■■【経営コンサルタントのお勧め図書】 世界最高峰の経営教室
「経営コンサルタントがどのような本を、どのように読んでいるのかを教えてください」「経営コンサルタントのお勧めの本は?」という声をしばしばお聞きします。
日本経営士協会の経営士・コンサルタントの先生方が読んでいる書籍を、毎月第4火曜日にご紹介します。
■ 今日のおすすめ
「世界最高峰の経営教室」(広野 彩子編・著 日経BP)
■ 「世界最高峰」の名に恥じない現代の必読書(はじめに)
世界の主流の経営学である「演繹的理論」「実証性経営理論」を日本に持ち込み、日本の経営学に一石を投じ、「世界標準の経営理論」を著作した早大の入山教授が序文で次のように述べています。『本書に出てくる17人の世界的な経営学者・経済学者は豪華。よくぞこれだけのメンバーを集めたものだ。「世界最高峰」の名に恥じない、現代の必読書』と。
一方著者は“おわりに”で面白い感想を述べています。『好奇心のおもむくままアプローチし、一見まとまりがないように思えたものが、一つのテーマに貫かれていたことに気づいた。それは、「どうすれば日本人の意識や行動が、環境の変化に合せて進化していけるのか」だ。これは、どの教授に対しても“日本ではこうだが、この現状からどうしたら変われるか、どう変わったら生き残れるか”という質問を投げかけていたから』と。
私は、入山教授のここまでの称賛を読み、また、紹介本を編集・著作した著者が17人の世界的な経営学者・経済学者と対談した背景を知り、紹介本が“激変する環境の中で、日本企業が如何に変化・進化し生残っていくか”についての有意義な示唆を与えていることに納得をしました。
加えて、紹介本は経営学者・経済学者の理論を紹介するのではなく、著者の上記Q(質問)に対する経営学者・経済学者の熱意溢れる日本企業へのA(アドバイス)を対談調で記述しており、判り易く、示唆に富んだ知見を発信しています。
その様な示唆の中から最も注目した“経営教室”を次項でご紹介します。字数の関係もあり、ご紹介は1項目だけですが、他にも有意義な“経営教室”が多くあります。是非、紹介本を手に取りお読みください。
■ 「世界最高峰の経営教室」に見る“日本の企業経営に示唆となる知見”
【変化対応力を高める方法論「ダイナミック・ケ-パビリティ」】
「ダイナミック・ケ-パビリティ」論の提唱者、米カリフォルニア大学バークレー校デビッド・ティース教授の登場です。ティース教授は「知識創造理論」を提唱した野中侑次郎教授とバークレー校で一緒に教鞭をとった間柄で、個人的にも親しいことは勿論ですが、「ダイナミック・ケ-パビリティ」論と「知識創造理論」との親和性を見出すことができ興味を覚えます。
「ダイナミック・ケ-パビリティ」とは、「組織とその経営者が急速な変化に対応するために、内外の知見を結合し、構築し、組み合わせ直す能力」と定義されます。
仕組み的には、『「Sensing(センシング〔察知:予測⇔挑戦〕)」、「Seizing(シージング〔獲得:解釈⇔意思決定〕)」、「Transforming(トランスフォーミング〔変容:学習⇔調整〕)」を実行する能力』と表せます。(以下この枠組みを、その英単語の頭文字をとってSSTと呼称する。)
実践的には、「長期的な戦略を探索するため、ダイナミック・ケ-パビリティの核である、「分権化(組織の上下関係が緩くフラットで協働する組織)」と「自己組織化(ビジネス機会を見つけると俊敏に社内起業の形でビジネスがはじまる組織)」をプラットフォームに置き、市場における機会や脅威を察知し、新しい価値・事業創造のための人材や資源を動かし競争優位事業モデルを獲得し、その新たな事業のガバナンス体制を整備し、学習と調整により日々変化に対応しながら、定期的に主要な戦略を変容させ、最終的に“まねできない”事業を確立する展開」と表せます。
世界のダイナミック・ケ-パビリティ企業として、日本では唯一トヨタが「自己組織化」に成功している企業として挙げられています。トヨタは、SSTと親和性の高いトヨタ開発方式の「LAMDA」(Look;観察する、Ask;質問する、Model;モデル化する、Discuss;議論する、Act実行する)を活かし、次世代市場の自動運転においても、競争力を発揮しています。(「トヨタ、自動運転の特許競争力、IT系を逆転し世界2位」〈日経2021.5.17朝刊〉)
ダイナミック・ケ-パビリティに関連して面白いことを発見しました。それはティ―ス教授が「ドラッカーの語録を私が理論化した」と言っていることです。
ティ―ス教授は、ピーター・ドラッカーの『「マネジメント」は物事を正しく行うことであり、「リーダーシップ」は正しい事をすることである』を形式知化し、「リーダーシップ」の概念を「ダイナミック・ケ-パビリティ(変化に応じた自己変革による新しい価値・事業の創造)」、「マネジメント」の概念を「オーディナリー・ケイパビリティ(現状の利益の最大化)」と置き、この2概念を対比軸に置き、変化対応力を高める組織イノベーションを達成する「ダイナミック・ケ-パビリティ」論を構築したのです。まさに、ドラッカー思想のフレームワーク化を目指したのです。
■ 「世界最高峰の経営教室」から得た示唆を経営に活かそう(むすび)
前項で採り上げた“特に注目した経営教室”は、私たちの経営に活かせる興味深い内容でした。他の“経営教室”にも、それぞれの立場に応じた有意な示唆を見つけることが出来ます。得られた示唆を経営に活かしたいですね。
【酒井 闊プロフィール】
10年以上に亘り企業経営者(メガバンク関係会社社長、一部上場企業CFO)としての経験を積む。その後経営コンサルタントとして独立。
企業経営者として培った叡智と豊富な人脈ならびに日本経営士協会の豊かな人脈を資産として、『私だけが出来るコンサルティング』をモットーに、企業経営の革新・強化を得意分野として活躍中。
https://www.jmca.or.jp/member_meibo/2091/
【 注 】
著者からの原稿をそのまま掲載しています。読者の皆様のご判断で、自己責任で行動してください。
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