元祖・東京きっぷる堂 (gooブログ版)

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「雨族」 断片26-風のなかで眠る女:「1章・風の高原」:kipple

2009-12-28 00:32:00 | 雨族(不連続kipple小説)

ようこそRAIN PEOPLES!超バラバラ妄想小説『雨族』の世界へ! since1970年代


               「雨族」
     断片26-風のなかで眠る女
            「1章・風の高原」


 高い丘だ。あらゆる方向から強い風が吹き、無数の細かく丈の低い草が不揃いに揺れている。太陽が世界からあふれだしそうなくらいに輝き、丘を照らしている。

 僕は滑空してゆく。大空の遙か天辺から物凄い勢いで空気を滑っていく。その丘を目指して。

 雲間を次々と過ぎ、丘は次第に僕の視野を占領していく。ぐんぐんぐんぐん下りていって丘が僕の視野の全てになった時だ。僕は綺麗な女を見つける。

 彼女は丘の風に揺れる草原の中で、すやすやと午睡をとっている。僕はどんどん彼女に近づいていく。

 ふいに、僕自体の存在感が消失し、彼女を取り囲む現象だけが広がる。僕自身の存在感が消えたせいで、僕はどんな位置からでも彼女を観察する事ができる。真上からでも、真下からでも、内臓の中からでも。

 僕は真上から観察することにした。

 彼女は完全に眠っている。いったい、いつからここで眠っているんだろう。なんて気持ちよさそうな寝顔だろう。こんなに気持ちよさそうな人の顔なんて見たことが無い。輝いて眠っている。

 彼女は痩せてもいないし太ってもいない。背も高くないし低くもない。顔だって、それほど美人じゃない。でも、彼女は僕が今まで見たこともない輝きを有している。それも完全な輝きだ。これ以上は存在を許されない。

 世界で一番輝いて風の丘で眠り続けている女がいる。僕は彼女を知っている。いつも観察を続けている。ずっと、ずっと。生まれて以来、そうしている。彼女が目覚めない限り、僕はここから出られない。ずっと前から分かっている。僕は気が遠くなる程、滑空を繰り返し、彼女の風の丘に到達し、じっと見つめる。彼女はいつも、すこやかに眠り続けている。僕の事なんか少しも気にしてくれない。

 彼女は夢を見ている。長い長い夢を見ている。

 僕は来る日も来る日も滑空して彼女を見つめて目覚めることを期待している。閉じた輪だ。フィンガー・トラップだ。僕は僕が生れる以前から、これを続けているような気がする。ずっとずっと前から。何十億年も前からだ。宇宙の発生からずっとだ。たぶん、宇宙の終わりまで、ずっと。

 僕は何だ?彼女は何なのだ?再び、僕は雲間を滑空している。また彼女に、風の丘で眠り続ける彼女に会える。それは、それで永遠にうれしい事だ。

 僕は何とか物質世界で生きている、もう一人の僕に働きかけなくちゃいけないなと思う。彼は、この永久ループを解除するキーを握っているんだ。





断片26     終


This novel was written by kipple
(これは小説なり。フィクションなり。妄想なり。)