランヴィタールだね”
きっぷる“で、今宵は何だか言いたい事があるみたいっスねぇ?なんすか?”
太宰治“お!そうなんだよ!よく聞きたまえ!
いいか? あらゆる悪夢は現実化され、あらゆる理想は見捨てられる!
それが!この世の正体だ!
フッ ”
と、太宰はんは、あっしに言い放ち、サッサと去って行った。。。
・・・幻覚幻聴じゃないよ。妄想だよ。
かくして、今宵は、妄想太宰はんがやって来て、あっと言う間に去って行ったのさ。
あっしの祖父が井の頭公園のそばに住んでいて反物屋をやっとったのは事実で、万助橋で太宰はんが心中した時の騒ぎの事も小さい頃から親に聞かされておる。
昔、玉川上水の万助橋のあたりはかなりの水かさがあり、すり鉢状で一度落ちたらなかなか這い上がれなかったそうじゃ!
ああ!妄想の人たちよ!ああ!電波に乗ってやってくる!あっしのオツムにやってくる!オツムの中に湧いてくる!
今宵はアッサリしてたなぁ。それで、何が言いたかったの妄想太宰!だから何なの?妄想太宰!
次は、じっくり語り合いたいな。
終
This novel was written by kipple
(これはエッセイなり。特にフィクションという訳ではない。妄想だが。)