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個人日記兼つれづれなるままに

不動産賃貸に関わる更新料返還訴訟(2)

2009年10月07日 | 不動産
 (2) 双方の主張を見てみる。

 敷引きに関する法的な性質を賃借人及び家主側からの主張をそれぞれ見てみよう。
まず①及び②であるが判決文からまとめてみた。なお原文の判決文はだらだらと書いて
あるので文章をエクセルファイルに落として見やすい形に直してみた。



 ①の自然損耗に関してはいわゆる原状回復の為のコストを誰が払うかといっ
た点に尽きる。特に原状回復といっても賃借人通常使用により生ずる損耗。す
なわち、自然損耗に関しては賃借人には原状回復義務はないというのが、現在
の大方の見方だ。これは国土交通省の原状回復トラブルガイドラインにもうた
われており、通常損耗に関しては家主がそれらを含めた値段を賃料に含めると
いうのが今の見方となっている。下図の通り、不動産の賃貸借契約においては
原状回復費用は通常使用・経年変化にともなう回復と故意・過失に伴う部分に
わかれるが、家主側は当然貸す際に経年変化・通常使用にともなう減耗を予測
して貸すわけであるから、賃料に入っているというのが現在の解釈だ。

            (出典) 国土交通省原状回復トラブルガイドライン


 ②のリフォーム費用に関しては家主の味方をしてあげたいところだ。確かに長期で
借りてもらえるなら問題はないが、短期間で退去されるとやはりコストが結構かか
る。クロスの交換とか発生するし、予測不能な部分は確かにあるが、それでもこの主張
は厳しい。でもって裁判所の見解はやはり賃借人と同じく。個人的にも賃料に敷引きの
ような形で回収するというのは大家としては理想だが、それは賃料でと言われてしまう
と、はいそうですねといわざるを得ない。というわけで裁判所の見解は以下の通り。



 ③及び④だが、両方の主張をまとめると下の表のようになる。空室損料という言葉は
初めて聞いた。こんな考えがあるのかと少し感心。賃貸契約の謝礼というのは苦しい。
恐らく賃貸契約を締結した際に礼金をとったのではないかと想像するが二重にとるのか。
正直同じ大家としての立場でも理解に苦しむ。



同じ家主としては味方をしてあげたいところだが、やはりロジックとしては厳しいだろう。
空室リスクを賃借人に転嫁すると読めるが、それでは大家はリスク負担をしないと聞こえ
てしまう。賃貸契約の謝礼という点ではやはり「礼金」という言葉が問題だ。外国人など
はこの「礼金」という言葉を聞くと怒るといわれているが、それはそうだろう。金を払って
借りるのに相手に感謝しろとはいったい何様だと言いたくなるだろう。本来は減価償却分
や賃料の一部として説明するのが最も適切な説明だろう。ということで裁判所の見解は思った
とおりというか、まあ普通そうだろうという結論。いくらなんでも空室リスクの転嫁がで
きるとか、謝礼というのは苦しすぎる。というわけでやはり裁判所もばっさり。



 でもって、⑤と⑥は最も注目してよい事項だろう。



 敷引きは前払い賃料との性格と中途解約権の対価として家主が受け取れるとの主
張であるが、実はこれは更新料の法的な性質と微妙に関わってくる。後述するが、
更新料にも中途解約権の対価として家主側が主張しており、中途解約権の対価が敷
引き分と更新料ののどちらにも登場する。家主を応援したい気持ちはあるのだが、
どう考えても同じ名目で2重取りとの印象をぬぐえない。また更新拒絶権の放棄の対価
として更新料が登場しているが、中途解約権と似たような権利の対価を大家が別々
に受け取れるとする主張はさすがに苦しい。ということで裁判所もばっさり。



 要するに敷引きという関西特有の慣習に個人的に納得できないことからくるので
あるが、裁判所見解と同じくお金を取る方便として敷引きが利用されてきており、実
質的な賃料を賃借人に隠す目的があったと言われてもしかたがない。とまあ、敷引き
関してはあまり京都の大家の肩はもてないのだが、問題は更新料の方だ。更新料は関西
関東問わず、一般的に存在する慣習であることから敷引きを否定する裁判所がどのよ
うな見解を持つのかは極めて重要だ。
 (続いたりする)

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