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「加藤正回顧展 発光と残像」






先日、『加藤正 回顧展 発光と残像』へ出かけた。会場は、わが家から車で20分ほどの高鍋町美術館(宮崎県)だ。こういう美術展は少ないだろうと思って出かけたが、全くその通り。駐車場には職員のものらしき車以外は、たった1台。こういうと書いたのは、一般に前衛美術と称される作家の展覧会だからだ。加藤正という人は、戦後日本の前衛美術の先駆者とも言われる瑛九(えいきゅう)らと1952年、「デモクラート美術家協会」を結成した人だ。瑛九は宮崎市出身であり、加藤正は宮崎県串間市出身だ。
回顧展は、写真撮影OKだった。だが、出がけに急いでいたのでカメラを忘れた。途中で思い出したが、「まぁ、いいか」と、会場へ急いだ。なので、写真はポケットに入れていた古いスマホで撮ったものだ。
最初の部屋に入ると、高校生と思える男性が椅子にポツリ。ちょっと窮屈そうに座っていた。他の部屋にも高校生と思しき女性が座っていた。あとで聞けば、佐土原高校生の体験だったようだ。ところで、見初めてすぐに、録っておくべきものだと感じ、受付に取って返し、図録の有無を尋ねた。「いいえ、詩集みたいなのはありますが・・・」という応え。あぁ残念。ということで、気になったものだけでも写真におさめることにした。初期作品は、強い色調でインパクトが強く、どこか岡本太郎を感じさせた。それもそのはず、案内チラシには、「当時革新的存在であった瑛九や岡本太郎と出会い、その姿勢に共鳴する。」とあった。だが、時を経て独自の作品へと変化していく。
地元民放の紹介では、加藤正のことを「反骨の画家」というフレーズで紹介していた。「反骨」とは、辞書には「権威・権力・時代風潮などに逆らう気骨。」とある。東京藝大在学中の作品から晩年の作品まで見ると、「うむ!」とうなずかざるをえない。展示総数は約80点だ。


とむらいの朝

「いいな〜!」と感じた作品は、多数あったが、チラシに掲載されていた『とむらいの朝』に感じたことを、書いておきたい。左側にチェック柄をまとった馬の頭部、その後ろには馬の胴体なのだろうか包帯をぐるぐる巻きにされた黒い物体。会場には、たしかこの絵の解説もあったはずだが、それには目を通さなかった。馬の眼は白っぽい灰色で、その左斜め上に少し濃い灰色の目が浮かんでいた。少し死臭も感じる絵だが、見ているうちに、ブニュエルとダリが作った映画『アンダルシアの犬』を思い出した。冒頭、女性が目玉を剃刀で切られるあの映画だ。ピカソやブルトン、マグリッドなどが拍手喝采で迎えたというシュールレアリズム初めての映画だ。もちろん、剃刀で切られた目玉は、実際は死んだ子牛の目だったようだが、映画には脈絡もなく、アリや蛾などが出てきた。一人の男が死んだロバが乗せられたグランドピアノや修道士を引きずり、女に近づく場面がこの絵と重なった。『とむらいの朝』の馬の頭や目が、ピアノの上の死んだロバの頭や目と同じように見えたのだ。単なる偶然だろうか・・・。

こういう絵に対して、エロスを主題にしたものや、「敗戦・ヒロシマ」、「汚染・沈黙の春シリーズ」、「原爆地下実験場」、「核・その静かなる影」、「ムルロア実験場」など現代社会が抱える巨大な矛盾に焦点を当てている作品群もあった。繁栄を競うように、高層ビルが立ち並び、多数の車が行き交い、インターネットという仮想空間が駆け巡る現代社会を、やはりこの人は「バベルの塔」として射抜こうとしていたのではないだろうか。
「生と死」を根底から見つめながら格闘した郷土の先人に敬意を払いたい。高鍋美術館には、良い企画をしてもらった。感謝したい。

◎企画展「加藤正回顧展 発光と残像」
令和4年10月15日(土曜日)~11月13日(日曜日)




核・その静かなる影


ムルロア実験場



尚、常設展示室で開催されていた『坂本正直 玄奘三蔵法師の旅』も実に見ごたえのある展示会だった。
◎『坂本正直 玄奘三蔵法師の旅』
令和4年9月23日(金曜日・祝日)~令和5年3月26日(日曜日)

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