東京 DOWNTOWN STREET 1980's

東京ダウンタウンストリート1980's
1980年代初頭に撮影した東京の町並み、そして消え去った過去へと思いを馳せる。

生誕120年 木村荘八展@東京ステーションギャラリーを見る。

2013-03-26 21:32:05 | イベント
 年初にこの展覧会のことを知り、首を長くして待っていた。3月23日(土)から始まった、木村荘八展である。場所は、すっかり工事も終わった東京駅丸の内北口にある東京ステーションギャラリー。このギャラリーには、随分前に東京駅に関する展示を見に来たことがあるが、工事中は閉まっていたこともあって、久し振りの訪問になる。今回は、東京ステーションギャラリー再開記念とも銘打たれている。



東京ステーションギャラリー再開記念
生誕120年 木村荘八展~花の東京東に西に
場所:東京ステーションギャラリー
会期:2013年3月23日(土)~5月19日(日)
開館時間:平日 午前11時~午後8時
     土・日・祝日 午前10時~午後6時(入場は閉館30分前まで)
休館日:毎週月曜日(月祝の場合は開館、翌火曜休館)
入館料:一般900円、大・高生700円、中・小生400円


ステーションギャラリーは、東京駅丸の内北口の中にある。

 このブログでは、再三に渡り木村荘八のことは取り上げてきた。とはいえ、今の時代、ちょうどエアポケットの入ったように荘八は忘れられているように思う。私にとっては、荘八の作品をまとめて生で見ることの出来る機会というのは、本当に嬉しいことなのだが、果たして一般的な人気となると如何なものかと心配している。



「木村荘八は、明治26(1893)年、東京・日本橋(吉川町:筆者注)のいろは牛肉店第八支店に生まれました。京華中学校卒業後、いろは牛肉店第十支店(浅草)の帳場をまかされます。同時に、兄・莊太の影響で文学や洋書に興味を持って読みふけり、小説を書くなどしますが、明治44(1911)年、長兄の許しを得て葵橋洋画研究所(旧白馬会研究所)に入り、画家を志します。
 そして、岸田劉生に出会い交流を深め、大正元(1912)年、斉藤與里の呼びかけで」劉生らとともにフュウザン会の結成に参加、翌年には東銀座(釆女町)の第三支店を離れ独立、美術に関する翻訳や執筆を続けながら、洋画家として活躍を続けました。大正4(1915)年、草土社の結成に参加、大正7(1918)年に第五回再興日本美術院展で樗牛賞を受賞しました。大正11(1922)年の春陽会設立に客員として参加し、2年後に正会員となり、同会にて代表作を発表。昭和10(1935)年からは事務所を引き継ぎ、会の運営を支えました。
 大正13(1924)年以降、挿絵の仕事が増え、昭和12(1937)年に永井荷風の新聞連載「濹東綺談」の挿絵を担当、東京の下町風俗を独特のタッチで情緒深く表現し、大衆の大人気となりました。彼は西欧の美術を翻訳紹介するグローバルな視野を持ちながら、江戸につらなる感覚、身近な風景、そこに住む大衆の風俗といった、自らが住む東京を幅広く、時には狭く深く切り取りながら、絵や文章で表現しました。その集大成ともいえる『東京繁盛記』(没後の刊行)の絵と文により、亡くなった翌年の昭和34(1959)年、日本芸術院賞恩賜賞を受賞したのでした。
 本展では、荘八の代表作「パンの会」(1928年)、「牛肉店帳場」(1932年)、「浅草寺の春」(1936年)といった油彩等約70点、「濹東綺談」(1937年)34点、「東京繁盛記」(1958年)数十点の挿絵原画に加え周辺作家の作品も紹介します。東京での20年ぶりの回顧展にて、荘八描く東京界隈をお楽しみ下さい。」(パンフレットより)

 平日に行ったのは、とにかくのんびりとマイペースで、しかもじっくりと絵を見たいと思ったからだが、その狙い通り、昼過ぎに到着して入ってみたが、人出は少なめ。お陰で、誰に気兼ねすることなく、じっくりのんびりとマイペースで絵を見ることができた。展示は2フロアに渡っていて、三階からスタートして、二階へ下りていく形になっている。三階には、荘八の代表作である「パンの会」「牛肉店帳場」などの大作も並んでいたので、一通り見てから、二階に下りる前にもう一度戻ってじっくり見たりしていた。



 荘八の評価については、羽黒洞という画廊の名物店主であった木村東介氏が著書「ランカイ屋憂愁~鬼才荘八追想記」に詳しく書いている。東介氏は、荘八が世評の様なただの軽妙な挿画家ではなく、実は骨太な芸術であると書いている。ただ、荘八が金持ちの好む様な応接間や床の間に飾れる冨士や花や鳥を書かないから、世間が分からないのだという。
 私は今回の展覧会を見るまで、荘八の作品を生で見たことがなかった。印刷物で見る絵でも魅力は感じられたつもりでいたが、やはり生で見る絵の迫力は素晴らしかった。印刷では表現しきれないトーンの豊かさ、タッチの細やかさ、それらの全てが圧倒する迫力を醸し出している。

 「パンの会」は大きな作品で、暗めのトーンの中に豊富な描写がされている。実際に絵を見れば、華やかな絵であることがよく分かる。荘八全集の中に掲載されていた印刷物では、小さく、暗く、その魅力の多くが伝わってこないものだと感じさせられた。
 そして、「牛肉店帳場」である。これも縦の長さが人の身長ほどもある大作で、傍で見ているとそのまま絵の世界に入り込めそうな気持になるほどであった。この作品は、両国広小路にあった彼の生家である第八いろはを描いたものである。私が、荘八に入れ込むきっかけがここにある。私の曾祖父は、明治三十年頃から四十年頃までの間、荘八の暮らしていた第八いろはの狭い通りを挟んだ数軒離れた距離で商売をしていた。だから、その当時の様子を知る上で、荘八が多くのことを書き遺してくれていることは、この上なく有り難いことなのだ。そして、そんなご近所であっただけに、第八いろはに曾祖父、曾祖母など、行ったことがあるのだろうとも思っている。そんな思いがあるだけに、いつかはこの絵を収蔵している長野の北野美術館へ見に行きたいと思っていたのだ。

牛肉店帳場。


 それが、これほどのスケールで荘八の作品をまとめてみることができるというのは、正に幸運であるとしか言い様がない。私にとっては、至福の時であった。なにより、荘八の作品はどれもライブ感というのか、そういった描写が素晴らしい。大作の絵では、どの絵もその場の匂いまで感じられそうで、そのまま絵の中に入っていけそうに思えてしまう。「新宿駅」なども雑踏のざわめきが聞こえてくるようだ。そういった表現が実に緻密になされていることが、それぞれの絵を見ていくと良く分かる。「室内婦女」という作品も大判の作品だが、これなどは画面の中に鏡台が描かれている。鏡に掛けられた布の柄、布の質感、そしてそれが鏡に映り込んでいるところが僅かに見えていたりする。その後ろには針山があって、まち針の頭が並んでいる。それらを囲んで、一人の幼女と二人の女性が座っている。女性の一人は新聞を読んでいる。そんな絵なのだが、この絵も、そのままその部屋に入っていけるような気がした。どうにも、荘八作品は、私にはただの絵には見えない。私は荘八の絵にも心を奪われている。

新宿駅。


 大作の油絵も素晴らしかったが、濹東綺談を始めとする挿画作品も数多く展示されている。こちらは二階に展示されていて、玉の井の町も歩いて見た私にとっては、これも興味深く楽しめた。面白いのは、挿画作品に限っては、印刷物で見ても見劣りがしないこと。印刷物を最終作品として考えられているから、そうなるわけだが、この辺りにも荘八の技術の高さが窺える。

濹東綺談より。


 最後のコーナーには、「窓からの眺め」と題されて、荘八の終の棲家となった杉並の家の窓から見えていた景色を描いた作品が並んでいる。これらの作品は、少々淋しい。晩年の荘八はその盛名とは裏腹に、金銭的には楽ではなかったようだ。好きなように出掛けていってという訳にもいかず、我が家に籠もっていつつ、技術の研鑽を思い、絵を描き続けていた。その荘八の気持と裏腹な境遇を思うと、そこに一抹の寂しさを覚える。
 荘八という人、江戸の下町気質に染まった人だけに、こんな状況はさぞや辛かっただろうと思う。楽観主義者で、お気楽で享楽的というのも、その特性でもある。その一方では、感性の合わない相手とは付き合えない狷介さも持ち合わせている訳でもある。

 とにかく、この展覧会、私はお薦めしておきたい。木村荘八という人の歩んだ姿が一望することができ、その作品に耽溺することができる。こんなスケールで荘八作品を見ることが出来る機会は、そうはない。



 そうそう、最後に図録も購入した。このギャラリーは三階から見て、二階で終わりなのだが、出てくると、丸の内北口の駅舎内の回廊に出てくる。そこから駅の中の眺めを楽しんだ後に、ミュージアムショップに入った。色々と楽しげなものが並んでいたが、ぐっと堪えて、図録購入。価格は2、200円と少々高価だけど、手に取れば納得。荘八の絵の目録になっている。私は荘八の全集を持っているが、これと並べれば、非常に素晴らしい。それでも、この本の中の「パンの会」などはシャドーが潰れていて、この絵の凄味が伝わってこない。やはり、生で見てこそだったと、改めて思う。この図録を読み込んでから、また行きたいと思う。四月の末に一部展示替えがあるということだが、私は二度三度と足を運びたい気持になっている。

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