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「雨族」 断片23-焼却場Ⅶ~落合さんによる説明:kipple

2008-02-02 00:45:00 | 雨族(不連続kipple小説)

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               「雨族」
     断片23-焼却場Ⅶ~落合さんによる説明


落合さんは、よく見ると、とても疲れた顔をしていた。

彼は、もう自分のすべての役目は終わってしまい、あとはただ何となく運命どおりに訪れる死を待ちながら生きるしかないんだ、そんな顔をしていた。

若々しく見える微かな笑顔の裏に僕は悲しい老いの顔を感じた。

まばたきの間に僕は、いたるところに肝斑に覆い尽くされ、極度に老化し、皺だらけの千匹のみみずが蠢く様な醜悪な死の素顔を垣間見た様に思った。

彼のクラウネン家に仕えてきた長い長い生は、D・クラウネンの死によって終焉を迎えようとしているようだった。

落合さんは、死の影を潜め棲ませながらも、いつもながらの静かな微笑と落ち着いた紳士的なトーンで僕に言った。

「こうして、また、あなたと会えるなんて。奇跡みたいです。ずいぶん久しぶりですね。まるで世界が終わって、生き残った二人が偶然再会したような気がします」

落合さんは、ぽつんと雨の中で佇んでいる子供のようだった。

僕はしみじみとした。

いみじみ、しみじみ。

落合さんは、きっと「メステル」たちのいる深海世界に戻りたいのだろうな、と僕は思った。

永遠で誰も欲せず誰も傷つかず誰も歳をとらず誰も死なない究極の数学の向こうにある理想の地に。

F・クラウネンは、そのどこを見ているのかわからない目で死体の隅々を、まるで毛穴のひとつひとつを封印するかのように観察していた。

外の雨が次第に烈しさを増してきたようだった。

ボバババババァァと、時折、樹木からごってりとした葉をつたわって大量の雨水の落ちる音が聴こえた。

F・クラウネンを無視して、僕と落合さんは話し続けた。

僕が落合さんにいろいろ短い質問をし、それに落合さんがとても丁寧に答えてくれた。

僕は、D・クラウネンが射殺された状況とその後の処理の事を尋ねた。

「私は長い間、小平の屋敷でいろんな事をやりくりしていて市外には、ほとんど出る事がなかったのです。つい、一週間前の事です。三ヶ月ぶりに動力ぼっちゃまが帰っていらして、
-{僕は死ぬからね、すべては弟の{えふ}が引き継ぐ。{えふ}は死海のクムラン洞窟から帰っている。彼は死海文書以前の写本を見つける事はできなかった。がっかりして帰ってくる。彼の怒りをわかってやってくれ。彼は僕みたいに全知能力は持っていないが希望を持っているんだ。あらゆる希望は大切なものだ。もしかしたら宇宙の白痴プログラムをひん曲げる事ができるかもしれない。大切なのは物質的な様相が、どうということではなく彷徨える意識の方向なのだ。僕は物理的な成り行きのすべてを知っているが彷徨える意識の成り行きはわからない。僕は最近、絶対法則・・パラダイム・・に逆らってインド洋くらいの反吐をはいてもいいんじゃないかという気持ちになっているんだ。しかし、自分の死には逆らえない。僕はね、落合!一週間後に死ぬんだ。でも一石を投じておく。僕の後継者となるシリウスへのデータ通信者に対してね。いいかい、落合、これから伊豆の辺鄙な山の中にいく、そこで僕は死ぬ。後処理を頼む。警察を近づけるな。そして火葬にしろ。完璧に僕が灰になるまで焼き尽くせ。そこでだ、僕が焼かれていく時にこの呪文をとなえるのだ。僕の脊髄が焼かれる時、データはシリウスに送信され、次のデータ送信者への引継ぎがおこなわれる。この呪文はデータ送信者に待ったをかける事になる。わかるか?これは僕の既決宇宙の法則に対する唯一の反逆なんだよ}-
 と言われました。なんだか、とてもウキウキしているようでした」





断片23     終


This novel was written by kipple
(これは小説なり。フィクションなり。妄想なり。)